毎朝、龍くんを幼稚園に送りに行きます。
「お母さんはお外で待ってるからね。何かあったら飛んでくるから」と言ってバイバイし、そう言った舌の根も乾かないうちに家路につくのが日常。
私と離れる不安を、少しでも和らげるために小さな嘘をついています。
「何であの標識は曲がってるの?」
「龍くんにオハヨウって挨拶してるんだよ」
「どうして雨が降っちゃったの?」
「龍くんが幸せそうだから、お空が嬉し泣きしてるんだよ」
思えば、龍くんに真実を話すことはほとんどないことに気づきます。
なぜなら、「なぜ標識が曲がったのか」も、「どうして雨が降るのか」も、実際のところの真実なんて、私だって知らないから…。
どうせ分からないなら、少しでも龍くんの世界が優しくなるような嘘をついたほうがいいと思って。
そうやって、私も優しい嘘に包まれながら大きくなったはずだから。
いつか、母親が嘘をついて家路についたことも、標識が曲がってしまった理由も、雨が降る原理も、何となく分かるときがくるでしょう
その過程で、世界が自分にそれほど優しくないことも体感することでしょう。
それでも、心持ち次第で優しく変えることはできるでしょう。
自分のためじゃなく、誰かのために優しい嘘がつける人になってほしい。
…それは龍くんにしか優しい嘘がつけなくなった、私の勝手な願いです。