NPO法人 地域福祉協会

清掃事業  森林事業(植栽・剪定)

椎名林檎 - Momen no Handkerchief

2018-01-11 | 音楽
椎名林檎 - Momen no Handkerchief

ショートショート 京美人

2018-01-11 | 文学
西南の役。

私は西郷隆盛。

戦況は厳しい。


我が軍は
圧倒的な兵力の政府軍に
攻めこまれ
撤退して
鹿児島の城山に立て籠った。

私は
洞窟で京都の彼女を思い出していた。





「腹痛いわ」

私は腹が弱かった。

京都の茶屋に入った途端
厠の場所を探した。


あった。



太い腕と筋肉質なふくらはぎを露わにし
着物をまくり上げて
厠を磨いているおなごがいた。


「すいません。腹が痛くなりはりました」

「あらこちらこそ、どうぞおゆるりと。でもお侍さんの京言葉可笑しいわ」


明るく働き者のおなごであった。

体格も良い。

タイプであった。


私は
事ある毎に京都の茶屋を訪ね
その逞しい仲居さんに接近した。

そして
仲居さんは
知人から友人になり
私の彼女になった。


私は時折冗談を言ったが
幕府の役人や志士には受けず
「場をわきまえられよ、西郷殿」
とよく叱られた。


しかし
京都の彼女、まわりは豚姫と呼んだが、は頭の回転が早く、冗談の肝を瞬時に解して、軽妙な返しをしてくれた。

私は
明るく
朗らかな笑い声と
情熱的で優しいみとのまぐわいに癒された。




この極限の状況で
なぜか京都の彼女が思い出されたのは不思議だ。

楽しい思い出が
星空のように輝く。


「我が人生、これでよか」


夜が白々と開けてきた。

今日は
玉砕覚悟の総攻撃である。


私は
荘厳な
蒼白い桜島を観た。



高橋作





ショートショート 漁火

2018-01-11 | 文学
魚津城の戦い。

上杉景勝は
援軍として天神山に布陣した。


春日山城の虚を
織田軍に攻められた。


「已む無し。全軍撤退せよ」


優美な海の城であった魚津城。

しかし美し過ぎた。


神は被造物の完璧を妬まれる。

美と知の頂きに昇り
全てを恣にした大天使ルシフェルは
堕落して悪魔の長となった。

すなわち
この世の不完全と不幸とは
神の人への愛の証である。


満月の夜。


美を極めた海の城は
激しい哀しみと怒りの情念の焔を上げていた。

それは
昏い碧色の海を
巨大な漁火のように
照らしていた。



高橋作

ショートショート タブノキ

2018-01-11 | 文学
私は池田弥三郎である。

私は国文学と民俗学を修め
際限のない向学心と探求心に
突き動かされていた。


夏。


私たち3人は
先生に突然呼び出された。


先生は
折口信夫。

民俗学の大家。


富山県の氷見から石川県の気多大社まで徒歩で旅行するというのだ。


日本海の碧色。

眩しい太陽。

鬱蒼とした海岸の森。

氷見海岸は
南国のようだ。

海岸にせりだした大きな木がある。

先生は
小走りにその木に近づく。

嬉々とした童顔。

先生は
黙って葉をちぎり
はにかみながら
私に手渡す。


私は
広々とした葉の匂いを
嗅いでみた。

清澄な香りであった。

「これは何の木かなぁ」


博学な弟子の一人が語り出した。

「この木は、先生の思想を象徴するタブノキだよ。南方から日本に渡来した人々は、故郷のタブノキを日本の海岸に発見した。海上の民や常世の神概念にも繋がるよ」


石川県の海岸。

大きな森が見えた。

気多大社だ。


いつの間にか
先生は
私たちより遥か先に行って
ほうとして見えなくなっていた。


高橋作