1日、タイのピチャイ副首相兼財務相(右)と握手する茂木敏充幹事長(バンコク)
【マニラ=中村亮】
9月に想定される自民党総裁選で出馬が取り沙汰される候補が外交手腕を競っている。
当選回数の多いベテランが経験や人脈が重視される外交に強みを持ち、刷新感を重視する世論の反転を探る。若手も外国要人と接触を重ねて対抗する。
自民党の茂木敏充幹事長は1日、タイのバンコク中心部で運行する都市鉄道を視察した。
総事業費3300億円のうち円借款が8割を占め、日本の企業連合が手がけた。タイ国鉄幹部との面会で延伸計画を巡り「日本としてできる限りの協力をしたい」と意気込んだ。
発言の念頭にあるのが東南アジアでインフラ整備支援に力を入れる中国への対抗だ。
前日の7月31日、茂木氏はシンガポールのローレンス・ウォン首相との会談で「さまざまな角度から中国との関係は慎重に考えないといけない」と伝えた。相
手国に輸出規制などで圧力をかけて外交や安全保障政策で譲歩を迫る「経済的威圧」に警戒を促した。
茂木氏はシンガポールの港湾施設も訪れ、日本企業が加わる水素関連の実証実験を見学した。
東南アジア4カ国を回る外遊を通じ、インフラ輸出や脱炭素技術を通じて地域の国々との連携を深める戦略を発信している。
茂木氏は外相や経済産業相を歴任した。最近の講演では日米貿易交渉の責任者を務めた当時、トランプ大統領から「タフネゴシエイター(手ごわい交渉人)」と呼ばれたと触れる。
11月の米大統領選でトランプ氏が勝利しても渡り合えると示唆し、支持につなげたい思惑がにじむ。
防衛相を務めた石破茂元幹事長は超党派の議員団の一員として8月12〜14日に台湾を訪れる。中国の反発は必至なものの、台湾との関係維持に目配りすることで国内の保守層の支持を意識する。
米国は日本防衛の義務を定めた日米安保条約第5条の適用対象に沖縄県尖閣諸島が含まれると断言する。
それでも石破氏は有事の際に米国が動かない可能性があるとの持論を7月のラジオ番組で展開した。
中国、ロシア、北朝鮮と向き合う地域情勢の緊迫度合いを改めて検証し、日本としての対応策を議論する必要があるとの見方を示す。
自民党内では次期総裁の条件として外交の手腕を挙げる声が出始めた。森山裕総務会長は7月26日の記者会見で「国際情勢をしっかり分かっている方であってほしい」と発言した。
外交に焦点が当たれば、総裁再選をめざす現職の岸田文雄首相に追い風になる可能性がある。
4月には国賓待遇で米国を訪れ、日本の首相として9年ぶりに米議会で演説した。米国ではウクライナ支援に評価が高い。
外相時代にのべ100以上の国・地域を訪問した河野太郎デジタル相は、海外メディアの取材に英語で応じて国際派をアピールする。
7月には米メディアで世界が注目する日銀の金融政策について担当外ながら踏み込んで発言した。「政策金利を上げる必要がある」などと語ったことが、円急騰の材料となった。
高市早苗経済安全保障相は7月、イタリアで開催された主要7カ国(G7)の科学技術相会合に参加し、技術流出防止対策や宇宙空間の協力などを議論した。
安倍晋三元首相の側近の仲介で、トランプ政権で国務長官を務めたマイク・ポンペオ氏と面会し安保政策で意見を交わした。
総裁候補に名前が挙がる若手も発信する。
小林鷹之前経済安保相は7月、民間シンクタンクが主催した台湾有事に関する机上演習に参加した。
経産相役として貢献しカウンターパートの米国側から高い評価を得た。小林氏もポンペオ氏と会っており、X(旧ツイッター)に握手する写真を投稿した。
小泉進次郎元環境相は7月上旬、米国のエマニュエル駐日大使とともに福島県南相馬市でサーフィンを楽しんだ。
東京電力福島第1原子力発電所からの処理水放出の風評被害払拭に努めた。
自民党総裁選2024の日本経済新聞電子版(日経電子版)の特集ページです。最新の関連ニュースをまとめて読めます。任期満了に伴う自民党総裁選が9月に実施されます。岸田文雄首相の再選なるか、「ポスト岸田」を狙い新たな候補者が立つかなど、注目点をまとめました。
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日経記事2024.08.02より引用