思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『怒り』 映画映えしそう〜(してる)

2023-05-30 12:02:08 | 日記
『怒り』
吉田修一

冒頭、都内での夫婦殺人事件。
動機の全くわからない不気味な事件なものの、
犯人の身元は判明。
でも逃亡。

そして一年後。
3つの場所での、3人の男との人間模様が本筋となる。

身元の曖昧な人間を信じられるかどうか。
うーん、むずかしいなあ。
近しくなってしまった後に、
その人の言葉をどこまで信じられるか。
調べちゃうお父ちゃんの気持ちもわかるし、
周囲から隠そうとしちゃう優馬の気持ちもわかる。
むずかしいよなあ。

信頼はどう築かれるのか。どう保たれるのか。
3つのケースそれぞれに、もしも自分が関わったとしたら、
どんな選択をするだろうか。
最後までずっと、うーんうーんと唸ってしまった。
唸りつつも、良い小説だと思った。

そして犯人の動機だけがわからね〜。
そこだけがもやもやする〜笑

ちなみに「怒り」の検索サジェストが
「犯人はヤス」状態なので、
未読のみなさまはGoogleトラップに気をつけてください。
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『ロボット・イン・ザ・ガーデン』 王道ほっこり

2023-05-25 10:23:38 | 日記
『ロボット・イン・ザ・ガーデン』
デボラ・インストール
松原葉子:訳

これ、ニノさんが主演してた映画の原作だよね?
知らずに読んでました(映画も観てないけど)。

映画の宣伝を観たときに、
ずいぶんレトロなデザインのロボットで
「ブレードランナーすら追い越した今、なぜこのデザイン?」
と違和感を覚えていたんですが、
原作を読むと、そこが肝だしチャームポイントでもあった。

ロボットをフル活用している時代ではありますが、
ザ・ほっこり系のほっこり小説です。

世間知らずの30代ダメ男のベンが、
ボロボロのタングを連れてイギリスの田舎町から
はるばるアメリカ・日本・パラオまで旅する様子は
とても良かった。
ベンがわかりやすく自己を顧みて成長する過程も良かった。

王道という感じですね。
ちょっと疲れてる時に読むと良いやつ。

ちなみに表紙絵は酒井駒子さん。
これだけでも素晴らしいなと感じる絵。

まあ、私の脳内再生タングは最初から終わりまで
吉田戦車の名作『一生懸命機械』でしたけど…。
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『オスマンvs.ヨーロッパ 』 歴史のコネクティングザドッツみ〜

2023-05-24 17:45:31 | 日記
『オスマンvs.ヨーロッパ  〈トルコの脅威〉とは何だったのか』
新井政美
講談社学術文庫

サブタイトルの通りですが、
ヨーロッパが感じていた「トルコの脅威」とは何だったのか。
を、両者の視点から解きほぐす一冊。

前半では、世界視点でオスマン帝国の成立までを描きます。
後半は、オスマン側に軸足を置きつつ、ヨーロッパとの関係性を解説。
あっちこっち読んでいた講談社現代新書たちの
コネクティングザドッツみがある一冊。
楽しいな!

前半でおもしろかったのは民族大移動かなあ。
モンゴル強すぎてトルコ系が西に押され、
トルコ系遊牧民(フン族)が強すぎてゲルマン人が西に大移動する。
これが世界史で習う「ゲルマン民族大移動」である。
って、ゲルマン民族、玉突きで押し出されてるじゃん〜。
モンゴルつよ〜。

(ノルマン人大移動のつよつよエピソードに比べると
 味わい深いなあ、と笑
 いきなりイギリスと南イタリア&シチリア征服してるの、
 「ほげ〜」って思ったけど、やはりモンゴル最強か…)

あとは、アラブ系イスラム国家から、
トルコ系イスラム国家への変遷もおもしろかった。

11世紀までにカラハン朝、セルジュク朝が
トルコ系イスラム教国になる。
→アナトリアのイスラム化&トルコ化が進む。
→アナトリア=ルーム(ローマの意)から
 トゥルキーヤ(トルコ人の地)へと変遷。
ふむふむ。です。

後半。
オスマン帝国が一気に拡張した時代
バヤズィト1世と戦った(1396年)のは
ルクセンブルク家の神聖ローマ皇帝ジギスムント。
この人は後にヤン・フスを火刑に処してフス戦争を引き起こす人。
ジギスムントの父は神聖ローマ皇帝カール4世。
ハプスブルクの破天荒野郎ルドルフに振り回された苦労人。

コンスタンティノープル陥落(1453年)の
メフメト2世の時代は、
フリードリヒ3世(神聖ローマ帝国の大愚図)の時代。
(ビザンツ帝国滅亡の際のフリードリヒへの
 菊池先生による悪口は冴え渡っている笑)

オスマン帝国の英雄スレイマン(1520−1566)の時代は、
神聖ローマ皇帝カール5世(ハプスブルク)と
フランソワ1世(フランス・ヴァロワ朝)がゴリゴリに
喧嘩していた時代だというのも、ドッツ味があって楽しい。

カール5世の息子はフェリペ2世
イギリス女王メアリと結婚してた人(色気むんむんの皇太子画の人)。
フランソワの息子はアンリ2世。
嫁はカトリーヌ・ド・メディシス
息子が3アンリの戦いに負けヴァロワ朝終了。

そしてスレイマン時代のオスマン帝国は
ビザンツを滅ぼした直後でイケイケである。
スレイマンが皇帝(カエサル)を自称し、
東西帝国を統べるという意識があったという視点は新鮮だった。
版図を見ると、それも納得という広大さだ。

スレイマンは、カール5世のことを「スペイン王」としてしか
認識していなかったというのも面白い。
お前、ハンガリーになんでちょっかい出してくんの?
と思うよな、そりゃ。

ミケランジェロやダヴィンチも
イケイケ時代のオスマン帝国からお誘いがあったとか。
散々迷ったけど二人はヨーロッパに留まったとか。
こうやって見ると、当時、思想的に拓けていたのは
断然オスマン側だったんだなあ、と。

歴史って学べば学ぶほど学びの味が出る。
するめみたいだな。
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『文豪たちの手紙の奥義―ラブレターから借金依頼まで』

2023-05-23 16:36:24 | 日記
『文豪たちの手紙の奥義―ラブレターから借金依頼まで』
中川越

タイトル通りの本です。

明治大正期の文豪を中心とした、手紙にまつわるお話し。

とはいえ、単なるお手紙紹介ではなく
「愛の手紙」「挨拶の手紙」等々、
テーマと章を読みやすく分けています。

興味がある項目から読んでも良いと思う。
借金の依頼状とかね!

(石川啄木から金田一京助への借金依頼状&謝罪の手紙は
 石川くんらしさが溢れていて流石です!
 清々しいくらい、お金を返す気が無いのよ〜)

夏目漱石の軽やかな借金お断りの手紙と、
樋口一葉の美文がよかった。
芥川龍之介の手紙は、作者は「純愛」と褒めていたけれど
私はちょっと引いた笑
細君を佐藤春夫に譲る譲らないと言ってる
谷崎潤一郎にはどん引きした。

手紙のコツとしてあまり難しく書かないこと、
等の有益なアドバイスもある。
が。
候文を自由に操っている手紙など見ると
「かっこい〜!真似してみたい!!」と思ってしまいます。
まあ、真似したくても書けないけど。
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『死者たちの七日間』 はい!星5つ!

2023-05-10 11:27:33 | 日記
『死者たちの七日間』
余華(ユイ・ホア)
飯塚容:訳

いきなり冒頭から、
主人公の「私」は死んでしまっているらしい。

誰も悼んではくれない身の上だから
自分で自分のための喪章をつけて火葬場に向かう。

でも墓地も骨壷もないんだった〜、ということで彷徨うことに。
過去を思い出したり、別れた妻や隣人と再会したりする。

淡々と、七日間の物語が綴られる。
不思議な感じの小説。

現代中国が舞台なのだけど
強引な立ち退き(建物破壊!)で死者を出したり、
貧しい人々が地下壕に住み着いていたり、
結構ライトに腎臓が売られていたり、
政府や特権階級の腐りっぷりがなかなかの腐臭を放っていたりする。

そんな貧民や弱者の悲哀も淡々と描かれている。

あとがきが面白かったのですが、
出版直後の中国では
「ふつうのことをふつうに書いてるだけじゃないか」
と評された的なことが書かれていまして。
おいおい、社会の理不尽ぷりがだいぶエッジーだよ!
「ふつう」とはなんぞや?
と逆に驚きました。

もちろん中国のトンデモネタを楽しむための本ではないのです。
小説として、淡くて、悲しくて、
でも主人公やその周辺にちゃんと愛や幸せはある。
なんとも言えない味わいの小説。
滋味深いというか、
体の奥の方に沁みるものがあるというか。

うん。
これは星5つです!

出版直後に中国国内では発禁になったという
エッセイ『ほんとうの中国の話をしよう』も
読んでみようかな。
タイトルからして興味しかない。
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