京セラの谷本秀夫社長
京セラにとって2025年は成長軌道への回帰に向けた勝負の年となる。
注力する半導体部品で生成AI(人工知能)関連の需要をとりこめなかったこともあり、2025年3月期は3期連続の最終減益を見込む。外部の活力を取り込むため大型のM&A(合併・買収)を検討し、巻き返しを図る。谷本秀夫社長に戦略を聞いた。
――半導体関連では回路などをほこりや衝撃から守るパッケージ、電子部品では電気をためたり放出したりするコンデンサーが苦戦しています。
「半導体チップを載せて電子機器の回路などとつなぐ有機パッケージについては、AI向けでは食い込めていない。おそらく25年も業績は思わしくないだろう。
ただAI向けはパッケージの大型化が求められており、これに対応したパッケージの開発には力を入れていくつもりだ」
「コンデンサーではデータ記憶装置向けの需要増を見込んでいる。ただ主力供給先である欧州で自動車生産が低調なため、車向けは厳しそうだ。スマートフォン用も踊り場にあり、全体としてV字回復は難しい状況だ」
――筆頭株主で約16%保有するKDDI株は今後5年かけて持ち分の3分の1を手放す予定です。
「保有株の売却で時価ベースで5000億円規模のキャッシュが生まれる。この資金を生かし、大型のM&Aを検討する。
売上高の2割を稼ぐ電子部品や(工作機械に取り付けて部品などの金属加工に使う)切削工具関連を想定しており、2000億〜3000億円規模の企業や事業の買収も可能となる。5年以内には実現したい」
――これまで設備投資には積極的でした。
「26年3月期の設備投資も25年3月期計画(約1600億円)並みを見込んでいる。比較的堅調な半導体製造装置向け部品への投資に力を入れている。
装置内には軽量で剛性や耐熱性が高いセラミックス部品が多く使われており、長崎県諫早市には27年3月期の稼働を目指して新工場を建設中だ」
「人材確保が難しくなっており、既存工場の生産効率を高めるための投資も必要だ。
自動車から半導体まで幅広い部品を手がける当社の国内最大の生産拠点である鹿児島国分工場(霧島市)でも(先進的なデジタル技術を取り入れた)スマートファクトリーの構築に向けて施設の拡張を目指している。24年12月には近接地に11万平方メートルの土地を取得した。3割近い増床となる」
多角化路線、修正できるかが焦点に
京セラの25年3月期(国際会計基準)の連結純利益は前期比30%減の710億円を見込む。厳しい業績を立て直すため、不採算事業の整理など事業ポートフォリオの見直しにも着手している。
今後成長が期待できない事業を「ノンコア」(非中核)と位置づけ、26年3月期までに順次切り離す方針だ。連結売上高の1割に当たる2000億円規模の事業売却を予定している。
稲盛和夫氏が1959年に創業した京セラは、セラミックスの加工技術を核に複合機や医療器具を含めて15分野まで事業領域を広げてきた。
現状では「事業ごとの売り上げではなく、利益水準に重点を置く」(谷本社長)。25年はこれまでの多角化路線の修正を完遂できるかに注目が集まる。
(角田康祐)
日経記事2025.1.21より引用