とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

葛(くず)

2010-07-30 22:50:44 | 日記
葛(くず)



 押さえ付けるような陽射しが日に日に強さを増している。疲れが体の隅々までへばり付いていてとれない。だから、仕事のない日は気が緩んで、つい少し朝寝をする。寝床の中で今朝一番に考えたことは、東側のカイヅカイブキの生垣のことだった。空き地の方から垣根全体に葛の蔓(つる)が被さってきて、物干し場の屋根まで覆い尽くしている。時々「何とかしないと……」と言っていた妻の言葉がまた私に追い討ちをかけた。そこで、<よし、今朝征伐してやろう>と思い立った。





 と言っても、家には草刈り機などないので、刈り込み鋏(はさみ)を探し出して、身づく
ろいをして東の空き地を覗いた。ひどいものだ。セイタカアワダチソウやヨシをすべて隠して緑の大きな山が出来ている。私は瞬時ひるんでしまった。しかし、幸いまだ朝飯前なので比較的気温が低い。私は生垣の際を、蔓や草の茎を断ち切りながら進んでいった。私はすっぽりと草の山の中に埋もれてしまった。まるで密林の中に迷い込んだような気持ちになった。しかも汗が体中から吹き出てきたし、息も苦しくなりだした。何度かもう止めよう
と思った。しかし、意に反して手の動きは挑戦するように激しくなっていく。<戦いだ>
と心は叫んでいた。……やっと貫通した一筋の道。私はぐしょぐしょになった衣服を不快に思いながら、そこを吹いてゆく風の道を思った。「涼風の曲りくねって来たりけり」。一茶の句を清清しい気持ちで思い出した。
              (2004年投稿)