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思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『北アジア史』 護雅夫・神田信夫:編

2025-04-16 15:07:24 | 日記
『北アジア史』 護雅夫・神田信夫:編

遊牧民関連で読みまくっている護雅夫先生が
編者を務める『北アジア史』。
1981年初版。
山川出版社の<世界各国史>シリーズの12。
中国史に加えて西アジア史、北アジア史で一冊ずつ出している。
慧眼である。

まずは北アジア(主にシベリア・モンゴル)の古代文化。
続いて
「遊牧民族」(匈奴、突厥、ウイグル)「モンゴル」「満州(女直人)」
それぞれの民族から見た歴史を描きます。
なので、繰り返しになるところもある(唐、五代、宋は何度も出る)が、
多視点からのアジア史が見えておもしろいです。
一方の意見と他方の意見は違うよね〜、という当然のことが
よく分かります。

古代に遡ると、紀元前7〜5世紀にはモンゴル高原に
遊牧経済ができていたそうです。
ギリシア人は「スキタイ」、ペルシア人は「サカ」と呼んでいた。
スキタイといえば黒海沿岸でアケメネス朝ペルシアと
わちゃわちゃやってたイメージ。
モンゴル高原全体に散在していたのかな。

まあ、北アジアにおいては最初の主人公は遊牧民族ということです。
紀元前3世紀には匈奴が登場。
中国人には「夷狄(いてき)」と呼ばれたそうです。
中華“じゃない”人を表す「四夷」の「北狄+東夷」ですね。

匈奴→鮮卑→柔然→突厥→ウイグル
ここらへんは護先生の『古代遊牧帝国』にまとめられてます。

10世紀の北アジアの覇権は、
沙陀(さだ、トルコ系)vs.契丹(タタル=モンゴル系)。

沙陀は、トルコ系、西突厥の末裔。
沙陀人国家が「晋」「後晋」「後漢」「北漢」。

契丹は「遼」。
同じくタタル系で外モンゴルの烏古(ウクル)、阻卜(ツプク)を支配。
部族名(?)がかっこいい笑
政治的に管理するための部族単位は石烈(シレ)、彌里(ミリ)。
領民的組織単位は幹魯朶(オルド)。
厨二心をくすぐる単語が怒涛のように出てくるのよ笑

阻卜(ツプク)内のケレイト部族が力をつけてケレイト王国に。
ケレイト王に引き立てられて当時弱小だったモンゴル部族が発展。
ここでモンゴル部からテムジン(チンギス=ハーン)が登場。
有名人が来た!

で、元になるのが、モンゴル的視点。
そもそもは弱小部族の名だった「モンゴル」が民族を表し、
モンゴル平原・モンゴル人民共和国という広い範囲を表す言葉へと
出世(?)したわけです。

次は、満州的視点。
「満州」も元々は古代中国人が「東夷」と呼んでいた民族の名。
ツングース系と言われている。
紀元前まで遡ると、「貊(ばく)」狩猟牧畜民、「穢(わい)」漁労民がいて、
貊人が「扶余(ふよ)」という国家を建てたのが始まりらしい。
扶余に続いて前1世紀にできたのが高句麗。
おお、有名国がきた!

高句麗は、中国エリアの前漢、後漢にちょっかい出したり
モンゴル系の鮮卑(前燕)と遼東地方を奪い合ったり。
満州系だと、挹婁(ゆうろう)、勿吉(もつきつ)、靺鞨(まつかつ)が
力をつけていきーの。

713年、靺鞨人が渤海(ぼっかい)建国。
奈良時代の日本に使者を送って修好していたそうです。
聖武天皇の時代ね。
その割に印象が薄いのですが、そんな渤海支配下にいたのが
女直族(女真族)で、12世紀に「金」を建国。
遼(契丹)も宋もやっつけてぶいぶい言わせます。
が、13世紀にチンギス=ハーンに滅ぼされる。
モンゴル強い〜。

とはいえ女直人は羈縻体制で自治をつづけ、
李氏朝鮮になったり、ヌルハチが後金をつくって
清国になったりする。

最後の章ではロシア進出前のシベリアの民族分布が
取り上げられていて、それもおもしろいんですよ。
ヤクート、ツングース、エスキモー、カムチャダール(イテルメン)、
それぞれに独自文化がある。
『ゴールデンカムイ』に繋がってそう〜。

いや〜、北アジアは広い。広いです。
そしていろんな人が住んでいる。
いろんな歴史がある。
楽しいね!
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『カルロス四世の家族』 博覧強記おじさんの美術エッセイ

2025-04-11 18:54:54 | 日記
『カルロス四世の家族』
井上靖

古本屋で買ったまま積読していた本。
1989年の中公文庫で、巻頭カラー図版が数ページついて
定価420円(古本屋で200円)。
ううむ、安い。

値段はさておき。
井上靖の美術に関するエッセイをまとめたものです。
副題は「小説家の美術ノート」で、
題材は以下。

ゴヤ「カルロス四世の家族」
桂離宮
レオナルド・ダ・ヴィンチ小論
顔真卿の「顔氏家廟碑」
「信貴山縁起絵巻」第一巻

洋の東西を問わず、博学な人である。

桂離宮に関しては、どんな人がどんな気持ちで
この建物をつくったのかなあ、という観点で
小説家っぽいおもしろさがあります。
周囲を借景する気のない塀囲みをする、その気持ち。
確かに考えてみると謎なような、共感もあるような。

顔真卿(がん・しんけい)は、唐代末期の書家、政治家。
腐敗しつくした唐の王室において
(玄宗が楊貴妃といちゃついていた時代)
謹厳実直、不正はついつい指摘しちゃう、みたいな人だったらしく、
何回も地方に飛ばされている。
そして書の方も「真面目!」って感じの上手さである。
おもしろい人だ。

最後の「信貴山縁起絵巻」もおもしろかった。
第一巻は詞書(ことばがき、絵巻の説明文)がないのですが、
じゃあ想像してみよう!ということで
井上靖があらすじを書いてみた、って内容。
なんか楽しそうだな。
別名「山崎長者の巻」と言われていて、
不思議な鉢が長者さまの蔵を盗むという、
「何言ってんの?」となる内容です笑
もうちょっと絵巻の図版があってもよかったな。

テーマも書き方もバラバラではありますが、
なんというか、井上靖って博覧強記おじさんだなあっと
改めて思う一冊。
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『馬車が買いたい!』 フランス文学読まなくちゃ!

2025-04-07 09:46:33 | 日記
『馬車が買いたい!』鹿島茂

本のベースは、雑誌『ふらんす』(1986)に連載された
「19世紀のフィジオロジー<我らが主人公>たちのパリ」。
こちらのタイトルの方が本の内容はわかりやすい。

作者が<我らが主人公>と設定しているのは
『ゴリオ爺さん』のラスチニャックや
『感情教育』のフレデリック・モローなど、
田舎から19世紀パリに上った若者たちです。

我らが主人公の作品を列挙すると
『ゴリオ爺さん』『幻滅』『あら皮』『浮かれ女盛衰記』
『感情教育』『レ・ミゼラブル』『赤と黒』。
お恥ずかしいことにひとつも読んでないのですが…。

彼らを通じて、パリに行き、パリを体験できる一冊。
視点が新鮮!
解像度が高い!!
すごくたのしい!!!

詳述されるパリの風景は19世紀半ば。
ナポレオン後の王政復古期、七月王政からの
第二共和政あたりまで。

まずは田舎からパリに向かいます。(そこから?)
徒歩の他に、大型乗合馬車(ディリジャンス)と
郵便馬車(マル=ポスト)。
後者は4人分しか客席がなくて貸切が容易なので
隠密旅行向き。へえ〜。

ちなみに鉄道がフランスに敷設されたのは1837年。
ロスチャ一族の資金による。

さて、パリに着いたらまずオシャレをします(まずそこか?)。
上昇志向の塊のような我らが主人公は、
生活費一年分相当をダンディーなファッションにぶち込みます。
おい。

とはいえパリで上流階級とのツテができる
チュイルリー公園は、オシャレじゃないと歩けない。

しかもパリって汚物まみれじゃないですか当然。
なので、公園なり劇場なりカフェなりの行き来に
徒歩は有り得ない。
オシャなズボンも靴も愛人のでっかいスカートも
一撃で汚物まみれになるので、
馬車は上流ライフの必須アイテムなのである。

というわけでタイトルに帰結します。
なるほど〜!おもしろ!!

馬車を買ったら、馬も必要だし
見栄を張るためには足の綺麗な従者(馬車の後ろに立たせる)
も必要だし、なんなら昼用(無蓋、二人乗り)と
夜用(屋根付き、四人乗り)の馬車も必要だし。
上を見たらキリがねえ〜〜〜。

バルザックは現実でも「馬車が買いたい!」と言って
暮らしていた人らしくて、
我らが主人公の中でも特にバルザックの登場人物は
どいつもこいつも「馬車が買いたい!」と悶絶しています。
俄然読みたくなってきた笑

馬車の種類の解説も詳細。
クーペ、ベルリーヌ、キャブリオレ、カレーシュ、ランドー。
それぞれに階級や財力の記号性がある。
えー、おもしろいじゃないですか!

さらに当時の貨幣価値(フランとリーヴルが混在している)も
解説してくれています。
めっちゃ古典文学の解像度あがる!!!
はやく原典を読みたい!!
この歳までフランス文学の名作を
ひとつも読んだことなかったのが功を奏した気がします!
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『幻のアフリカ納豆を追え!そして現れた〈サピエンス納豆〉 』 健ちゃんも現れた

2025-04-01 12:09:04 | 日記
『幻のアフリカ納豆を追え!
そして現れた〈サピエンス納豆〉』
高野秀行

謎のアジア納豆』と
味の素グリーンベレー』を読んだ際、
アフリカ納豆らしき存在が登場。
この勢いで『幻のアフリカ納豆』を読んだら
相乗効果でおもしろくなりそう〜、と軽く考え、
間を空けずに読みました。

相乗効果というか、
第一章の出だしが
高野氏をアフリカ納豆探索に誘う
「健ちゃん」からのメールである。

健ちゃん!!!
もしかしてあなたは味の素の…っ?!

と期待マックスで次ページに行ったら
案の定、味の素でデリダワをつくった
小林健一氏であった。
高野氏の小学校時代の同級生だそうです。

納豆の世界、狭っ!!!
納豆の運命の粘い糸、ヤバっ!!!

ひとりで本を読みながら興奮していましたが、
この歓びをシェアする相手はいなかった。
悲しい。
まあいいや、納豆食いながら元気に読書しよう。

ナイジェリアの村でダワダワの作り方を取材。
この取材も読んだな笑
小林氏の隣にいたんですね高野さん。
そしてセネガルの納豆は「ネテトウ」。
仲間感がすごい。

サヘル地帯(サハラ砂漠の沿岸)の納豆文化から、
韓国のチョングッチャン調査へ。

韓国は味噌も醤油も「カビと納豆菌」で発酵している。
ので、納豆・味噌・醤油が調味料として仲良く共存。
一方の日本は、味噌や醤油はカビ(麹菌)発酵で
納豆菌は締め出されており、別ジャンル扱い。

納豆菌の活躍の幅が違うんですね。
ちなみにキムチチゲに納豆を入れると本場の味になるらしい。
実用的ティップス!

再びアフリカに戻り、ブルキナファソで
パルキア納豆、バオバブ納豆、ハイビスカス納豆。
え〜、納豆って「大豆」じゃなくても良いんだあ…。
前作で納豆菌は「稲藁」じゃなくても良いと知った衝撃と
同じくらいのパワー。

今まで納豆=大豆×稲藁(納豆菌)の公式だったのに
大豆も稲藁も必須アイテムではなかった。
衝撃の二乗である笑

最後に納豆ワールドカップを開催して、
再び縄文人が納豆つくっていた説へと。
ストーリーテリング凄い。
というか、出版締め切りギリギリまでの
取材力がヤバいと思います。

納豆、おいしいしおもしろい。
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『麦酒主義の構造とその応用胃学』 シーナの脳汁濃いめの妄想エッセイ

2025-03-31 15:35:40 | 日記
『麦酒主義の構造とその応用胃学』
椎名誠

ご本人も書いていますが、
書かなきゃいけない締切に追われて
書きまくった感のあるエッセイたち。

これはこれで良い。
追い込まれて妄想を書き殴る感じとか、
窓から眺めた風景から無理くり捻り出した妄想とか。

飛行機の中で原稿用紙(白紙)を睨みながら
CAさん(存在しない仮名女性)とのやりとりを
妄想したかと思えば、
行きつけの店で友人・目黒孝二(仮名かと思ったら
実名。『本の雑誌』創刊の人ね)と飲んだ後に
夜の公園の謎を妄想したり。

7割くらい妄想を綴ったエッセイです。

書くべきことが山盛りの紀行エッセイとは一転して、
書かなきゃいけないテーマもないからこそ
椎名さんの脳汁が濃い感じがします笑
こういう思考回路なんだなあ、って。

ところで私、去年の夏の旅行中に
<あやしい探検隊>シリーズの一冊を読んでいたのですが、
読み途中で紛失したままだから
読書メモから取りこぼしているんだよなあ。
それとも夢だったかな。
(無人島に行くシリーズ。
現在のDASH島が登場していたと記憶してますが…)
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