シーゲート・テクノロジーのハードディスク駆動装置
(HDD)「Exos Mozaic 3+」
。通常記録方式(CMR)の3.5インチ1台で30テラ(テラは1兆)バイトを実現した。
ソニーセミコンダクタソリューションズが熱アシスト記録(HAMR)用に開発した半導体レーザーを搭載する。
ちなみに、同社が販売する3.5インチHDDのこれまでの最大容量は24テラバイトだった(写真:シーゲート・テクノロジー)
「ここ10年以上、米シーゲート・テクノロジーと共に開発を進め、量産にこぎつけた。2030年には数百億円レベルの利益を期待したい」
ソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)社長兼最高経営責任者(CEO)の清水照士氏は、ソニーグループ(ソニーG)が24年5月31日に開催した「事業説明会 2024」で、同社が開発した熱アシスト記録(HAMR)対応ハードディスク駆動装置(HDD)用の半導体レーザー事業を、イメージセンサー以外に特に注力する分野の1つとして挙げた。
シーゲート・テクノロジーは、HAMRを採用したデータセンター向け3.5インチHDDの量産化を、世界で初めて24年3月末までに開始した。
記録容量は通常記録方式(CMR)で30テラバイトである。ここに、SSSがHAMR向けに専用開発した半導体レーザーが採用された。
HAMRは、ディスク媒体をレーザー光で局所的に瞬間加熱し、媒体の磁化を熱ゆらぎでばらばらにして情報の記録を容易にすることで記録密度を高める技術である。
従来の垂直磁気記録(PMR)による高記録密度化が限界に近づき、容量向上のペースが鈍っているなかで、HAMRはそれを再活性化する「究極の技術」として注目されている。
HAMRにおける熱アシストのイメージ。HAMR用ヘッドには半導体レーザーが組み込まれている。シーゲート・テクノロジーによると、ディスク媒体の記録ビットに対して1ナノ(ナノは10億分の1)秒というわずかな時間、
レーザーで加熱して記録。書き込んだ磁化の状態は1〜2ナノ秒で冷却して固定化する(写真:シーゲート・テクノロジー)
これまでシーゲート・テクノロジーが販売していたPMR方式の3.5インチHDDは、ディスク1枚当たりで容量2.4テラ(テラは1兆)バイトが最高だったが、HAMRはそれを一気に3テラバイトに高めた。
さらに同社は、「25年にはディスク1枚当たり4テラバイト、27〜28年には同5テラバイトの製品を投入できるだろう」(技術を統括する米シーゲート・リサーチ副社長のエド・ゲージ氏)と、高密度化へのパスが既に用意されていることを強調する。
SSSは、HAMR向け半導体レーザーについて、本誌の取材に対して以下のように回答した。
「データセンターで利用するHDD向けということで、従来のレーザーとは桁違いの非常に高い信頼性(≒寿命)が要求され、この開発に時間を要した。
顧客側でこのレーザーをHDDヘッド上に精密実装するため、レーザーに対して非常に高い機械的な精度も要求された。さらに、生産技術の開発にも、かなりの時間と労力をかけた。将来的に、年間で数億個のレーザーを生産しなければならないためだ」
30年度にはHAMRが7割超
HAMRは今後、HDDの記録密度を「劇的に向上させる」(清水氏)可能性がある。このインパクトは非常に大きい。
昨今、動画活用の拡大や生成AI(人工知能)ブームなどによって、データセンターにおいてストレージ容量の拡張が強く求められている。
HDDの記録密度が高まれば、同じ敷地面積のデータセンターで、より多くの記録容量を、コスト増加を抑えながら実現できるためだ。
市場調査会社のテクノ・システム・リサーチ(TSR、東京・千代田)によれば、HDDの世界出荷台数は、フラッシュメモリーをベースにしたソリッド・ステート・ドライブ(SSD)による置き換えが進んだ結果、ピークだった10年の6億5000万台から右肩下がりで、23年は約5分の1の規模に縮小している。
しかし、データセンター向けの需要拡大によって、24年以降、HDDは再び成長軌道に乗るとみられている。TSRでは28年の世界出荷台数は1億6400万台と、23年比で約34%増加すると予測している。
現在、データセンター向けHDDの容量は平均で約16テラバイトだが、「今後は30テラバイト以上の製品の需要が伸びていく」(清水氏)。
SSSの予測によると、28年度には30テラバイト以上のHDDが出荷台数ベースで過半になり、HAMRの比率は25年度に全体の15%、27年度には同42%、そして30年度には同73%を占めると見ている。
データセンター向けHDDの出荷数量とHAMRの比率の予測。
SSSは、28年度には30テラバイト以上のHDDが出荷数量ベースで過半になり、HAMRの比率は27年度には同42%、そして30年度には同73%を占めると見ている(出所:ソニーセミコンダクタソリューションズ)
ちなみに東芝傘下の東芝デバイス&ストレージは24年5月14日、HAMRを採用した30テラバイト超のHDDの実証に成功し、25年にサンプル出荷を始めると発表した。
同社は採用している半導体レーザーの詳細についてコメントしていない。
(日経クロステック/日経エレクトロニクス 内田泰)
[日経クロステック 2024年6月4日付の記事を再構成]