とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

二つの結婚式

2013-03-17 23:34:35 | 日記
二つの結婚式




 「花の洗礼」藤田嗣治

 藤田嗣治は西洋画と日本画の融合を試みた画家と言われている。この作品も仔細に見ると、描線が繊細で、色彩が淡い。人物の表情や仕種にも日本画的な雰囲気を感じる。ごく個人的な印象だが、釈迦三尊像を念頭に置いて描いたような感じもする。


 私のところに二通の招待状が届きました。郁子さんと笙子さんの結婚披露宴の招待状でした。開いてみると、日時、会場が一致していました。会場はご縁市場の体育館でした。いよいよかと思い、長柄さんに連絡すると、彼にも届いていました。古賀所長に連絡して確かめると、詳細な内容が明らかになりました。郁子さんは出雲大社で、笙子さんは氏神様でそれぞれ式を挙げ、二組が合同で披露宴をするということでした。古賀さんは「三美神の活動拠点が定まりました」と言って喜んでおられました。会費制で質素に行うことも案内状から分かりました。それから、どちらもご両親が出席されるということも分かりました。すると、出雲大社の方はマスコミや見物人が押しかけてごったがえすだろうし、笙子さんの式はひっそりと行われるだろうと私は想像していました。式の前日電話があり、治子も千恵子も招待されていることを知りました。
 挙式の当日、私と妻は興奮を抑えきれないまま披露宴の会場に向かいました。ご縁市場に着くと、駐車場にはもうたくさんの車が止めてありました。タクシーもひっきりなしに出入りしています。受付には顔見知りのお方がたくさん手伝いしていました。体育館に入ると、暗幕を下ろして照明効果を計算し、ほどよい明かるさが雰囲気を醸し出していました。湖笛の照明スタッフのプロの技術を感じました。並べられたテーブルには「寿」とか「愛」とかの表示がしてあり、ホテルの結婚式場を思わせました。すでに座っている人もありました。私たちは「幸」というテーブルで、名札を見ると、長柄さんや治子、千恵子、そして三朗の名前もありました。料理は豪華とは言えないもののお祝いのおもてなしの気持ちが籠ったメニユーでした。舞台には花で飾られた二組の新郎、新婦の席が準備してあり、左端と中央にマイクが設えてありました。・・・しばらく妻と雑談していると、長柄さんが座り、私たちのテーブルもすべて揃いました。「千恵子、子どもはどうしたんだ。」私が聞くと、「悪いけど姉さんの旦那さんとこに・・・」と言いました。「そうか、大変だな。」と言いながら、私は、関係者だけに絞らないと人数が膨らむだけだからしかたがないかと内心思いました。やがて舞台左端のマイクに進行係の女性が立ちました。見ると、今回もまた長柄さんの娘さんでした。録画スタッフやテレビ局の関係者がカメラを担いで前の方へ動き出しました。


 ただいまより、鈴木、坂本ご両家、および遊木、小仲ご両家の結婚披露宴を開催いたします。ご多忙の中、ご出席いただきありがとうございます。それでは、新郎、新婦の入場でございます。盛大な拍手でお出迎えください。・・・私たちはエスコートされ舞台に立ち現れた二組の新郎、新婦を注目しました。すべて洋装でした。豪華にドレスアップしているとは言えない雰囲気の目立たない服装でした。それを見て、私は却ってぐっと込み上げてくるものを感じました。これでいい、これでいい。私は何度も心で呟きました。長柄さんも涙ぐんでいる様子でした。

 それでは新郎、新婦のご両親のお礼のご挨拶をお願いします。・・・すると、下手から合計8名のこれまた洋装のご両親が現れ、舞台中央のマイクの前に整列しました。私は、最初おやっと思いました。順序が全然違うのでは・・・。しかし、両親の挨拶を先にした理由が挨拶を聞いて理解できました。

 最初に遊木、小仲ご両家を代表して、ご新郎のお父様、お願いします。

 この度はこのような盛大な会を催していただき、ありがとうございます。本来なら私共がおもてなしをしなければなりませんが、ご縁市場のそれこそ尊いご縁によって結ばれた夫婦でございますので、皆様のお気持ちに甘えさせていただきました。私たちは地元でございますので、これから一層皆様のお世話になることと存じますが何卒よろしくお願いいたします。二人はこれから一層修業し、神に仕える心構えを磨きますので将来ともに温かく見守っていただきたいと思います。簡単でございますが、ご挨拶に代えさせていただきます。

 ありがとうございました。続きまして鈴木、坂本ご両家を代表して、ご新婦のお父様、お願いいたします。

 こんにちは、私はご縁美術館でお世話になっています坂本でございます。郁子に出雲の地にご縁をいただき大変感謝しています。また、先般中村仙女の公演をこの会場で行いました折には多数ご来場いただきありがとうございました。今日は仙女もこの目出度い席に馳せ参じております。後程皆さんへのお礼と新郎、新婦へのお祝いの気持ちを込めて日舞をご披露いたします。すでにご披露いたしておりますように郁子はいずれ2代目として独り立ちいたします。その日までこの劇場でみっちり修業いたします。どうか皆さんのお力で一人前にしていただき、本格的に舞台に立たせてやっていただきたいと願っています。長くなりましたが、これから夫婦が力を合わせて舞台芸を磨きますので、何卒よろしくご支援のほどお願い申し上げます。このような立派な祝宴を設けていただきありがとうございました。

 ありがとうございました。それではご両親は宴席にお付き下さいませ。・・・ええ、そういたしますと、乾杯に入らせていただきます。では、乾杯の音頭を古賀所長にお願いいたします。みなさんご準備ください。・・・よろしいでしょうか。では、古賀所長さんよろしくお願いいたします。

 僭越でございますが、乾杯の音頭をとらせていただきます。・・・新郎、新婦、また、ご両家とご参加いただきました皆様のご発展を祈念し、乾杯をいたします。・・・乾杯!!

 ありがとうございました。・・・それではこれから祝宴に入ります。いろいろな催し等お楽しみいただきながらお時間の許すかぎりごゆっくりお楽しみください。・・・会場は急にざわついて、むせ返るような熱気に満ちてきました。・・・まもなくすると和楽器の音が流れ、舞台下手から中村仙女を先頭に一座の踊り手が踊りながら登場しました。すると会場から大きな拍手が湧き上がりました。能の「鶴亀」を日舞にアレンジしたものだと説明されました。・・・それが終わると、小学校の校歌のメロデイーが流れてきました。ご起立くださいとのアナウンスがあり、配られた校歌の歌詞の紙を見ながら全員が歌い始めました。すると千恵子が舞台に上がり、歌いながら手で拍子をとりだしました。会場のお客は少しも奇異に思わない様子で手の動きに合わせて歌っていました。私は、じっと千恵子の顔を見つめていました。笑顔が輝いていました。
  
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