先日、21日の夕方連れ合いと稲荷山公園を散歩していたら、チェロのケースを開けて楽器を取り出している女性の姿が目に入った。
「きっと用意が出来たら音を出すんじゃないかな」、
「聴いてみたいよね」、
と、離れたところにあったベンチに腰掛けて待つことにした。
実は公園内では弦楽器、管楽器、邦楽器、民族楽器を練習する人に今まで結構遭遇しているので、この日も楽器を取り出した時点で期待していたのだ。
するとしばらくして、かなり小さな音だったけれど耳を澄ましていたらチェロの音が聞こえてきた。
それは、J.S.Bachの無伴奏チェロ組曲1番のプレリュードだった。
もうちょっと近くのベンチに座ればよかったなとその時になって後悔したが、もう遅い。
音を追いかけようと一所懸命、耳をそばだてていた。
ほどなくして音がやんだと思ったら、そのチェリストが我々の目の前にやってきたのでちょっと驚いた。
そして
「実はもうすぐ軽井沢の屋外のマルシェでチェロを演奏することになっていて、屋外での演奏に慣れるためにここで練習しています。よかったら一曲聴いてくださいませんか」
と声をかけられた。
喜んでその申し出を受けたら、目の前の切り株に腰を下ろし楽器の高さを調節して演奏の準備をし、
「”Amazing Grace”を弾きます」
と曲目紹介をして演奏を披露してくれた。
夕方の公園で、たった二人の観客のために豊かなチェロの音を響かせて演奏してくれたチェリストに精一杯の拍手を送った。
チェロの音、久しぶりに聴いた気がする。
たっぷりと太くて豊かな音がチェロから紡ぎだされ、その音を受け取り楽しんだひと時だった。
この日からもう1週間経ったが、思い出すと胸の中がふわっと温かくなる。