思惟石

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『ダマセーノ・モンテイロの失われた首』 良心の手触りと、ポルトガルのご当地料理!

2025-02-04 15:10:09 | 日記
『ダマセーノ・モンテイロの失われた首』
アントニオ・タブッキ
訳:草皆(くさかい)伸子

タブッキは『レクイエム』を読んで、
いいなと思っていた作家。
で、『ペドロ・パラモ』を読んだ後に
よし、タブッキ作品を読み足そう!となった次第。

ところで私はタブッキのことを
スペインもしくは南米系の作家だと思い込んでいました。
イタリアの人だった〜。
意外〜。

とはいえポルトガル愛で有名な作家さんらしい。
ポルトガル及びその言語・概念・文化を愛し、
イタリアでは大学でポルトガル語を教え、
『レクイエム』に至ってはポルトガル語で執筆したそうです。
愛の規模がでかい!

それはさておき『ダマセーノ・モンテイロの失われた首』です。
これね、『レクイエム』の“非現実世界を逍遥する”気分で読んだら、
印象が違って驚きました。
意外と“現実の日々を生きる”印象なんです。
というか構成はミステリ小説に近い。

で、それがおもしろくないわけじゃない。
何しろジプシーのおじいちゃんが見つけた
首なし死体の身元探し事件なのだ。
ジプシーとの対話、Tシャツロゴのヒント、
謎のタレコミ電話、キャラが主人公より強い弁護士の登場…
ストーリー展開がおもしろくてさくさく読めます。

そして随所に描かれるポルトガルの南国!イメージ。
暑い!夜が長い!そして美味しそうなご当地料理!
(トリッパ、干し鱈(バカリャウ)料理、ミーニョ風ロジョインス)

そして衒学のような気がしないでもない
詩人や哲学者を引用しまくる思想や生き方にまつわる問答。
私は難しい概念はよくわからなかったけれど、
主人公フィルミーノの「たぶん(わかります)」と答えつつ
「でも、もっとかみ砕いて説明してください」と言う返答には
「それが正解だ〜!見習います!」と激しく同意しました。

一番好きなところは、ポルトから帰るフィルミーノが
閉店後の食堂車で記事を書こうと粘るところ。
ウェイターが明らかに迷惑がっているのに、
なぜか卵料理をご馳走してくれるし
なんとなく仲良くなってる。
良い人だ笑

そういえばフィルミーノもポルトという街への出張を
めちゃくちゃ嫌がっていたのに、
「よく知りもしないで、どうして一つの街を好きだとか、
嫌いだとか言えようか?論理的ではない」
とか屁理屈をこねてガイドブックを買って街歩きしてます。
楽しんでるじゃないか。
超良い人だ笑

タブッキの小説って、こういう、ちょっとした良心に触れる
実感があるんですよね。
この感じ、うれしくて、1日で読み終わってしまった。
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『オリーヴ・キタリッジの生活』 市井の人の心の襞よ!

2025-02-03 17:13:41 | 日記
『オリーヴ・キタリッジの生活』
エリザベス・ストラウト
訳:小川高義

この作者の
『私の名前はルーシー・バートン』
『何があってもおかしくない』
は架空の街アムギャッシュを舞台にした
人間模様が描かれていましたが。

『オリーヴ・キタリッジの生活』の舞台は、
アメリカ北東部にある小さな港町クロズビー。
こちらの方が作者の初期作品になります。

アムギャッシュは何にもない草っ原に
ひゅうひゅうと風が吹きさらしているイメージだけど、
クロズビーは田舎とはいえ隠居暮らしで移住する
高所得者層もいる海沿いの街。
アムギャッシュよりも涼しい風が吹いているイメージ。

タイトルに出てくるオリーヴ・キタリッジは
13篇の短編すべてに大なり小なり登場するけれど、
ひとつひとつを読むと主人公はオリーヴではないものが多い。
が、通して一冊を読み切ると、オリーヴの人生が
痛いほど追体験される。
いやもう、ほんと、痛いんですけど。

とにかく市井の人々への解像度が高い。
そうだよ、そう思うよ!もしくは、そう思いたいんだよ!
という挙動の連打である。
なんなんだろこの作者。

うーん、でもなあ、やっぱりオリーヴとは
仲良くなれないかなあ。
仲良くなれないけれど、あなたのことは好きだよ。
という複雑な感情。
揺さぶってくるんだよなあ、ほんと。
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