2022年の本屋大賞で第2位となった青山美智子さんの『赤と青とエスキース』を、文庫化されるまで流していたので今やっと読む。
今回は「猫のお告げは木の下で」や「お探し物は図書館まで」など過去作品のほっこり感と明らかに違う、洒落たタイトルで「おや?」なんて思わされたが、タイトルのイメージ通り青山美智子さんが新境地へと入った今までとまったく趣の違う作品となっていた。
人と積極的に関われない自分を変えようと、メルボルンへ1年限定の交換留学生としてやってきた女子大生のレイは、ある日バイト先の先輩ユリさんから、公園で行われるバーベキューに誘われる。
ただレイは話しかけられてもオーストラリア訛りの英語が聞き取れず、気がつけば一人きりになってしまったが、日本語で話しかけてきた、みんなからブーと呼ばれる地元の日系人の青年と出会い・・・。
ふたりの若い男女が出会い、恋を育んでいく話にはじまり、額縁工房へ就職し額職人として働く青年に、中年のおっさん漫画家、そして長年一緒に暮らしていたが別居してしまった男女の話と、いつもの青山オムニバスでストーリーが紡がれていく。
そしてこれも青山作品でおなじみの、別の話なんだけど、人や物がこんなとこで登場するのかと話をまたがって現れる。
で、今回の別々のエピソードに共通して現れるのが、「エスキース」という水彩画。
過去作品を読んでいた方は分ると思うんだけど、神がかり的な出来事やキーワードによって、人生の新しい歯車が回り出すというお馴染みのストーリー展開は、今回はありません。
なので物語の奇抜さはなくなってしまったが、代わりにそれぞれの主人公たちの心情がじっくりとリアルに描かれ、読んだ人それぞれが登場人物の誰かに共感させられていく。
私は四章の、輸入雑貨店に働く52歳の女性が、長年連れ添った男性と別居し、さらにパニック障害になってしまうという話で、常に強迫観念にとらわれていたのか、そんな病を抱えつつも休むことなく働くその女性に、雑貨店のオーナーが語りかける言葉が強烈にこころに響いた。
”人生は一度しかないから思いっきり生きよう、ではなく、
人生は何度でもある、どこからでも、どんなふうにでも、新しく始めることが出来る”
そして、
”それを経験できるこの体はひとつしかない、だから無理せずなるべく長持ちさせなきゃ”
そんな、物語の中にちりばめられた珠玉の言葉の数々は、今まで歩んできた人生が長いほど、凝り固まった思考や生き方を、ほんの少し変えるだけで訪れるだろう新しい未来を感じさせる。
ただねえ、私的にはそんな中にさらにユーモアがちりばめられていた前の路線の方が好きかなあ。
あと、絵画をめぐる小説といえば、「楽園のカンヴァス」や「暗幕のゲルニカ」など私の大好きな原田マハさんの小説がすぐに浮かんでくるんだけど、これら原田マハさんの作品と比べると、今回の青山美智子さんの作品との間には決定的な違いがある。
それは原田マハさんの小説に登場する作品は、ルソーやピカソが描いた本物の名画であり、実際のその作品のイメージからストーリーに思いを馳せることで、より一層の感情移入をすることが出来た。
対して、本作の重要なキーとなる「エスキース」は、小説の中で創作された絵画なので、頭の中に描かれる絵のイメージが曖昧ではっきりせず、話の内容自体までもがちょっとばんやりしてしまった感がある。
ただ、この作品にはそんなことなど物ともしない、ミステリー小説顔負けのとんでもない仕掛けが組み込まれている。
これが本屋大賞第2位となった要因だろうねえ。
本の帯に書いてある、
”二度読み必至の感動作”
は大げさではなく、私も読み終わった後、すぐに続けてもう一回読んでしまった(^^)
これは凄い!
突然現れた小さなおじいさんの神様に願いをおねだりされる、青山美智子さんの『ただいま神様当番』に続いて、自身3作品目となる『鎌倉うずまき案内所』を読む。
今回もオムニバス形式で、今の仕事を続けようか悩む雑誌編集者の青年・息子との関係に悩んでいる母親・結婚を目前に躊躇している女性司書・仲間はずれになりたくない女子中学生・立ち上げた劇団の存続が危ない脚本家・人生の意義を見いだせなくなった古本屋のおじいさんの6人が主人公。
それぞれが抱える問題により、将来の不安から進んでいく道が霞んで見えなくなり、あたかも人生から”はぐれてしまった”主人公たちが、観光客で賑わう鎌倉の街で、突然異次元の世界に入り込んでしまう。
目の前に急に現れた閑静な町並みに戸惑いながらも歩いて行くと、閉店している時計屋に掲げられた「観光案内所」の看板が目にとまる。
看板の下向きの矢印に従い、店横のらせん階段を降りていくと、小さな部屋で向かい合いオセロをしているふたりの老人に出会う。
「外巻き」「内巻き」と名乗るグレーのスーツにそろいのネクタイと、顔もそっくりな小柄なおじいさんに、主人公たちは道を聞くつもりが、気がつけばそれぞれが抱える悩みを告白してしまっていた。
悩みをしっかり聞いたふたりのおじいさんは、そろって両手の親指を突き出し「ナイスうずまき!」という。
そして壁に掛かっていた謎のアンモナイトの所長から”キーワード”と”ビジョン”を授かり、さらに”困ったときのうずまきキャンディ”をひとつ手に入れると、再び元の世界に戻っていく・・・。
思い描いていた仕事とのギャップから転職を考えたり、夢の実現のために踏ん張っていたが年齢のことを考え出したりと、主人公が抱える切実な悩みや不安は、誰もが身に覚えがあるだろう普遍的なものであり、誰もが主人公の誰かに共感しちゃってるでしょうね(^^)
そして案内所で得た”キーワード”と”ビジョン”に導かれ、それぞれが今ほんとに自分に必要なモノを知ることで、霧が掛かったように見えなくなっていた幸せや希望へと続く未来への道が、次第に見えてくる。
読後は自己啓発本でも読んだかのように、改めて自分を見つめ直し、自らの成長へ向けエールを送っている。
ただねえ、神様がさりげなく主人公の背中をそっと押してくれるという設定が私は好きだったんだけど、今回は「外巻き」「内巻き」さんにアンモナイト所長と、あまりに設定が漫画チックであり、残念だけど都合のいい強引な奇跡にしらけてしまった。
おまけに時系列を逆にし、一番印象的だった黒祖ロイドを始め、その奇跡により成功しちゃってる人物たちの現状を先に見せてしまっていて、この先はまだ分らないが、それでも新たな一歩を踏み出す主人公たちの健気な姿に共感してた私には、そこも明かさないで欲しかったかな。
だいたい神様がある特定の人物にだけ肩入れして、成功に導いちゃってるってどうなのよ(笑)
それでも読後は6人すべての主人公たちが愛おしく、青山美智子さんが紡ぐ素敵な言葉の数々に、気持ちが軽くなっていること実感する。
なかでも古本屋店主の浜文太じいちゃんのエピソードの中で語られる言葉が、自らも積み上がっている年齢のこともあり、強烈に胸に刺さる。
自らの人生を悔いることは仕方ないけど、その歩んできた人生を否定せず肯定することで前を向ける、そして今を生きていける。
そして精一杯生きていこうと思う。
素晴らしい!
さあ、次はもう手元で待っている『木曜日にはココアを』を、読むかなあ(^^)
偶然神社で猫に出会ったことで幸せの歯車が回り出す、青山美智子さんの『猫のお告げは樹の下で 』に続いて、『ただいま神様当番』を読む。
今回も現状に行き詰まりこじれたOL・小学生・高校生・大学非常勤教師・零細企業社長の5人の登場人物たちが奏でるオムニバス仕立てです。
この5人に共通していることは、朝同じ時間のバスに乗るためにバス停に並ぶこと。
物語はある朝、一番にバス停に来るとバス停の台に落とし物があるのを発見する。
それは今その瞬間一番自分が欲しいもので、それぞれの主人公たちは誘惑に抗えずその落とし物を持ち帰ってしまう。
そして翌朝目が覚めると、腕に大きく「神様当番」という文字が書き込まれていてる。
何事かと呆然としているなか、部屋に見知らぬ小さなおじいさんが座っていて、いきなり「お当番さん、みーつけた!」と言ってくる。
おじいさんは自分は神様なので、お願い事を聞いて欲しいとねだり、それぞれに「わしのことを、楽しませて」とか、「わし、最高の弟が欲しい」などの難題をふっかけ、出来なければその「神様当番」の文字はずっと消えないと言う。
5人はそれぞれ戸惑いながらも、神様の願いを叶えようとするが・・・。
猫に続いて、今回は本当に神様が出てきます(^^)
一見駄々っ子のように主人公たちに願い事を要求するうえに、時には体に入り込んで勝手に体を操ったりまでもしてくる、とんでもな神様。
それでも後から想えば、すべてそれは自分の心の声、自分が欲していたモノだと次第に気づかされていく。
それぞれ5人のストーリーの中で、私のお気に入りはイギリスから日本語の美しさに憧れて、ある大学の非常勤教師としてやってきたリチャード・ブランソンの話。
受け持ったクラスの生徒たちはことごとくやる気がなく、言葉遣いも自分が思っていた美しい日本語ではなく、「ぶっちゃけマジ無理」とかよく分らない若者言葉にも失望するリチャード。
そこで神様の願いは、「わし、美しい言葉でお話がしたい」。
主人公がイギリス人ということで、リチャードが最初に腕に書かれた「神様当番」という文字を見て、思わず「・・・So cool・・・」とつぶやいたり、神様とのやりとりも他の4人と全く違うリアクションがとにかく面白く、この願い事も抽象的でどうかなえるのか予想がつかなかった。
そしてたどり着いた先の”スピークとトーク”
素敵です(^^)
青山 美智子さんが紡ぐ物語の結末は、最後には必ず主人公たちに幸せをもたらす。
そう、その結末は確定なんです。
そんな予定調和的なストーリーに、私はなぜ惹かれるのか。
安定した心地よさも素晴らしいが、それは読後に改めて自分の心の声に耳を傾け、今自分が本当にやりたいこと、自分に必要なことを考えさせられ、そんなことを考えている自分にエールを送っていることがなによりも楽しいから(^^)
ただねえ、今回男子高校生が主人公で、神様の願い事は「わし、リア充になりたい」という話があるんだけど、ツイッターだけの関係だった女子高生とのキュンキュンするほどの恋バナで、さすがにこの年になってこんな話を読まされるのはキツいなって思ってしまった(笑)
さあ、次は何を読もうかな(^^)
青山美智子さんのデビュー作『木曜日にはココアを』に続く第2作目『猫のお告げは樹の下で 』を読む。
とにかく読後の安らぎと幸福感が素晴らしく、以降続けて彼女の作品を追っかけることになりました(^^)
物語はオムニバス仕立てで、現状に息詰まってる人やこじれた人が登場し、何かに引き寄せられるようにある神社を訪れます。
人気もあまりない神社だけど、境内は綺麗に掃除が行き届いており、拝殿から少し離れたところに大きな”タラヨウ”の樹があり、その横にあるベンチにみな腰掛け一息つく。
そこでふと何かの視線を感じそちらを向くと、一匹の黒い猫が目に入る。
”みくじ”と呼ばれるその猫に、登場人物たちはなにげに悩みを語りかけると、みくじはいきなり樹の周りを凄い勢いで回り始める。
何事かと驚いていると急に走るのを止めて、とん、と樹に左足をかける。
すると頭上から一枚の葉っぱがヒラヒラと落ちてくる。
拾い上げて見たその葉っぱには”ある言葉”が刻まれていた。
それは悩みを抱える人たちへの、みくじからの”お告げ”。
失恋から立ち直れない美容師の若い女性に、中学生の娘ともっと仲良く話がしたい父親や、転校してきた学校でクラスメイトとなじめない小学生など、7人が登場する。
そしてそれぞれがみくじからタラヨウの葉に書かれた”お告げ”を受け取り、7つのストーリーが展開する。
お告げを受け取った人たちは、戸惑いながらもその意味を考えることで、滞っていた現状が静かに動き出していく。
それぞれが抱える誰にでもあるだろうごく身近な悩みに、読んでいる方は自然に共感し、その先に待つ幸せの予感を感じていく。
読み進めていくうちに、自分が今抱えている悩みさえも、主人公たちと一緒に薄れていくような安らぎを感じ、柔らかな木漏れ日を受けているような心地よさに、心が温かくなっていく。
どんなに悩んでいても、自分を取り巻く状況は変わることはなく、まず自分が何かを変えなければならない。
ちょっとしたきっかけ、そしてちょっとした心の持ちようでこんなにも気分が晴れていくものなんだと感心する。
さらにこの読後の幸福感に加え、青山美智子さんの作品すべてに通じることなんだけど、オムニバスと言うことでひとりのエピソードにかかるページ数が30ページほどで、とにかく読みやすい(^^)
なんでこんなに少ないページ数で、こんなに感動的なストーリーを濃厚に描けるのか、ほんとに驚きです。
そしてそれぞれの主人公たちが、絶妙に他の話にちょこっとだけ顔を出すのも楽しいんですよねえ。
ショートストーリーでとっても読みやすく、最近元気が出ないとか、なんかほっこりしたいっていう人には超おすすめの作品です。
2021年の本屋大賞第1位を獲得した、町田そのこさんの『52ヘルツのクジラたち』を読む。
町田そのこさんという作家さん、まったく知らなくて今回が初なんだけど、知らないうちに読んじゃってるケースもあるので過去作品を調べてみると・・・、やっぱり初だった(^^;)
妾の子として生まれた貴瑚は、幼い頃から再婚した義父と母親から暴言に暴力と凄まじい虐待を受け続けていた。
高校を卒業しやっと社会人としてこの地獄のような家から解放されると思っていたところに、義父が倒れそのすべての介護を押しつけられる。
遂に張り詰めていたが糸が切れる感覚を覚えた貴瑚は、死を覚悟し街をさまよっているとき、声を掛けてきた女性と男性がいた。
高校時代の友人の美晴と、最初に貴瑚のただならぬ様子に気がついたアンさん。
そして時は流れ、貴瑚はひとり東京を離れ大分の田舎町、丘の上に建つ古びた一軒の家に引っ越してくる。
そこで自分と同じように、母親から虐待を受け声も出せなくなった一人の少年と運命の出会いをするが・・・。
タイトルにある”52ヘルツのクジラ”とは、大海原でかわされる鯨たちの鳴き声のなか、その鯨は他の鯨には聞き取れない52ヘルツという高い周波数で鳴くため、周りにたくさんの仲間がいるはずなのに、何も届かずその存在さえも気づかれない。
そんな世界で一番孤独だと言われている鯨を、自分に重ねる貴瑚。
何もかもに絶望し、もう誰とも関係を持たないと決意してやってきた主人公の、小さな田舎町で出会う様々な人たちとの出会いと交流を描いているんだけど、本作はよくある田舎の暖かい人たちとのふれあいにより、主人公が再生していくと言うハートフルな話ではない。
暴力を受けたり、食事も与えられず、トイレに何日も閉じ込められたりと、執拗に描かれる義父や母親から受ける苛烈な虐待に、いつしか気分が滅入っていく。
そんな辛い気分になってもどんどん先が読みたくなり、夢中になってページをめくっていく。
その原動力はたぶんこんなラストだろうという幸せな予想を期待する方もいるでしょう。
それぞれが新たな未来に踏み出す読後の温もりは、やはり心地よく、人生の希望に溢れていた。
ただ私はそれよりも、過去の回想シーンを随所に挟み込むことで時系列が複雑になり、貴瑚の心の淀みや、美晴とアンさんの三人の関係など、徐々に鮮明になっていった先に、早々に明かされるなぜアンさんは亡くなってしまったのかという、ミステリー要素に惹きつけられていった。
すべての謎が明らかになったときの、この半端ないモヤモヤ感はなんだ。
貴瑚の心の声を最初にキャッチし、命を救うとさらに貴瑚を明るい未来へと導いていったアンさん。
そんな人の痛みを一番知るアンさんの崩壊ぶりがあまりにも唐突すぎ、もっとこの魅力的なキャラクターを丁寧に描いて欲しかった。
さらに家族のしがらみに育児放棄、盲目な恋愛感情にジェンダーなど、様々な問題がこれでもかと提起されている割に、本作における解決への糸口がすべてご都合主義という名の偶然に委ねられているというさまも、ちょっと安直すぎるというか、やっぱり盛り込みすぎかな(^^;)
それでも読後は、今この瞬間にも聞こえない心の声がどこかで発せられているという現実が、頭の片隅に刻まれる。
そして身近な誰かに、ほんのちょっとでもいいから優しくしたい、優しい人間でありたいと想わせてくれた作品でした。
あとこの文庫本に、素敵なおまけが付いてました。
何気なく文庫に付いてる帯をみると、なんと”カバー裏に文庫のみのスペシャルショートストーリー収録!”なんて文字が。
急いでカバーを外して裏を見てみると・・・、書いてありました(^^)
タイトルは「ケンタの憂い」
本作に登場している村中と後輩のケンタのエピソードが(笑)
本編にほんのちょっとだけリンクしてるところが微笑ましい。
なんだかとっても得した気分(^^)
“何度も泣きました” “言葉の持つ力に感動!!元気が出るお仕事小説”
文庫本の帯にそんなことが書いてあります。原田マハの45万部突破のベストセラー『本日は、お日柄もよく』を読む。
まあ泣こうと思って読んだんじゃないけど、通勤電車の中で3度は泣いちゃいました。
帯に偽りなし^^;
恋ごころを抱いていた幼なじみ厚志の結婚式に出席している、失意の二ノ宮こと葉。
退屈なスピーチが続く中、突然襲ってきた睡魔でスープに顔を突っ込んでしまう。
顔を洗いにいったん披露宴会場の外に出る。
ロビーに戻り、長椅子に座ると小さな笑い声が聞こえてきた。
一目で出来ると思わせるその女性は、眠気を誘ったスピーチに、次々とダメ出しをする。
しばらくして会場の中に戻ったが、あの女性が何者なのか気になり、あたりを見回してみるがみつからない。
そこへ新郎の知人として紹介された女性が壇上に立つ。
それが伝説のスピーチライター久遠久美との出会いだった。
偶然の出会いからスピーチライターという仕事することになる主人公。
挫けそうになりながらも、周りの仲間たちのサポートにより成長していく。
よくあるパターンのお仕事小説。
ただスピーチライターという仕事を、テーマにあげることに感心する。
だってほんとうに読者を感動させるスピーチを作らなければ、この話が成立しないんだから。
普段何気なく使っている言葉に秘められた力。
感情を揺さぶり、励まし力づけてくれる言葉。
ワードのチョイスや話し方のテクニックなんかがたくさん出てきて、普通にスピーチのノウハウ本にも使えそうだ。
でも私はそんなことより、単純に素晴らしいスピーチを聴いた時のような感動が心地よかった。
別に私はスピーチ力を付ける必要もないんだけど、何か心に残るフレーズを書いてみたいという、おこがましい欲求が沸々と湧いてきてしまう。
この読後の自らのモチベーションが上がる感じもまた素晴らしい。
ちなみにこの作品、もうTVドラマ化されてました。
主人公のこと葉を比嘉愛未さんが演じるという、嬉しいキャスティング。
こういう作品こそAmazonプライムで出してくんないかなあ。
平成26年度の吉川英治文学新人賞に本屋大賞も受賞し、累計200万部を突破した大ベストセラー、和田竜の『村上海賊の娘』を読む。
文庫本で全4巻だったけど、あっという間に読み切ってしまった。
時代小説は好きで読むんだけど、村上海賊といってもあんまりなじみもなく、海賊王の娘として暴れまわった女性がいたなんて全く知らなかった。
実際には本の中でも説明してあるけど、家系図の中に村上武吉の娘であろう「女」とただ一文字あったことから、創作されたらしいんだけど、まあ面白いところに目を付けたなあ。
この一点でベストセラー間違いなしといったところか。
ゲームの世界でもお市の方が女武将になって、殺人鬼のごとく斬りまくってるもんね。
物語は能島村上の姫である響が、偶然海の上で本願寺の門徒である百姓たちを助けたことで、本願寺と信長が激突した木津川合戦に巻き込まれるっていう話なんだけど、まあ読んでる間、字を読んでるんだけど漫画でも読んでるような錯覚を感じながら、スラスラと読み進めれた。
とにかくその情景がリアルに浮かんだくるような、生き生きとした描写が素晴らしく、合戦シーンとかまるで映画を観てるような鮮やかさで再現されている。
さらに青い海の上に浮かぶ船から聞こえてくる波の音から、海賊たちの雄叫びや、剣と剣がぶつかり合う音までもが聞こえてくるよう臨場感。
とにかく文体がエンターテイメントに溢れている。
そしてさらに登場人物がいいんだなあ。
男が男に惚れるような荒々しい魅力をまき散らす真鍋七五三兵衛をはじめとして、出てくる男どものなんと勇ましくも可愛らしいことか。
「信長公記」やらいろんな文献から、響を除くすべてが実在の人物であり、まあそれぞれの人物の設定は作者の独壇場で盛り付けられているものなんだけど、その強烈な個性はどれも痛快だ。
一方そんな男たちの中に一人、紅一点として放り込まれた姫はというと、やっぱり無理があるんだよねえ。
まあ強いっちゃあ強いんだろうけど、猛烈に嘘くさく、さらに我がまま放題に育てられたお姫様の、無邪気というか空気を読めない天然ぶりは、残念ながらまったく共感できなかった。
そんな無理をねじ込んでいるので、内容としては読みやすくて面白いんだけど、時代小説としてはほぼ漫画レベルであり、あくまでもフィクションとして読むものかなあ。
あと読んでる間中、これなんで映画化されないんだろうかっていう、心の叫びが止まらなかった。
今のところ予定もないみたいなんだけど、キャスティングを考えるだけでワクワクしてしまう。
調べたら同じようにキャスティングを妄想してる人たちがたくさんいて笑ってしまった。
村上響には杏さんやら綾瀬はるかさんの名前が挙がってるんだね。
私も響や七五三兵衛とか誰にしようかいろいろ考えたんだけど、やっぱり難しいねえ。
でも一人だけ浮かんだ人物がいる。琴姫。この人物は黒木華さんで決まり!どうでしょ?
いつものように本屋大賞関連の本を探していたんだけど、今回はまだ読んだことのない作家さんの小説をということで選んだのが、原田マハの『キネマの神様』。
同作家の2013年本屋大賞の第3位だった「楽園のカンヴァス」をとも思ったんだけど、ルソーやピカソとか美術の世界の話でなんだかちょっと取っ付きにくいということで、いかにも映画好きが食いつきそうな本作をチョイスする。
ビルの管理人をしている父が心筋梗塞で入院してしまったため、代わりをすることになってしまった娘の円山歩39歳独身。
今日も薄暗い管理人室にこもり、もてあます時間をDVDでの映画観賞に費やしている。
つい最近まで国内有数の再開発企業「アーバンピーク東京」で、課長として都心部にシネコンを作るプロジェクトを中心となって推し進めてきた歩にとって、身に覚えのない噂による辞職は突然やってきた。
そんな十七年間務めた会社を辞め、途方に暮れていた歩のもとに、ある日突然思いがけないところから仕事のオファーが舞い込んでくる・・・。
管理人室で映画好きの父親の、今まで見てきた映画の感想を書いたノートを読んだことから始まる奇跡のようなお話。
映画好きの人たちすべてにそそがれる、キネマの神様からの柔らかく心地よい光に身を委ね、ただただ映画が好きでよかったと思わせてくれる物語。
登場人物のほとんどが映画が好きという、夢のような環境の中で語られる、様々な映画の批評がどれも素晴らしく、つたないながらも同じようにレビューを書いているものにとって、書き続ける動機を改めて自分で実感できる幸せの、なんと嬉しいことか。
そして世代を超えて愛され続ける総ての映画作品が、たまらなく愛おしくなってくる。
ほんとに映画っていいよなあ(^^)
そして後半で訪れるクライマックスでは、ぼろ泣きの衝動が押し寄せる。
2,3行読んでは本から目を離し、流れ出しそうになる涙をこらえ、しばらくインターバルを置き、また本に目を移し2,3行読んでは本から目を離し、けっして電車の中にいる人に泣いてる顔を見られないようにという行為を繰り返すはめに。
これもう反則だよ(^^;)
そしてあっという間に読み終えて感じるのが、嘘みたいだけどキネマの神様の存在。
なにが凄いかって、後半の一番盛り上がるところを読んでいるとき、まさにiPodから流れてきた曲が、パーシー・スレッジの「男が女を愛するとき」だった。
「ジャージ・ボーイズ」を観た後に録った「60's 洋楽ヒッツ」の中に偶然入っていた一曲。
このタイミングでどんだけいい曲流してくれるんだよ。
しばらくは何かちょっとしたことでもいいことがあると、神様のご加護だなんて思ってしまう自分に笑ってしまう。
「キネマの神様、これからも素敵な映画をいっぱい見せてくださいね」
「その女アレックス」で随分気分をブルーにさせられたので、今回は楽しい小説をと思い、三浦しをんの『木暮荘物語』を読む。
おんぼろアパートに暮らす住人たちのほのぼのした物語を期待してというか、ありがちな話なので軽い気持ちで読めるかなあ、なんて特に何も考えずに選んでみた。
三浦しをんさんなら、まだ「まほろ駅前多田便利軒」とか「舟を編む」とか読んでないので、こっちの方を読めばよかったんだど、とにかく「アレックス」のダメージが大きく、ページ数も少ないのを読みたかった(^^;)
小田急線の世田谷代田駅から井の頭線の新代田駅方向へ歩いて5分ほどの住宅地に建つ、木造二階建ての古ぼけたアパート「木暮荘」。
ある日曜の昼下がり、203号室の坂田繭の部屋に来客を告げるブザーが鳴る。
彼氏と部屋でごろごろとしながらおしゃべりをしていた繭は、慌てて部屋着を身に付け、玄関のドアを開ける。
そこには元彼の並木がにこにこして立っていた・・・。
アパートの住人の話がオムニバス形式で語られるんだけど、いきなり三角関係の話だったので、「アレックス」の後にいきなりこんなぬるい話かとちょっとがっかりしてしまう。
しかも繭はその関係がまんざらでもなく、現在交際している伊藤も特に怒るわけでもなく、並木は全くお構いなしで、挙句の果てに川の字になって寝るという暮らしになってしまう。
なんだかちょっと気持ち悪い。
続いての話は、木暮荘の大家である木暮である。
ここから俄然面白くなる。70を過ぎたおじいちゃんなのだが、病気で入院している友人のもとに見舞いに行ったとき、友人から「かあちゃんにセックスを断られた」と聞き、友人がそのまま亡くなったのを機に、激しい性欲に目覚めてしまうという話。
この話が抜群に面白い。その後も住人たちやかかわる人たちのほぼ下ネタがらみの話が続く。
中には天井に空いた穴から、ずっと女子大生の部屋を覗き見してるという、ほとんど変態のサラリーマンの話まである。
なるほど、今回はそういうお話か。
愛とつながりに翻弄される住人達。人とかかわりを持つことで生活が一変してしまう可笑しさと楽しさ。
そして人とつながるということの意味を、ヘンテコな住人達が語りかけてくる。
粘膜と粘膜をこすりあわせる行為と愛情は、別の感情ではないのか。
そんなとんでもな問いかけを、思いがけず恥かしげもなくストレートに突いてくる。
作品の空気感はハートフルっぽいけど、なんとも内容は生々しい。
少々かけ離れた世界に終始心はもやもやしたまま。奇妙な作品である。
ただ登場人物たちを見ていると、本能が求めるものと心が欲するものとのギャップが人生を面白くし、そのギャップを克服することで人生は前に進めるんだなあ、なんてことを感じてしまった。
人生を楽しく生きるコツがここに描かれている・・・、かも(^^)
“驚愕、逆転、慟哭、そして感動”
最近はハートフル系ばかりを読んでいたので、たまにはミステリーをと思い、Amazonランキングをみて選んだのが、ピエール・ルメートルの『その女アレックス』だった。
この作品30万部突破のベストセラーなんだけど、その紹介文がまたすごいのだ。
「このミステリーがすごい」や「週刊文春ミステリーベスト10」「ミステリが読みたい」などなどいろんなミステリー部門の第一位となっていて、もろもろ合わせて史上初の6冠達成!だって。
どんだけ凄いんだっていうのでさっそく読んでみた。
ヴォージラール通りのレストラン「モン=トネール」での食事を終えたアレックスは、ちょうどバス停にバスが止まったのを見つけ、足早に向かったが、不意に気が変わり、アパルトマンまで歩いて帰ることにする。
数メートル先で歩道に片輪を乗り上げて止まっている白いバンがいたので、アレックスは建物に身を寄せて通り抜けようとした瞬間、後ろから男に殴り倒され、あっという間に手足を縛られ車の中に放り込まれてしまう・・・。
ここずっと癒し系をよって読んでいたせいなのか、とにかく文面があまりにも刺激的を通り越して残虐であり、読み終わった後はただやっと終わったという安心感、やっとほっと一息つけたという安らぎみたいなものを感じた。
内容については、文庫本の帯に「101ページ以降の展開は、誰にも話さないでください」、なんて書かれるので、とりあえずそこまでのあらすじ。
拉致されたアレックスはある建物の冷たく暗い部屋で、狭い木の檻の中に裸で監禁されてしまうんだけど、この100ページほどのページ数を割いて語られるのは、ほぼその檻の中でもだえ苦しむアレックスの生々しい描写。
いつまで続くんだとうんざりするぐらいねちねちと語られていくだけで、早く次の展開に移ってほしいっていうストレスに、なかなかページが進まない。
そしてこの物語にはもう一人メインとなる刑事が登場するんだけど、数年前ある事件で妻を殺されていて、現場に復帰できずにいたカミーユという刑事の捜査状況が、アレックスの監禁のシーンと並行して語られていく。
そして何しろ驚愕と感動のストーリーだと、かなりハードルが挙げられた状態を故意に提供してくるので、101ページ以降は当然予想を遥かに超えた衝撃の展開が待ち受けている。
なにより本の帯にはもう一文、“その女が、世界を震撼させる”と、監禁されている女になんで震撼させられるのかという謎が、大きく立ちはだかる。
徐々に解き明かされる真実は、最後まで読み進める原動力として、激しく読者を刺激し続けるが、ただ読み進めていくたびに味わされる、人間という生き物の中に脈打ち続ける、吐き気すら催す醜悪な血の味は、繰り返し気分を滅入らしていく。
これを面白い小説だと言えるのかわからないが、よくこんなえげつない話を作り出したものだと、作者の頭の中に広がる闇の世界にこそ驚愕させられる。
唯一の救いは、カミーユを部下としてサポートしていく、どこまでも誠実なルイと、どこまでも人間臭いアルマンの姿だけだった。
改めて文庫本のジャケットのイラストを見ると、よくこんな本を読んだなと自分に驚いてしまう。
人間平穏な生活が続くと、不意に刺激的な何かを欲するというか、血が求めてしまうんだなと、ふと考えてしまい、なんだかぞっとしてしまった。
さあ、次は楽しい本を読もう!