列島をつぎつぎと寒気がおそうこの冬、
瀬戸内海の西の玄関口にあたる祝島でも、立春がすぎてなお冷えこみが続く。
そんなある日、波止ちかくの小屋のストーブで暖をとっていたら
「牡蠣をとっちゃろ」と、名人が道具を手に浜へむかった。
ついていくと、一面に天然の牡蠣。
もってきた道具でチョイチョイチョイと、いくつかの牡蠣をひらき
「食べんさい」というと、名人は小屋へ帰っていった。
親指の爪くらいと大きすぎないサイズの牡蠣貝は、味も地道で好印象。
別の波止へ亀の手(セエ)をとりにいってくれたもうひとりの名人は
網いっぱいのセエを手に小屋にもどってきた。
ストーブの上でいくつか焼きはじめると、あたりに磯の香りがただよいはじめる。
焼酎のお湯割りをつくって飲みつつ、熱々のセエをつまむ。
心身ともにあたたまる、この嬉しいひとときが、冬の気力を養ってくれる。