思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

長岡弘樹『傍聞き』いいミステリ短編集

2021-03-25 18:16:23 | 日記
長岡弘樹『傍聞き(かたえぎき)』
表題作で第61回日本推理作家協会賞短編部門受賞。
デビュー二作目の単行本らしい(二作とも短編集)。

なんだかうまい人だなあと思った。

重めの背景を背負ったストーリーを、
読みやすい文章で胸焼けせずにスッと読ませます。
まとまりもいい。

解説の大森望いわく、日本は出版しやすい連作短編や
シリーズものが多いらしいのだけど、
(言われてみれば、本屋に並んでるのって連作ばっかりだ!)
この本は独立した短編ミステリ4作を収録しています。
どれもクオリティ高いです。

収録作は、
救急車に乗っている救急隊員が主役の『迷走』、
女やもめ刑事が娘と仕事に奮闘する『傍聞き』、
消防士が主役の『899』、
寡黙な元受刑者と更生施設の女所長を描く『迷い箱』。

「傍聞き(かたえぎき)」というのは、
「人の会話を聞くともなしに聞くこと」で、
そうやって仕入れた情報はつい信じてしまう“漏れ聞き効果”が
あるというのが、物語の鍵でもある。

どれも足腰がしっかりした短編ミステリ。
この作者、うまいなあと思ったら、『教場』の人じゃないですか。
なるほど〜。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『金を払うから素手で殴らせてくれないか』なんだこれ

2021-03-24 17:30:58 | 日記
木下古栗(ふるくり)
『金を払うから素手で殴らせてくれないか』。

私は何を読んだのだろうか…

と思うくらい、なんだか不思議な文学です。
いや、凄いです。
凄いんですけど!!!
何を読んだんだ?ってなる笑
そんな3つの短編。

『IT業界 心の闇』
「私」による長めの一人称がおもしろくてテンポよく読んだところ、
なぜか叙述が登場して「?」ってなった上に、
友人が参加した異業種交流会にまつわる怒涛のラストで
「???」ってなった。
すごいな。
変な作者なんだな。

という新たな認識で、次の
『Tシャツ』
を読んでみた。
今度は短めのセンテンスを重ねる技法が
いい感じでまたもやサクサク読んでたらいつの間にか
まち子が大活躍する樹海みたいなパート出てきて
いつの間にか主人公っぽかった外人さんがいなくなって
オバサン2人の話になってた。
おもしろいな。
変な作者なんだな。

で、表題作。
『金を払うから素手で殴らせてくれないか』
ブラックな職場から失踪した米原正和を、
米原正和とともに探しにいく鈴木。
何言ってんだって話しだけど、本当に文字通り、
そういうことなんです。なんだそれ。
それよりも、鈴木と川原の他にもう一人、
話者っぽいのがいるようないないような。
この文章は一人称なの三人称なの?っていうミラクル。
すごいな。
すごい変な人だな、この作者。

ちなみに私、生まれ年も出身地も一緒だ。
女性かと思って読んだのだけど、男性らしい。
よかった、ドッペルゲンガーかと思った。他人だ。

2014年のTwitter文学賞 国内編1位。
Twitter文学賞、あなどりがたし。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロードス島の思い出

2021-03-16 10:08:05 | 日記
ロードス島の話が続いて恐縮ですが、
最初に思い出す島が、残念ながらエーゲ海ではない私です。

10代のころ、ずっこけ三人組とかこまったさんの料理シリーズとか
図書館で借りられる本に続いて読んだのが、
兄の書棚にあったファンタジー系小説で。

「フォーチュン・クエスト」と
「ロードス島戦記」ね。
ついでに「ゴクドーくん」と「スレイヤーズ」も読んだ。

すっごい読んだ。
何度も読んだ。
(なにしろ本が少ない家で、他に読むものが無かったってのもあり)

灰色の魔女とか、暗黒騎士団とか、傭兵王とか盗賊ギルドとか、
万人の心に棲む中2男子心をくすぐるよね!!

ところで。
エーゲ海に実在するロードス島と、
ファンタジーのロードス島は関係ないと
関係各所では言われているようですが。
塩野七生『ロードス島攻防記』を読むと
だいぶ関係あんじゃねえか、というか、
めちゃくちゃ影響受けてんじゃねえか、と思っちゃいますけど
本当に関係ないのかな?

聖ヨハネ騎士団とオスマン帝国の存在とか、
中世ヨーロッパ系の文化風物をメインにしつつ
オリエントというかイスラム風の要素が
異国情緒たっぷりに配される構図とか。
エーゲ海のロードス島だよね?

こういうの、
ファンタジーの定番といえば定番なのかな。

塩野七生『ロードス島攻防記』は1985年初版、
ファンタジーの『ロードス島戦記』原案初出は
1986年あたりらしいので、
原案チームのどなたかは塩野作品を読んでたんじゃないかな。

と、数十年を経て、あの頃読んだ本に思いを馳せるのも
なかなか楽しい。
兄の本棚とジャンプしか読んでないけど笑
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

塩野七生『ロードス島攻防記』騎士道精神!!

2021-03-12 15:56:05 | 日記
イスラム世界の中でも大勢力を保ち
広大な領土と長期政権を誇ったオスマン帝国。
そんな600年史をサクッと学んだところで、
塩野七生『ロードス島攻防記』を読んだ次第です。

エーゲ海の小さな島、ロードス島。
そこを拠点に対イスラム活動をしていた聖ヨハネ騎士団と、
領土拡張イケイケ時代のオスマン帝国との攻防戦。

騎士団といえば、十字軍の落とし子である。

チュートン騎士団はプロシアに戻りゆるやかに自然消滅、
テンプル騎士団はフランス王の策略で1314年に壊滅
(フランス王は絶許な)、
唯一残った聖ヨハネ騎士団(病院騎士団)だけが西欧に戻らず、
キプロスの借家住まいを経て1310年、ロードス島へ移転しました。

で、1522年。
オスマン帝国のスルタン・スレイマンによる親征(侵攻)です。

塩野七生による西欧側視点から描いているので、
読みたてほやほやの小笠原弘幸のオスマン帝国史とは
解釈?描き方?がちょっと違うところもあって
そういう角度で読むのもおもしろいです。

表記も色々と違いますね。
小笠原視点では国名は「オスマン帝国」だけど、
塩野視点では「トルコ帝国(通称トルコ)」というのが最大の違い。
スルタンの表記も、
小笠原版の征服王メフメト2世は「マホメッド2世」、
文化政策に貢献したバヤズィト2世は「バヤゼット」、
冷酷王セリム1世、壮麗王・立法王スレイマン1世は、
ほぼそのまんまセリム・スレイマンと表記されています。

また、塩野先生曰く、1522年ロードス島攻防戦に先だって
1453年のコンスタンティノープル攻防戦で
トルコのマホメッド2世が大砲を活用したのが
エポックメイキングだったと。
軍事作戦的にも、築城技術的にも変革の端緒となったと言います。
ロードス島でも、対大砲を意識した城塞をせっせと工事しています。

余談ですけど、ほぼ同時代に生きたダ・ヴィンチも
大砲時代に即した城塞設計書(15世記末)を残しているとか。

キリスト教側の、生まれと教養に恵まれた騎士団に負けず劣らず
スレイマンの騎士道精神っぷりも凄い。
読んでいて「歴史ってたのしー!かっこいー!」ってなります。

ちなみに『ロードス島攻防記』の刊行は1985年。
『わが友マキアヴェッリ』が1987年。
どうやら塩野先生が愛するマキアヴェッリの準備期間中に
オラオラっと書いた作品のようです。
(そういう意味では後者よりこちらの作品の方がライトです。愛の差か?)
描かれている時代もほぼ同じなので併読すると面白い。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【読書メモ】2015年1月

2021-03-11 15:03:00 | 【読書メモ】2015年
<読書メモ 2015年1月>
カッコ内は、2021年現在の補足コメントです。


『鎌倉河岸捕物控 隠居宗五郎』佐伯泰英
人買いに売られる前に、豊島屋は明らかに人手不足だったのだから
紹介してやってもよかったのではなかろうか。
とか言ったら話しが進まなくなるな。


『鎌倉河岸捕物控 夢の夢』佐伯泰英
あれ?長編?
彦四郎には幸せになっていただきたい。


『あたらしいあたりまえ』松浦弥太郎
「暮らしの手帖」編集長のエッセイ。
独特の価値観を持っている人だなと思う。
「万年筆と仲良くなりましょう」という一節を読んで、
放置していたラミーのインクを入れ替えてみた。
が、すぐに詰まる。
仲良くなれない。
そういう小さな挑戦やら反省やらを与えてくれる本。
いい本。


『プラチナデータ』東野圭吾
やっぱりうまいし面白いんだよなあ。
犯人がごく近しいところにいることが早いうちにわかっていた割に
真犯人に対して油断しすぎではなかろうか。


『さよならバースディ』荻原浩
気になっていた作者の本。
類人猿ボノボに言葉を教える大学の実権がテーマ。
おさるの愛らしさは人間のこどもに通じるものがあるなあ。
そこが悲劇の元なのだけど。
稀少動物に実験と称して
我が子に与えるような愛情を注ぐのは罪だと思うな。
設定そのものが、業が深い小説だと思うけど
意図的なのか、作者はそれはさておきとか考えている人なのか。


『悪魔の涙』ジェフリー・ディーヴァー
おもしろかった。
文書検査官という職業が、FBIではこんなに価値を
おかれているんかなあと意外性もあって良かった。
「悪魔の涙」の正体は、大層な名前の割に…という感じでしたが。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする