早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十六年七月 第三十二巻一号 近詠 俳句

2022-08-12 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十六年七月 第三十二巻一号 近詠 俳句

   近詠
人々はふるさと語り田植ごろ

陰と入る若葉に堀の掛け社

ひとり旅磴を青葉にのぼりきり

一燈を楓しげる葉つゝみかね

夕人のゆきつ停りつ丘の夏

濱木綿の蕾の筆と雲の峰

炙あつし木下闇をみつめつつ

青東風の硝子に魚族映り出づ

はつちくを立て掛けて賣る寺側あり

蝶を清水にはらひ旅つかれ

花は葉はあしたに正し夏の菊

露草にむらさきいまだ梅雨は降る

梅雨雲の夜を峯つくる街いらか

底抜けに梅雨降り細き梧桐一木

電柱をしづかと思ふ梅雨夜頃

守宮また守宮枝ゆく梅雨夕

飛行機をながめずには置けぬ梅雨晴間

らんちゅうの子が豆ほどな力泳す

舟々に梅雨振り沈み燈は棲める

  名古屋にて
雨後の山を咫尺たらして青すだれ

梅雨はれや河鹿の蠅を大漁す

寺内より野の透く小門梅雨曇り

家々の土橋石橋梅雨出水

萬葉に真晝風なく枝蛙

蝙蝠の寒し今宵の星すくな

   松の花
すこやかな日なり丘なり松の花

松の花ゆれずも風を光らする

松咲くや泉の國の御陵村

   爪切草
門畑に立つ朝風の爪切草

早春社六月本句會  兼題「虹」席上「街頭吟』
虹の下みづみづしくも熟るゝもの

虹の橋海女の焚き火の彼方して

虹渡る方におもひを消しにけり

葉柳をかむりて遠し街の音

  二葉會四月句會
春陰やつやつや齒朶が朱をほどく

落葉嵩さつき根に掃き春旱

  二葉會五月句會
麥秋やげんげも末の踏み亂れ

常雨となりし輝き金鳳華

  二葉會六月句會
夏霞夜明くる匂ひ艸にあり

枝蛙寺内四壁にひゞきけり

  能瀬早春社創會
麓に岑々午下を闌くる哉

囀りをいまふときかず山池澄む

  いなづま句會  大和當麻寺
囀りを仰つ牡丹見るつかれ

牡丹や地にしむ雨の空になく

山水のかよふ牡丹の畑づくり

多忙より気をぬきに來て筍の雨

筍の雨男炊ぎに主客なく

螢の舳ながるゝ寒さかな

いただきの茂りに星の澄み出でぬ

松の秀へ空をこぼるゝ螢かな

  産業報國吟詠
田も街も人はいきれて産業す

  六橋觀偶會  「飛魚」
夏の雨あがらんとして浦の蝶

飛魚に歸帆舳を並べつゝ

船窓のそこ飛魚の波をさす