インタビューに応じる東京エレクトロンの河合社長
人工知能(AI)がスマートフォンや家電、自動車まであらゆる産業に広がり始めている。AIの市場はどこまで広がるのか。
半導体製造装置大手の東京エレクトロンの河合利樹社長にAIを支える半導体産業の視点から市場の可能性を聞いた。
――今後の半導体市場の見通しは。
「2024年はAIが注目を浴びた1年だった。半導体市場でも(AIの演算をする)画像処理半導体(GPU)や(演算結果を一時的に保存する)広帯域メモリー(HBM)などへの投資が増えている。
30年に半導体産業が1兆ドル(約157兆円)を超えるという市場予測もあり、そのなかでAI向けの半導体は70%を占めるだろう」
「半導体市場は50年には足元の10倍となる5兆ドルになる。東京エレクトロンには半導体に微細な回路を形成するために必要な成膜やエッチングなど約10の装置カテゴリーがある。
29年3月期までの5年間で1兆5000億円の研究開発投資を実施し、すべての製品カテゴリーで世界シェアトップを目指す」
AI半導体投資が前倒しに
――半導体製造装置の成長性をどのように見ていますか。
「AI半導体向けの投資が前倒しになってきており、今期の半導体製造装置の売り上げは上振れ余地がある。
今後は(長期記憶に使う)NAND型フラッシュメモリーでもAI向けが伸びてくる。半導体製造装置への投資に占めるAI向けの割合は25年に、24年の約3割から4割程度まで上昇する」
「半導体産業全体の市場規模に対する装置の割合は2割弱で、10年前の2倍になった。
最先端半導体の構造が複雑になり、工程数が増え、技術も高度化した。研究開発投資をしっかりと進め、メーカーが求める量産に向けた性能を早期に達成する」
――急拡大する半導体市場をどのように自社の成長に取り込みますか。
「企業規模を短期間に膨張させるのではなく、持続可能な成長を目指す。
自社の中核となる能力を磨いて利益を追求すれば、次の投資につながり、継続的に強い装置を創り出せる。そのためには、従来のように人海戦術で研究開発をするだけでなく、AIを活用してものづくりを革新することが必要だ」
――電気自動車(EV)市場が減速するなど、AI以外の半導体市場は軟調です。
「その時の経済状況によって多少のでこぼこがあったとしても、長期的にはAIがドライバーになる。
自動運転やEVといった分野が徐々に伸びていくのは間違いない」
国際政治や戦争、一喜一憂せず
――トランプ次期米大統領の政権が発足すると、米国の対中姿勢が強硬になると予測されます。米国の対中輸出規制などにはどのように対応しますか。
「世界で起きている選挙や戦争などに一喜一憂するのではなく、中長期的な潮流を見ることが重要だ。
直近10年を振り返っても、(あらゆるモノがネットにつながる)IoTやクラウドなどの進化で東京エレクトロンの利益は8倍になった」
「自社の装置の大半は日本で製造し、日本から輸出する。日本の規制やルールに従って適切に対応していく。
地政学リスクについては全く無頓着なわけではなく、注視している。ただ、半導体投資は必ずどこかであるので世界をリードする技術革新力を持ち続ければ、装置の販売を続けることができる」
――中国顧客の投資動向は。
「中国では24年だけで数十社の新しい半導体メーカーが出てきた。ただ、全社がうまく量産に移行できるかは見通せない。
25年は試作から量産に移行できるかどうかが試される。できない企業は淘汰・再編も起こりうるだろう」
「今、中国では回路形成の『前工程』の装置メーカーが9社ほど立ち上がっている。彼らの装置をつなげればある程度の半導体はつくれる。
9社合わせて東京エレクトロンの中国売上高と同じくらいの規模になっている。国策での支援もあるため、中国内での中国装置のシェアは高まってくるだろう」
(聞き手は為広剛、細川幸太郎)
日経記事2024.12.28より引用