私の棲家は・・・

奥入瀬の滝
(無料ホームページ作成用素材 フリー素材屋Hoshinoより借用、多謝)
空き家の管理人は、長柄さん、・・・ではない。誰だっけ。私は、最初は心地よかった空き家住まいに少しだけ違和感を持つようになっていました。ですから、早く我が家に帰りたくなりました。管理人、確かに貴方は私がずっとここ諏訪の人間だったと言っていた。けれど、私には全く記憶がない。だから、私の家はどこですか、とはっきり尋ねたい。ああ、そうだった。方丈さんに尋ねればよかった。などと考えながら二、三日そこで過ごしました。すると、ある朝、当の本人が訪ねて来ました。
陶山さん、住み心地はいかがですか。・・・そうだ、忘れてた。食べ物はどうしていらっしゃいまかすか。
ありがとうございます。近くのコンビニと百円ショップで何とか手に入れました。あのー、長柄さん、じゃなかった、あのー・・・。
新田です。覚えておいてください。
ああ、そうでした。新田さん、まさかここが私の家ではないでしょうね。
それはこの前言った通りです。貴方はここが気に入って、借りたいと・・・。
ああ、そうでした。新田さん、そうすると、私の家はどこにあるのでしょうか。それとも無いのでしょうか。教えてください。
ふらっとやって来られたんで、どこのお方かよく分かりません。
いや、貴方は私に諏訪の人間だと仰ったはず。
あっ、そうでした。ええ、どう言ったらいいんでしょうか。誰かから聞いたんだと思います。空き家にやって来た人は、諏訪の裏滝の人だと・・・。その人は確かにそこで貴方を見たとか言ってました。
裏滝ですか。
そうです。
どこにその町はあるんだすか。
そうですね。ああ、ここから南を眺めますと、一際大きな山が聳えていますね。
ええ、そうですね。
500メートルくらいあると思います。あそこの谷を登っていくと、大きな滝があります。滝の正面から見ても見えないんですが、滝の裏には古い隧道があります。その奥に進みますと急に視界が開けてきます。のどかな村が広がっています。別天地ですね。浮世離れしている感じです。そこが裏滝の村です。
桃花源記みたいな感じですね。
そうです。桃源郷です。
もしかして、そこに入ると出ることができないとか・・・。
いや、そんなことはないと思います。現に貴方は出てこられた。
面白い。行ってみたい。
そうですか。じゃ、これから私の車で・・・。
どうも・・・。
断っておきますが、私は隧道には入りませんよ。
ああ、やっぱり、何か怖いところなんだ。
いや、村にはたくさん住んでいるので、そんな雰囲気ではないと思いますが・・・。
新田さん、私の家があるところです。早く行きましょう。私はどうなっても構いません。
分かりました。じゃ、すぐに・・・。・・・まもなく車が空き家の前に止まりました。新田さんがドアを開けてくれました。車はまっすぐに南の山に向かって走り出しました。私は次の章句を思い出していました。
「・・・初め極めて狹く, 纔かに人を通すのみ。 復た行くこと數十歩, 豁然として開。土地平曠として, 屋舍儼然たり, 良田美池桑竹の屬有り。 阡陌交も通じ, 鷄犬相ひ聞ゆ。 其の中に往來して種作するもの, 男女の衣著, 悉く外人の如し, 黄髮 髫を垂るも, 並に怡然として自ら樂しむ。・・・」
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陶山さん、住み心地はいかがですか。・・・そうだ、忘れてた。食べ物はどうしていらっしゃいまかすか。
ありがとうございます。近くのコンビニと百円ショップで何とか手に入れました。あのー、長柄さん、じゃなかった、あのー・・・。
新田です。覚えておいてください。
ああ、そうでした。新田さん、まさかここが私の家ではないでしょうね。
それはこの前言った通りです。貴方はここが気に入って、借りたいと・・・。
ああ、そうでした。新田さん、そうすると、私の家はどこにあるのでしょうか。それとも無いのでしょうか。教えてください。
ふらっとやって来られたんで、どこのお方かよく分かりません。
いや、貴方は私に諏訪の人間だと仰ったはず。
あっ、そうでした。ええ、どう言ったらいいんでしょうか。誰かから聞いたんだと思います。空き家にやって来た人は、諏訪の裏滝の人だと・・・。その人は確かにそこで貴方を見たとか言ってました。
裏滝ですか。
そうです。
どこにその町はあるんだすか。
そうですね。ああ、ここから南を眺めますと、一際大きな山が聳えていますね。
ええ、そうですね。
500メートルくらいあると思います。あそこの谷を登っていくと、大きな滝があります。滝の正面から見ても見えないんですが、滝の裏には古い隧道があります。その奥に進みますと急に視界が開けてきます。のどかな村が広がっています。別天地ですね。浮世離れしている感じです。そこが裏滝の村です。
桃花源記みたいな感じですね。
そうです。桃源郷です。
もしかして、そこに入ると出ることができないとか・・・。
いや、そんなことはないと思います。現に貴方は出てこられた。
面白い。行ってみたい。
そうですか。じゃ、これから私の車で・・・。
どうも・・・。
断っておきますが、私は隧道には入りませんよ。
ああ、やっぱり、何か怖いところなんだ。
いや、村にはたくさん住んでいるので、そんな雰囲気ではないと思いますが・・・。
新田さん、私の家があるところです。早く行きましょう。私はどうなっても構いません。
分かりました。じゃ、すぐに・・・。・・・まもなく車が空き家の前に止まりました。新田さんがドアを開けてくれました。車はまっすぐに南の山に向かって走り出しました。私は次の章句を思い出していました。
「・・・初め極めて狹く, 纔かに人を通すのみ。 復た行くこと數十歩, 豁然として開。土地平曠として, 屋舍儼然たり, 良田美池桑竹の屬有り。 阡陌交も通じ, 鷄犬相ひ聞ゆ。 其の中に往來して種作するもの, 男女の衣著, 悉く外人の如し, 黄髮 髫を垂るも, 並に怡然として自ら樂しむ。・・・」
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