『通訳ダニエル・シュタイン』
リュドミラ・ウリツカヤ
訳:前田和泉
主人公ダニエル・シュタインは実在のモデルがいる。
オスヴァルト・ルフェイセン(1922−98)、
あるいはブラザー・ダニエルと呼ばれる
ポーランド生まれのユダヤ人。
ドイツ侵攻の際に家族と生き別れになり、
ゲットー収容の一歩手前で幸運に恵まれ逃げ延びたり
民族を隠してゲシュタポの通訳を務めたりした後、
戦後はカトリックに改宗してイスラエルで布教活動に従事。
ウリツカヤは1992年にルフェイセン本人に会い
当初はノンフィクション作品を構想したそうです。
が、結果的に「半ばフィクションで半ば実在」となり
2006年に小説として『通訳ダニエル・シュタイン』出版。
なにしろ複雑なのである。
人物も、人種も、宗教も、戦争や政治も。
シンプルなものがひとつも無え〜!
と思える中で、ダニエル神父の人間味のある明るさだけが
シンプルで信じられる拠り所みたいだ。
(ダニエルの助手ヒルダも真っ直ぐでわかりやすいけれど、
彼女はウリツカヤの創作であり、明らかに小説的な役割を担っている)
第二次大戦中を生き延びねばならないユダヤ人の困難と、
戦後のイスラエルという国でキリスト教徒として暮らす困難。
その周辺(ですらない、辺縁の人々もいる。登場人物多い!)の人々の
抱える困難も断片的かつ断続的に描かれています。
ので、作者が言及している通りこれは「コラージュ」小説である。
なるほど、パッチワークよりも言い得て妙かも。
書簡や日記として短めの文章でコラージュされた小説。
登場人物が多いし、時間もいったりきたりが激しいので、
「誰だっけ?」となることも多いと思います
(ページを戻して探したりするので読むのに手間がかかる分、
大体把握すると読書が捗ります)
(登場が、ほぼ、約50年ぶりに再会した女性へのラブレターのみ
という80歳のじいちゃんもいたりする。元気だね!)。
様々な複雑さゆえに、彼の国が抱える民族問題も
ちょっと違う面が見えてきたりもする。
個人的には、イスラエル・パレスチナは、
<ユダヤ教・ユダヤ人> VS.<イスラム教・アラブ人>
の争いとしてしか認識できていなかったんですね。
でもそこにはキリスト教のユダヤ人や、
キリスト教のアラブ人もいたりする。
彼らは第三者でいることを許されない、
むしろ少数派ゆえに厳しい状況にある。
今まで私が見えていなかった角度からの
諸問題が描かれていて、すごく複雑。
でもすごく勉強になったし、
様々な登場人物の人生を深く味わえます。
内容の濃さに比してページ数もなかなかですが700ページ強)、
現在進行形のイスラエルパレスチナ問題への解像度を上げるためにも
読んで損はない一冊だと思います。
リュドミラ・ウリツカヤ
訳:前田和泉
主人公ダニエル・シュタインは実在のモデルがいる。
オスヴァルト・ルフェイセン(1922−98)、
あるいはブラザー・ダニエルと呼ばれる
ポーランド生まれのユダヤ人。
ドイツ侵攻の際に家族と生き別れになり、
ゲットー収容の一歩手前で幸運に恵まれ逃げ延びたり
民族を隠してゲシュタポの通訳を務めたりした後、
戦後はカトリックに改宗してイスラエルで布教活動に従事。
ウリツカヤは1992年にルフェイセン本人に会い
当初はノンフィクション作品を構想したそうです。
が、結果的に「半ばフィクションで半ば実在」となり
2006年に小説として『通訳ダニエル・シュタイン』出版。
なにしろ複雑なのである。
人物も、人種も、宗教も、戦争や政治も。
シンプルなものがひとつも無え〜!
と思える中で、ダニエル神父の人間味のある明るさだけが
シンプルで信じられる拠り所みたいだ。
(ダニエルの助手ヒルダも真っ直ぐでわかりやすいけれど、
彼女はウリツカヤの創作であり、明らかに小説的な役割を担っている)
第二次大戦中を生き延びねばならないユダヤ人の困難と、
戦後のイスラエルという国でキリスト教徒として暮らす困難。
その周辺(ですらない、辺縁の人々もいる。登場人物多い!)の人々の
抱える困難も断片的かつ断続的に描かれています。
ので、作者が言及している通りこれは「コラージュ」小説である。
なるほど、パッチワークよりも言い得て妙かも。
書簡や日記として短めの文章でコラージュされた小説。
登場人物が多いし、時間もいったりきたりが激しいので、
「誰だっけ?」となることも多いと思います
(ページを戻して探したりするので読むのに手間がかかる分、
大体把握すると読書が捗ります)
(登場が、ほぼ、約50年ぶりに再会した女性へのラブレターのみ
という80歳のじいちゃんもいたりする。元気だね!)。
様々な複雑さゆえに、彼の国が抱える民族問題も
ちょっと違う面が見えてきたりもする。
個人的には、イスラエル・パレスチナは、
<ユダヤ教・ユダヤ人> VS.<イスラム教・アラブ人>
の争いとしてしか認識できていなかったんですね。
でもそこにはキリスト教のユダヤ人や、
キリスト教のアラブ人もいたりする。
彼らは第三者でいることを許されない、
むしろ少数派ゆえに厳しい状況にある。
今まで私が見えていなかった角度からの
諸問題が描かれていて、すごく複雑。
でもすごく勉強になったし、
様々な登場人物の人生を深く味わえます。
内容の濃さに比してページ数もなかなかですが700ページ強)、
現在進行形のイスラエルパレスチナ問題への解像度を上げるためにも
読んで損はない一冊だと思います。