厳しい暑さの続く今年の夏。
こんなにエアコンをつけている夏ってかつて記憶にない。
朝、寒暖計で30℃を超えているのはもはや当たり前で、30℃に赤い線が届いていないと今日はちょっと涼しい、と思ってしまう。全然、涼しいわけないのに。
そんな酷暑の夏に読んだ本、3冊。
『誕生日のアップルパイ』 庄野千寿子 夏葉社
「幸せな書簡集」という帯を巻いた作家・庄野潤三を支え続けていた夫人・庄野千寿子さんが長女夏子さんへの書簡集のこちらの本。
読んでいると、そこに書かれたたくさんの料理、そして夏子さんへの感謝の言葉に溢れた手紙に静かな感動が湧いてくる。
庄野潤三さんの作品のような家族のつながりの姿に、彼の作品を思い、この家族あってこその作品なのだとも改めて思う。
一日一日を大事に生きること、色々なことが起こる毎日だけれど、でもすべてを大切に受け止めること、その連続が生きていくことなんだなとこの書簡集を読んでいると素直に感じる。
読み終わり、本のカバーを外してみた時に思いがけない一文に気付き、ドキドキした。
『家守奇譚』 梨木香歩 新潮文庫
7月の終わり、所用で上京してきていた友人と久しぶりに会って愉快なひと時を過ごした。
彼女は午後から仕事なので、午前中に宿泊していたホテルのロビーで待ち合わせまだ早い時間だったので自由学園明日館までぶらぶら歩き喫茶室でお茶をし、それから池袋に戻ってランチを食べた。
積もった話を呼吸する間も惜しいようにお喋り。
こっちの話からあちらの話、と話題も次々出て、その中でサルスベリの話が出た。
私は関東で暮らすようになってサルスベリを目にすることが多くなった、という話をした。
子どもの頃、サルスベリはお寺で咲いているのを見るのが多くて庭木で見かけるのはまれだったという記憶があるという話をしたら、彼女がサルスベリと言えば・・・と紹介してくれたのがこの梨木香歩著の「家守奇譚」だった。
読んでいると、その景色が目に浮かんできて、この世の隣にあるこの世とは違うもう一つ別の世界に迷いこんで、迷うことが楽しい。
こっちとあっちと・・・。
『朝のあかり』 石垣りんエッセイ集 中公文庫
「朝のあかり」という題の詩人・石垣りんさんのエッセイ集。
思わず背筋をピンと伸ばして、石垣りんさんの詩作に対する覚悟、その地に足をつけた生活、まさに「凛」とした人間の姿がエッセイの中から浮かび上がる。
暑い夏の読書時間に爽やかな風が吹き抜けて、この本に出会えて幸せだ、と思う。