思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『女二人のニューギニア』 だいぶハードなニューギニア旅行記

2023-07-31 14:36:32 | 日記
『女二人のニューギニア』
有吉佐和子

有吉佐和子と阿川佐和子をよく混同します。
こちらの本はタイトルとぱっと見の「サワコ」で
「檀ふみ様とどこか行かれたのかな〜」なんて思って
図書館で取り寄せてみました。
意外と古い本が来てびっくりした。
これ、有吉の方のサワコさんじゃん!と。

それはさておき、最高におもしろかった。
女二人でいくニューギニア珍道中かと思ったら
ぜんぜん違う笑

有吉さんが、ゴリゴリのフィールドワーカーである
マジ研究者の友人のところに何も考えずに行く、という話し。
ただただ、過酷な大自然と過酷な友人と過酷な現地人に
翻弄されまくるという一冊。
かわいそすぎる笑

書籍紹介も
「文化人類学者で友人の畑中幸子が滞在する、
数年前に発見されたシシミン族のニューギニアの
奥地を訪ねた滞在記」
って、内容の超絶ハードモードさがわからんのよ。

最も近い町(集落?)から三日間かけて山越えしないと
辿り着けないって、どういうこと?ですよ。
畑中先生も「遊びにおいでよ〜」と誘う前に
説明すべき諸々をはしょりすぎですよ。
そりゃ三日目に歩きながら気絶するし、
豚の丸焼き方式で現地人に運搬されますよ笑

「想像を絶する出来事」が想像を絶しすぎているというか、
そもそもで旅行したの1969年ですよ。
すごいな!!

有吉さんの言動の端々に育ちの良さが垣間見えるのだけれど、
本当に、よく1ヶ月も滞在(生存)できたな、と思う。

何はともあれ、
現代のクーラーが効いた部屋で拝読するぶんには
めちゃくちゃ笑えてスッキリデトックスできます。
ありがたいなあ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『テスカトリポカ』 アウトレイジ小説

2023-07-27 17:16:09 | 日記
『テスカトリポカ』
佐藤究

第165回直木賞、第34回山本周五郎賞受賞作品。

メキシコの麻薬カルテルに関連する人間模様が
短めの章でパッチワーク状に描かれる。
その端々で古代帝国<アステカ>の風習や伝説が
湧き上がるようにぽこぽこと挿入される。

舞台はメキシコから東南アジアを経て
日本の川崎まで移るけれど、
一貫して麻薬や人身売買のディープな犯罪が描かれている。

そして、登場人物は全員「どうかしてるぜ」系の
関わり合いになりたくない人たちである。
総じて凄惨な物語ではあるけれど、
おかげさまで、感情移入は特になし!読みやすい!

そういえば、末永のあだ名が「蜘蛛(ラパラパ)」なのは
納得だけど、野村はなんで「奇人(エルロコ)」なのかな?
エピソードを何か読み落としてる?

スラムダンクの映画を観たばかりなので、
コシモにはもっと健やかで輝かしい人生があったんじゃないか?!
と、ちょっと悲しくなった。

あと、個人的にはテスカトリポカといえば
『スプリガン』なんですが、世代ですかねえ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『カラー版 名画を見る眼Ⅰ』 図版レベルの良い新書!

2023-07-18 13:52:27 | 日記
『カラー版 名画を見る眼Ⅰ 油彩画誕生からマネまで』
高階秀爾

初版が1976年で2023年に再版されたシリーズ。
当時はモノクロだったようですが、
資料部分はフルカラーになってます。
細部も綺麗で、最近の新書の印刷技術、すごいな。

新たに分かった学説などは章ごとに追記されていて、
追加の図版もたっぷり。
マジでお得な新書だな!!
(もちろん、新書としてはお高めではあるけれど
 本棚への収納しやすさも込みで、やはりお得だと思う)

ボッティチェリ(高階先生はボッティチェルリと言う)の「春」は
中野京子さんの『名画の謎』と併読するとおもしろい。

中野さんはギリシャ神話の解釈や歴史背景に加えて
中野節とも言える軽快な文章で読んで楽しい。
高階先生はモチーフ、構図、技法と歴史背景を
順を追って解説しており、良い授業を受けた感覚。
なんというか、生徒として良いノート書けそう!な感がある。

ちなみに両人とも語ってますが、
「春」のヴィーナス(着衣、清楚、人文主義思想)は
「地上のヴィーナス」を描き出したもの。
数年後に描かれた「ヴィーナスの誕生」は
「天上のヴィーナス」(素っ裸、美と愛欲の女神)だそうで。
まあ要するに、服を着せたいムーブメントがあったということだ。

収録作は以下。

ファン・アイク「アルノルフィニ夫妻の肖像」
ボッティチェルリ「春」
レオナルド「聖アンナと聖母子」
ラファエルロ「小椅子の聖母」
デューラー「メレンコリア・Ⅰ」
ベラスケス「宮廷の侍女たち」
レンブラント「フローラ」
プーサン「サビニの女たちの掠奪」
フェルメール「絵画芸術」
ワトー「シテール島の巡礼」
ゴヤ「裸体のマハ」
ドラクロワ「アルジェの女たち」
ターナー「国会議事堂の火災」
クールベ「画家のアトリエ」
マネ「オランピア」

ちなみにこれが「Ⅰ」で、
「Ⅱ」は印象派からピカソまで。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『そこに僕らは居合わせた』 誰もが居合わせる可能性ある戦争の側面

2023-07-14 10:53:47 | 日記
『そこに僕らは居合わせた』
グードルン・パウゼヴァング
高田ゆみ子:訳

著者は1928年ドイツ生まれ。
正確には、当時ドイツ領だったボヘミア東部の
ヴィヒシュタドル(現チェコのムラドコウ)に生まれ。
終戦は17歳。
戦後は西ドイツへの移住を余儀なくされたらしいです。
(そのモチーフの短編も収録されている)

作家としての初期はナチスや戦争のことは書かなかったが、
90年代からは続けて書いている様子。

以下のあらすじがこの本の内容をしっかり伝えていると思う。
”17歳で終戦を迎えた著者は、「軍国少女」から、
戦後は価値の180度の転換を迫られた世代。
「この時代の証言者はまもなくいなくなる。
だからこそ、真実を若い人に語り伝えなければならないのです」
自らの体験や実際に見聞きしたエピソードから生まれた
20の物語”

ひとつひとつの物語に、ある種の生々しさがある。
陰惨な事件とかではないのだけれど、
人の心の深いところをナチスに大なり小なり影響されている様子は
他人事ではない。
誰だってそこに居合わせる可能性がある。

第一話「スープはまだ温かかった」はなかなか衝撃的な短編。
ショックを受けつつ、話者と戦前の田舎生まれの母の距離感から
ちょっと距離を置ける話しでもある。

と自分に言い聞かせながらつづく第二話「潔白証明書」。
これはもう、誰もがこの母にも娘にもなり得る。
第一話で衝撃的だわと言いつつも呑気な距離感でいたところ、
まったく他人事ではない近距離まで一気に詰められる。
お前はどうだ?という絶妙な力加減でこちらを揺さぶりつづける。
すごい短編集だと思う。

著者のエピソードとして描かれる優生人種と劣等人種の授業などは、
数年前に流行った「動物占い」っぽさがあって
「私はどれだろう?あの子は?」とノリノリで考えてしまうのも
まったくもって他人事じゃない。
私もきっと参加してしまう。

童話の性犯罪者のイメージをユダヤ人として描くというのも、
10歳前後で聞いて衝撃を受ければ、
それは一生物の「印象操作」となるだろう。

それぞれの物語に、それぞれの恐ろしさと悲しさがある。
一方で、これを伝えようと書いてくれた作者を尊敬します。

繰り返しになるけれど、そこまで陰惨な描写はないので
読みやすい物語ではあると思う。
ただ、そこには深い深い問いがある。
人類は深淵を見る前にこの本を見た方がいい。
広く読まれるべき一冊。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『大唐帝国―中国の中世』 読みやすくておもしろい中国史本なら、これ!

2023-07-13 11:00:18 | 日記
『大唐帝国―中国の中世』
宮崎市定

これね、中国の中世史を概観するための名著!なのですが、
初版が1988年なんですよ。
あれ?意外と古い?
そう、30年以上も前の文章と内容なのですが、
めちゃくちゃ読みやすくて分かりやすいのです。
良い一冊!!
古典の古典だな!!

ちなみに「大唐帝国」と銘打ってますが、
漢が滅びる220年からスタートです!
そして唐の成立は618〜907年!だいぶ先!!
読むコテンラジオかよ。

中国の中世700年(長い!)を描き切った大作であります。
漢が滅びて、三国〜六朝〜隋唐〜五代にいたる740年。

この期間は、欧州で言えば、民族大移動に始まり
神聖ローマ帝国を経て十字軍の終焉にいたる
870年の歴史に相当するとのこと。
長いなあ。

五胡十六国時代は、有象無象の国で力技の「禅譲」が大量発生。
まったく「天意」を感じないパワー禅譲っぷりで
歴史の悲哀がすごい。
(前王家はだいたい皆殺しにされる)

北方異民族系の「漢民族化」(「華化政策」と表現する)などは、
なるほど〜と。
異民族だと支配する文脈もないし、民意がついてこないし。
自分達が漢化してしまう方が統治がスムーズなんだな。

司馬睿の流れを汲む東晋の「人気のなさ」もおもしろいです。
宮崎先生は流寓(りゅうぐう)政権と表現している。
洛陽から建康(南京の古名)へ都落ち状態なのを棚上げして
貴族然として現地人を馬鹿にするし税制で差別しまくるし、的な。
私でも「お前ら帰れ」と思うな。

短めの章立てで、テンポ良く語ってくれるので読みやすい。
ザ・名著!

以下メモ。

・五胡十六国の「五胡」は、
 モンゴル系とされる匈奴 (きょうど) ・羯 (けつ) ・鮮卑 (せんぴ) と、
 チベット系の氐 (てい) ・羌 (きょう) の五族

・モンゴル系の名前、かっこいい。
 拓跋珪(たくばつけい):強そう。(強い。魏をつくる)
 慕容皝(ぼようこう)・慕容儁(ぼようしゅん)・慕容垂(ぼようすい):
   名前が華やか。手本見ながらでも書けない。
 禿髪烏孤(とくはつうこ):あだ名じゃないよね?
 姚興(ようこう):イケメンぽい。鳩摩羅什(くまらじゅう)のパトロン。
 沮渠蒙遜(そきょもうそん):焼酎の銘柄でありそう。
 赫連勃勃(かくれんぼつぼつ):ジャンプ系マンガの必殺技かな?

・聖徳太子の遣隋使が来たのは隋の煬帝(ようだい)の治世。
 煬帝は河川を繋ぎまくった人。

・武川鎮(ぶせんちん)
 そもそもは柔然(じゅうぜん、北方のモンゴル系国家)から
 辺境を守る六鎮(ろくちん、6個ある)のひとつ。
 なぜか武川鎮からばかり英傑が出る。
 「王気」が集まりやすいらしい。パワースポットか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする