NHK BSプレミアムで放送中の「にっぽん縦断 こころ旅」がいい。
視聴者が投稿した、思い出の景色“こころの風景”の場所へ、俳優の日野正平が自転車で訪れるという旅番組。
自動車で走り抜けたら、決して目に留まらない何気ない風景が、自転車に搭載されたカメラから流れていく。
そのゆっくりと流れていく風景を、ただ見ているだけなのに、自分が自転車にまたがっているように、風がほほを伝っていくような心地良さがいい。
なんとも癒される。
何がいいって、普通の旅番組と違って、無理やり地元の人と接触しようとか、大したこともないのに盛り上げようとか、どこか白けてしまうような出演者の嘘っぽさがまったくない、日野正平のあくまでもナチュラルな姿がいい。
地元の人に声を掛けられようが特に愛想もなく、がつがつくるおばちゃん達には目も合わせない。
かといって若い女性が現れる、急にデレッとなったり。
先週自転車を盗まれて、気分が悪かったが、今日またこの番組をみて癒されたよ。
新しい自転車、また買おうかなあ。
この『奇想と微笑―太宰治傑作選』は、「有頂天家族」や「夜は短し歩けよ乙女」の森見登美彦が、自身大好きな作家 太宰治の短編を、独断と偏見で集めた傑作集である。
そして私も昔、新潮文庫のYonda?CLUBの応募マークをせっせと集めて、文字盤に太宰治の写真が埋め込まれた腕時計を応募しゲットしたほどの愛読者である。
まだ2/3程しか読んでいないが、太宰の人柄が随所に現れ、ますます彼のことが好きになってしまう作品ばかりだった。
一般的に太宰治といえば、晩年の作品や、なにか思案顔で頬杖をついている写真のように暗いイメージがあるが、波乱の人生の中でも、心身ともに安定していた時期があり、「津軽」や「お伽草紙」などとても明るい作品も数多く執筆されているのだ。
この傑作選は、その頃のそんな太宰治の人間味溢れる姿が浮かんでくる、楽しい作品ばかりが集められた、なんとも贅沢な作品集なのだ。
なかでも、電車の中で読みながら笑いをこらえきれなくなってしまったのが、昭和18年に発表された「黄村先生言行録」という作品。
太宰が師と仰ぐ黄村先生なる人物の、山椒魚への異常なまでの執着心が招くドタバタ劇なのだが、まあすこぶる面白い。
この黄村先生、どうやらモデルがあるらしく、あとがきで筆者が太宰が上京してからずっと交流があった井伏鱒二であろうといっている。
調べてみるとなかなか太宰とは公私ともに親交があった人物である。
この本のように、二人の楽しいやり取りが行われていたのかと思うだけで、なにか楽しい気分にさせられた。
ここはひとつ、井伏鱒二が太宰治のことを書いた本があるのではないかと調べていたら、とんでもない事実が発覚してしまった。
太宰の遺書の下書きが発見されたとき、そのなかに「井伏さんは悪人です」というものがあったらしい。
どうしてこの楽しい気分のままでいさせてくれなかったのかと、今はしょうもないことを調べてしまったことを、猛烈に反省している。
でも少し時間がたつと、太宰の本心はどうだったんだろうかという疑問が浮かんできた。
そうしたら、またその疑問を追求した本があるんだなあ。
あの前都知事の猪瀬直樹が「ピカレスク 太宰治伝」なる本で、遺書の謎を描いている。
なんだか太宰治の印象まで崩されそうで、今読もうか読むまいか悩んでいる・・・。