トーマス・グラバー 第一章 トーマス十二歳、生まれ故郷を後へ アヘン戦争で飛躍したJM商会
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船舶仲買業に就職
十六歳でギムナジウムを卒業したトーマス・グラバーは兄達、チャールズとジェームズの勤める船舶仲買業へ就職したといわれるが、はっきりとしたことは分からない。
ただグラバーは伝票付や、在庫管理などの事務の仕事には全く興味がなかった。 同じ船舶仲買業でも、自らの会話と営業力で大きな船舶の売買、あるいは鯨や、大量の魚の売買等に直接タッチできる仕事に大きな魅力を感じていた。
若い男としてそれは当然ともいえることだろう。 しかし、細かな伝票付を嫌い、万事経営に大雑把だった彼の性格は、後に自らの会社、グラバー商会を大破綻させることとなる。
さて、ここからは筆者の推測が入る。 グラバーが細かな伝票付に飽き飽きしていた時、グラバーの心をときめかせる魅力的な話が飛び込んできた。
JM商会のことはすでに前述したが、トーマスの父、ベリー・グラバーは、スコットランドのフレーザーバラで勤務中、すでに大商社として名を馳せていたJM商会の代表者の二人、すなわちジャディーンとマセソンに会っている。
総合商社のJM商会としては、北海沿岸の警備隊長であるベリー・グラバーに会っておいて損はない。しかし、この時ベリーがスコットランド出身の二人に会ったのは、自分と同じく「フリーメーソンの仲間」であるということが分かったからである。
世界を動かすフリーメーソンの事は後に詳述するが、ベリー・グラバーはフリーメーソンの本拠地といわれるロンドンに於いて二〇第二入会、JM商会の二人は生まれ故郷、スコットランドにおいて入会している。
東インド会社がなくなった後、順調に業績を拡大していたJM商会は、一人でも多くの人材を求めていた。 そしてベリーは、自分の六人の男子のうち、とても人づきあいがうまく、直観力に優れた五男のトーマスのことを二人にPRし、JM商会の二人も「是非トーマス君を我が社にもらいたい」と、強く要請して別れたのであった。
父親ベリーはトーマスが商会事務員としての知識が一応備わったと見た十八歳の一八五七年一月、トーマスを伴い上海へと旅立つこととなった。
グラバーは、フレイザーバラの教会に通っていた頃、最も親しくなった男性生徒の一人にウォーカー・スミスと言う友人がいた。 グラバーは、ブリッジ・オブ・ドンに転居してからもスミスとは時折、手紙のやりとりをしていた。 スミスへ数通出した手紙の中、「エリザベートは元気にしてますか」との文章を書いたこともある。
グラバーからはるかに遠い清国のJM商会上海店へ勤務するとの手紙を受け取ったスミスは「もしかすると永別になるかもしれない」との思いを胸にグラバー出立の前日、彼の家に宿泊し、教会学校時代の思い出に花を咲かせた。
その折、スミスは「そうそうグラバー、君に話しておかねばならない事があった。 実は君から時々、彼女は元気かいと問い合わせがあったエリザベートは、ロンドン・シティの有力な銀行頭取の家へお嫁に行くことが決まったよ。結婚式は来年上げるそうだけど・・・」。
これを聞いた時のグラバーは脳天を鉄槌でぶんなぐられたような衝撃を受けた。 それでもグラバーは「そうか、それは良かったねえ。 エリザベートは器量は良いし、頭も人柄も良い。 あれほど三拍子そろった女性は滅多にいない。 きっと頭取の家に相応しい素敵なお嫁さんになるだろうね」。
スミスには何気ない様子を装ってはみたものの、グラバーの顔面は引きつり思わず涙がこぼれ落ちそうにな明日は早いから思い出話はこれくらいにしてもう寝ようか」。 その夜は早めにベッドに潜った。 だがエリザベートの愛くるしい笑顔は拭っても拭ってもグラバーの脳裏から消えなかった。
ほとんど寝付かれぬままに朝ベッドから起き上がったグラバーは、「よし、これでスコットランドに何の未練を残すことなく出立できる。 自分は生涯海外で暴れまくり、命を燃え尽きさせよう」。
自分の心にそう誓ったグラバーは、決別とした態度でアバディーンの港へと足を運んだ。
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この本には、歴史的に貴重な写真、図、文献なども数多く掲載されている秀逸な作品ですが、それらをPDF化して皆さんに紹介することもできますが、著者と発行所の『長崎文献社』に敬意を払って、全てを紹介するのは、控えたいと考えております。
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