金融機関は再建計画の始動から約2年半で追加支援することに
経営再建中の自動車部品大手マレリホールディングス(旧カルソニックカンセイ)に対し、銀行団が180億円の返済猶予を認めた。
自動車販売の減少を受けた資金繰り難が直接的な要因だが、痛みを伴う改革を先送りした代償ともいえる。
マレリは銀行団に1000億円規模の新規借り入れも求める。返済原資の確保に向け、事業の売却など構造改革を避けられない見込みだ。
借入金が約6500億円にのぼるマレリは元本の返済を猶予されてきた。計画では初回の元本返済(180億円)を2024年12月末に実施する予定だったが、手元資金の急減で返済猶予を求めていた。
日産自動車や欧州のステランティスが生産台数を大幅に減らしたあおりを受け、フリーキャッシュフロー(純現金収支)がマイナスに沈んだ月もある。
関係者によると、元本の返済や取引先から猶予されてきた買掛金などの支払いで24年12月に1000億円規模の資金が必要だった。ところが手元の現預金は600億円程度にとどまるため、決算期末である24年12月を乗り切れるかが焦点になっていた。
銀行団からは27日に返済猶予の同意を得たものの、一時的な時間稼ぎにすぎない。生産拠点の見直しや保有資産の売却を含めた抜本的な構造改革案の策定は、年明け以降に本格化する協議に持ち越された。
22年8月に東京地裁の認可を得て始まったマレリの経営再建は、およそ2年半で再び金融支援を仰ぐ事態となった。大手銀行の幹部は「本来であれば再建計画の段階でもっと踏み込んだ合理化策を盛り込んでおく必要があった」と振り返る。
再建計画では国内の工場閉鎖や人員削減の実施などが見送られた。このとき銀行団は債権放棄を含め、約4500億円の金融支援を余儀なくされている。
銀行団が今回認めた返済猶予は1カ月。「綱渡り」(関係者)の手元資金を厚くするため、マレリはドイツ銀行などに運転資金として1000億円規模の融資を求めている。猶予が生じた1カ月のうちに、生産拠点の見直しや事業の売却をまとめる必要がある。
マレリの前身である旧カルソニックカンセイを米投資ファンドのKKRが17年3月に買収し、19年に旧マニエッティ・マレリと統合。その後の経営悪化で再建に向け、22年8月には追加出資に応じた経緯がある。
今回のマレリに対する返済猶予と追加の金融支援は、自動車販売の減少に直面する部品メーカーの苦境を浮き彫りにしている。
19年9月に裁判以外の紛争解決(ADR)が成立し、経営再建に取り組んでいた曙ブレーキ工業も24年夏までに金融機関へ返済猶予を求めていた。
業績が計画を下回り、借入金の返済原資を確保できなかったためだ。
日産の系列下で、24年3月期まで5期連続の最終赤字だった河西工業は既存の債権60億円分を資本性の高い劣後ローンに転換する金融支援をりそな銀行から受けた。
電気自動車(EV)への移行が進めば、エンジン車で3万点とされる部品のうち1万点が不要になるといわれる。自動車産業は大きな転換点にある。雇用を支える部品メーカーの再建や再編に金融機関がどう関与していくのかも問われている。
日経記事2024.12.28より引用