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高島炭鉱の経営に乗り出す
グラバーが長崎へ降り立って約十余年、戊辰戦争が終わった頃の明治二年、グラバーの財産はかなりの額に達していた。 また、技術の知識にも秀でていたグラバー―は、長崎の大浦に蒸気機関車を走らせてみたり、大浦から少し先の海岸沿い小菅に『スリップ・ドッグ(通称そろばんドッグ)』を設立した。
これは蒸気船の修理場である。 この頃は、それまでの帆船から、さらにスピードの出る蒸気船が主流になりつつあった。 ところが日本が輸入した蒸気船は、中古船が多く呼称が絶えなかった。 このため修理場の必要性が叫ばれていた。
その必要性をもっとも訴えていたのが、ヨーロッパの視察から帰国した薩摩の五代才助であった。 五代の意見に同調したグラバーは、アバディーンの兄チャールズに連絡を取り、修理に必要な巻き上げ機、ボイラー、チェーン、レールなどの必要品を取り寄せた。
その際、これらの機器、備品を制作したアバディーンの『ホール・ラッセル社』の技師ウィリアム・ブレイキ―が、慶応三年の末、長崎に渡航、小菅で機器設置の指導、監督を行った。
蒸気機関車、小路が修船場に引き続き、グラバーが大きな興味を示したのが、高島炭鉱の経営で会った。この経営はグラバーの死命を制するほど大きなものであったために記述しておきたい。
高島炭鉱は、長崎県西彼杵群鷹島町に所在する。高島の炭鉱は、元禄年間(一六八八~一七〇四)、五平太と言う男が火を燃やしているとき、木下の黒い岩までが燃え出すのを見て驚いた。
その後、文化年間(一八〇四~一八)の末年から佐賀鍋島藩の直営になった。明治元年(一八六八)、藩主鍋島直正の命により、同藩の家臣桜林源蔵が調査に当たり、長崎在住の英人グラバーと佐賀藩との共同作業が設立された。ところが、石炭にしろ、他の金銀銅の採掘いしろ、彼らは総称して『山師』と呼ばれた。
それは現代の優秀な探知機はなく、一か八か、あるかわからないのかの賭けによって事業を展開していたからである。
慶応三年(一八六七)、グラバーはJM商会の香港本社を訪問、この高島炭鉱への資金援助を申し入れた。その足で故郷アバディーンへ帰り、採掘用の機器購入と英国人炭鉱技師の採用に注力した
慶応四年六月、グラバーは高島に縦坑(地面から垂直に掘り下げた坑道)を採掘させるために必要な機器を輸入した。 それから間もなくして作業が開始され、翌年四月十七日、地下約四十五メートルの層に頑丈な炭層がみつかった。
グラバーは輸送用レールを坑口から波止場まで引き敷き、蒸気エンジン、巻き上げようケーブル、給水ポンプを設置、我が国初の近代的炭鉱がスタートを切った。
明治五(一八七二)年発行の『東京日日新聞』は、このときの高島炭鉱を次のように報告している。
「長崎の英人グラバーは港外の高島に石炭を開発した。 その坑道、直下三十七間、軌道を敷き、鉄鎖は乗降し、人夫の上下や諸物の運送に便ず。 工程に至れば坑道発達、炭液と湖水のあふれるは、ポンプにより除き、一時間に数万斤を掘り出す。 高島開発は一坑を制すのみならず、この事業により長崎住民も利潤を得ることが多く、皆グラバーの徳を仰げるよし」。
しかし、これより少し前、JM商会の本社では、高島炭鉱の順調な創業とは別に、グラバーが艦船や武器の売買などで、売掛金の回収がままならず、身動きがとれなくなっていることを把握していた。
このため、JM商会は、これまでのあらゆる債務の清算をグラバーに迫ってきた。
グラバーは友人のオランダ貿易商会に借金を申し込んだが、体よく断られた。こうして明治三年五月、グラバーがせっかく苦労して入手した高島炭鉱の利権とすべての機器に対する所有権は、オランダ貿易協会へ移ってしまった。
それから、しばらくして経営者側と鉱夫たちとの要求が一致せず、暴動の危機が続いた。 明治六年、一発触発の状態が続いていた労使間に日がついた。 日本初の本格的労働争議といわれた紛争は、暴動に発展し数十名の死者をだしてしまった。 そして高島炭鉱がこれにより、大きな損失を蒙るようになったのは言うまでもない。
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56.トーマス・グラバー 第五章 グラバー商会の稼働開始 徳川幕府の崩壊https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/1c738852adb900890064adeb6ea024c8
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このの来日、歴史的に貴重な写真、図、文献なども数多く掲載されている秀逸な作品ですが、それらをPDF化して皆さんに紹介することもできますが、著者と発行所の『長崎文献社』に敬意を払って、全てを紹介するのは、控えたいと考えております。
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