早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十八年九月 第三十六巻三号 近詠 俳句

2023-12-04 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十八年九月 第三十六巻三号 近詠 俳句

    近詠

秋の空日ぐせの白雨霽れ手より

秋思つのれば逢いたき人の多きかな

濱木綿のなほ咲くありてせゝり蝶

銀眞爪切るには若し頬にあつる

薮里の展けざま聴く秋まつり

倉の窓風鈴鳴りて夜は燈る

花茣蓙に孫なゝ月の投げ坐り

烏瓜と覺えておかむ憐れ咲く

旅信みな秋書き來なり病ひ倦む

七夕竹蜘蛛手の露路の軒々に

生まれし地にこびりつきゐる残暑かな

ひとのやうに盆ゆく田舎ほしきかな

道埃り荷馬車自動車ぎす売り來

蜻蛉の春き來たり葉に垂れぬ

焦げし蛾の露に醫すなる旦の葉に

疎らあるすまひとり草秋の風

一葉して風の磨る地に隨えり

小雨降るといふ背戸の聲秋らしも

細やなぎ手摺に持てば散りそむる

引船の会圖秋蝶に綱を放つ

舟が焚く秋の煙りのくだけつゝ

秋の猫舟にあそびてすなやかに

ふくらみきつて咲かむと堪ゆる桔梗なれ

みつむるに秋の小蝿の夜に光る

替え枕ひくきに移る夜の長き

病み居れば暁けをひたすら待ち蟲を聴く

草の香に夜の更けきたる一間かな

   門火
門火すれば何か兆ざしてにぎわしく

萩がもと芒のすその門火哉

一村凡そ縁につながる門火哉

  早春社八月本句会
   立秋前日 江戸堀北通り青年技師社 
     宋斤病気のため、初めて本句会欠席
   兼題「火取蟲」「藤豆」席題「藤の實」

晝の蛾の竹林ふかくまぎれけり

朝の蛾の掃き捨てにけり谷ふかく

白襖べたと火蛾のふるひゐる

一窓に肘を預けて青田かな

走る風青田にありて漲る日