イギリスの児童文学「床下の小人たち」を、宮崎駿が企画・脚本で映画化した、スタジオ・ジブリのファンタジー作品『借りぐらしのアリエッティ』を観る。
ただ監督が宮崎駿ではないという事で一抹の不安が残ったが、予告編からジブリらしい見事な映像美で見せてくれた。
心臓の手術を数日後に控えた少年・翔は、郊外のはずれにひっそりとたたずむ母の実家に、療養にやってくる。そこで翔は、小人の少女アリエッティに出会う・・・。
ある一軒の家の周りだけで繰り広げられる、なんともこじんまりとした物語。
まず前半の、人間の家の中にある日用品やら食料をちょっとづつ借りてつつましく生活している、小人の家族の日常を描いたシーンがとっても素敵だった。
古い洋風の屋敷の床下や壁の間など、迷路のように張り巡らされた通り道は、もしかしたら自分の家の壁にも、なんていう想像を掻き立てられ、そういう子供じみた発想がまた楽しく、不思議な味わいを感じさせる。
アリエッティと翔が出会って、ほのかに相手を想い合う展開も微笑ましく、可愛らしい。
ただねえ、やはり内容があまりにも薄く、演出も雑で、完成度についてかなり問題があったんじゃないかなあ。
まず冒頭「ぼくはあの年の夏・・・」という、翔の語りから始まるんだけど、なぜか作品の中心となる目線は翔ではなく、アリエッティなんだよねえ。
このストーリー展開ならまず「私はあの夏・・・」であり、オープニングは彼女のシーンから始まらなくちゃあおかしいんだよね。
そして始まってすぐいきなり少年に目撃されるアリエッティをはじめ、人間に目撃されたら引越ししなくてはいけないという掟があるにもかかわらず、最初っからそれほど人間から距離を取っているように見えなかったし、緊張感もないので、作品全体にメリハリがないんだなあ。
それと肝心のアニメーションについても、目を見張るようなシーンも特になく、ただ美しいだけではジブリファンを満足させられなかったんじゃないかなあ。
細かいところだけど、雨に濡れても服の色が変わらないっていうところも私は不満だった。
父をはじめ、人間をまったく相容れないものとする小人達。
そして人間の少年と心を通わせるアリエッティ。
少年はアリエッティに出会い、自分達の周りでも、たくさんの命が息づき、健気にそして力強く生き抜いていることを知る。
テーマはそういう命についてなんだろうけど、それを翔にいきなり「君達は滅び行く種族なんだ」なんて語らせるセンスには、ちょっと辟易してしまった。
過度にドラマチックにしないという演出も、嫌いではないけど、少年とアリエッティのエピソードがあまりにも少なく、滅び行く運命に逆らえないように静かに遠ざかっていくラストも、切ないというより暗雲を感じさせるものだった。
雰囲気は良かったんだけど、ドラマ的にはこれからが面白くなるってところで終わってしまい、なんだか連続テレビアニメの、第一話を見たような気分にさせられる作品だった。