村田製作所の中島規巨社長
関西のエレクトロニクス産業が試練の時を迎えている。中国の景気減速で自動車から産業機械まで幅広く使う電子部品の需要は落ち込んだ。
関西の電機各社が業績低迷に苦しむ中、回復に向けて着実に歩を進めるのが村田製作所だ。いち早く人工知能(AI)分野に注力し、2025年3月期には3期ぶりの増収増益を見込む。中島規巨社長に展望を聞いた。
――エレクトロニクス業界にとって25年はどんな年になりますか。
「まずデータセンターなどAI関連のインフラ整備が世界で本格化する。この分野で電子部品などの需要の伸びが見込める。
例えばデータセンターに設置するサーバーなどは大量の電気を使うため、電流を制御する積層セラミックコンデンサー(MLCC)と呼ぶ電子部品を大量に搭載する必要がある」
「MLCCの使用数量は従来の通信用サーバーの5〜10倍に上る。AI向けのMLCCは単価も高く、年率2倍以上のペースで拡大するとみている。
MLCCは当社の主力製品だが、AI関連でさらに事業機会を増やしたい。大容量の電流に対応したより小型の製品などを投入していく」
「一般的に電子部品は15年周期で市場が盛り上がる。パソコンや携帯電話、スマートフォンなど新しい技術が登場し、完全に普及するまでには関連するインフラ整備を含めてそれくらいの時間がかかるためだ。
この経験則からみるとAIの広がりでピークを迎えるのが2030年ごろになるだろう。関連する電子部品の市場が拡大する」
――今年4月からの新年度からは新たな中期経営計画が始まります。
「3カ年計画で、28年3月期に連結売上高を24年3月期比22%増の2兆円以上に引き上げる目標を掲げている。AIとともに成長をけん引するのが、現実空間を仮想空間で再現する『デジタルツイン』と呼ぶ領域だ」
「デジタルツインの活用例としては工場の生産ラインを仮想空間上で設計する『スマートファクトリー』などが考えられる。まず仮想空間でシミュレーションすることで効果的で効率的な生産工程を開発することができる。こうした仮想と現実の空間を結ぶための通信機器やセンサーなどに当社の商機がある」
――事業をどう高度化しますか。
「当社では標準的な電子部品単体を『1層目』と呼び、組み合わせてモジュール(複合部品)化したものなどを『2層目』としている。
部品一つ一つを売るだけではなく、需要先のニーズをくみ取り、付加価値を高めて提案する事業モデルを増やす」
「スマホや自動車といった分野ごとにターゲットとなる中心的な顧客を設定し、その分野で我々が貢献できるモジュールを開発・提案している。各分野で1、2番手の顧客に採用されると、他の同業にも売り込みやすくなる」
――長期的に成長が見込める事業はありますか。
「ロボティクスや宇宙関連が有望だ。ロボットの関節一つ一つにセンサーが必要で、宇宙向けにはより信頼性の高い電子部品が求められるといった市場ができる。
当社の顧客も従来のパソコンやスマホメーカー以外に広がっていく。新興企業との協業などで早期に市場をつかみたい」
部品とサービス組み合わせ重要に
村田製作所の積層セラミックコンデンサー(MLCC)は世界シェアトップで全体の40%を握る。小さいものは一辺が1ミリメートル以下となる直方体の製品で、スマホには1000個程度組み込まれている。
村田は品質を維持するため、材料や製造装置を自社で造る。AI領域でも需要を取り込み、31年3月期には世界シェアを43%と現在から3ポイント引き上げる考えだ。
とはいえ、AIやデジタルツインなどに関わる通信関連で新規顧客の開拓はたやすくない。相手先のイノベーションの速度に対応し、ニーズをつかむ必要がある。
電子部品でも技術や品質を磨くだけで売れる時代ではなくなっている。
中島社長が掲げるモジュールを中心とした戦略には、モノとソフトウエアなどのサービスを融合させた新しい収益モデルの構築も含まれる。
高い技術もさることながら、技術を生かす外部との対話力も成長のカギを握る。
(新田栄作)
【「関西企業、2025年展望」連載記事】