フリージア工房 国道723号店

ハロプロメンバーを応援してアイドル音楽を愛するエッセイブログ

「風よはやく」

2013-03-11 23:25:43 | アイドル etc

 二年前、ドロシーリトルハッピーがエイベックスから念願のメジャーデビューを飾った。記念すべきデビュー作はシングルではなく、インディーズ時代に発売したシングル曲を含むミニアルバムだった。どの曲も繊細な音と繊細な歌詞で綴られた素敵なナンバーたち。ライブでの盛り上がりを重視した曲を作りがちな最近のアイドルシーンに於いて、聴かせる曲、伝える曲をラインナップに散りばめるのは作り手の良心を感じさせ、プロデューサーの坂本サトルさんがミュージシャンであり、ギター片手に各地を回りながら歌うライブ歌手であるからこそ、「音楽」を大切にしているのだと私は受け止めた。

 ドロシーのミニアルバムは発売記念イベントを色々と開催する予定だった。しかし、二年前のこの日起こったあの出来事で全ての計画が狂った。

 土地に根ざして文化的活動を行なっている人達はたくさんいる。それは音楽に限らない。地域密着というスローガンを掲げて様々な活動をしているJリーグも然り。
 二年前、ほんの少し世間の動揺が落ち着き始めた頃、国立競技場でJリーグによるチャリティーマッチが行われた。三浦知良選手がゴールを決めた事が大きな話題となったあの夜。国立競技場のスタンドにこだましたチャント(応援歌)があった。
 ベガルタ仙台のサポーターが試合前の選手入場で歌っている「カントリーロード」だ。多くの人々に知られたこのアメリカ生まれの名曲が夜空に響き渡る。仙台のサポーターだけでなく、全国のJリーグチームのサポーターが歌声を重ねた。

 ドロシーリトルハッピーは2012年早々にエイベックスからメジャーシングルデビューを果たした。これで本格的にメジャーレーベルアイドルである。
 それでも彼女達は仙台を「ホーム」にする事を続けた。皮肉な事に一連のメジャーシングルはトーキョーメジャーアイドルが歌うような楽曲と代わり映えしないような明るいポップスで、それはどこに根ざして歌うか?という意味は見いだしにくい、無国籍音楽ならぬ無地域音楽とも呼べそうなポピュラーソングであった。

 時間というものは様々なものを風化させる。時間は誰にでも、どこにでも平等に流れているから、何かを成し遂げようとしてきた人は何かを変えていく事が出来る。二年と1日前に存在した風景は帰って来なくても、二年前の風景は変えていく事が出来る。それを遠い街で暮らす私達も知っておくべき事なのだろう。

 ドロシーリトルハッピーは昨年末に「風よはやく」というシングルを発売した。そこには再びあの頃のような響きが帰ってきたように感じるのだ。それはきっと曲調が云々というような上辺の話ではなく、もっと奥底に流れている何かが、静かに、着実に、遠くの町でも動いている事の手紙みたいなものかもしれない。

 正月、渋谷公会堂でアイドルグループがたくさん集まってコンサートを行なった。そこにはドロシーリトルハッピーも立っていた。セットリストはグループ毎に持ち歌を数曲歌うというもの。ドロシーの歌う番になった時に客席の後方からチャントが聞こえてきた。ベガルタ仙台のチャントだった。

 風はどの町にも吹いている。強くなったり弱くなったりしながら。大切な事はそんな風を、どこにでもあるものとして身近に想える心であるような気がする二年後の春。

風よはやく / Dorothy Little Happy


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