早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十八年十二月 第三十六巻六号 近詠 俳句

2023-12-05 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十八年十二月 第三十六巻六号 近詠 俳句

      近詠

十一月三日まことに畠のよき日和

飛機いさまし頃秋闌の空切つて

草紅葉人等しづかに野をめぐる

陶像の古びかろかり翁の日

残菊の咲きほつれたるながながし

柿みかん貰ひ豊年熱の舌に

畑空と入院一ヶ月冬立ちぬ

初冬の雲のいろなり雲をゆく

みちのくの香茸とこそ飾りけり

明治節より日和つゞきが冬になりぬ

山河また十二月八日感揚す

病めるものゝ八日の心誰か知らむ

病めるもを罵り去れり冬の鵙

辛子搗く工場のありて冬の夜

冬霞懐ふ神崎のかすみ橋

冬大晴れ寝て飛機仰ぐ畏れあり

冬日南ちりばめば蝶しろくゆく

(病室)南窗西窗持ちて冬入日

    ブーゲンビル島沖大戰果を詠ふ
めつむつて戰果を秋の空におもふ

街の人野の人さやか張るこころ

    氷柱
徑の上を渡り藁家へ氷柱の樋

松の根のあらは石抱き氷柱かな

汽車の窓しばらく對す氷柱あり

焚火して氷柱汚すことなきや

登校の子も杜絶へたる氷柱哉





















宋斤の俳句「早春」昭和十八年十一月 第三十六巻五号 近詠 俳句

2023-12-05 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十八年十一月 第三十六巻五号 近詠 俳句

      近詠
出來稲の風なり日なり面うつ

さわやかに寄合畠朝の聲

秋晴れの窗時となく機を迎ふ

野菊咲くむかし神崎の白拍子

遠くにも家前秋耕見ゆるかな

草風つけて見舞に來てくれし

秋大日武庫山すでに一の暮れ

増産のひびきかすかに蟲の夜

鵙の聲窗にはまりし野のせまく

菊の花このをごそかさ必必勝

秋の雲みだりに散らず人とゆく

山路見る蔓なり鉢に紅葉しぬ

秋日南筆硯われをそゝるなる

病み居れば友にも甘へ秋燈下

病めば土のむやみに戀し薯の土

秋の蚊の窗を浮き出て遠山て

秋の人空地の草をしごき出し

霽るゝ雨朝のぬけゆく秋ざくら

だれかはひとり憩ひ居る石草秋の
   
    子規忌、友善忌
    十月三日 於 河内道明寺
ことづける不参の一句子規忌かな

友善忌故友に告ぐる戰の句

    六橋觀對座吟 宋斤と布丈
       
舳蹴つて待宵草に膝つきぬ

   待宵艸川底ひろく水寢ねて 布丈

    六橋觀偶會 宋斤、松堂、妙女
夏大雨晴れて目高を涼しうす 
   夏の雨眺めて玻璃の蝿とあり 松堂 

   夏の雨たゝかれそよぐ蔓のもの

▽宋斤は 書痙を専念に治療のため去る十月六日尼崎市潮江病院に入院。








宋斤の俳句「早春」昭和十八年十月 第三十六巻四号 近詠 俳句

2023-12-05 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十八年十月 第三十六巻四号 近詠 俳句

     近詠
秋高し飛機南へ去るありて

澄む水の痛く征地の人を想ふ

ひしひしと世がひゞくなり天の川

病んでゐてなによきものか夜業の燈

みたみわれの心が責むる秋夜半

白妙の空なくしたり秋の雲

街残暑辻に豊穣語るあり

秋知れと猪名野の芒呉れしかな

秋の門男子觀送ありて後

秋日南小魚が鉢に波たてゝ

脛舞ふて疊走りぬ秋の風

露草はたくましの莖もろく折れ

名月やじゃが薯蒸して代食す

我欄や辰巳ひらけに鰯雲

燕の歸りし筈が川擦れる

一客と地震を堪え居り置團扇

對岸の草にあざやか秋の蝶

得參らむ子規忌とて萩の一半句

宵闇や荷船空ら船軌み合ひ

颱風を恐れ待ちつゝ蜻蛉見る  

航空日暴風警報あるを飛べり

嘘でなき程に零餘子よ桟庭は

邯鄲を鳴かせて書架の抜き窪に

さわやかの雲こそ秋の彼岸入り

秋光や懐ひ一つに佛の日

ちちろ蟲まぢかに鳴いて夜が冷ゆる

身に入むや友のなにかにありがとく

日あたりて頓に冷まじ水の上

    夏草
襖する夏草に一気飛び入りぬ

ひた進む夏草に銃を泳がせて

夏草に憺荷は戻る慘む血よ

夏草の夜は沈々と散歩前

夏草ふかく馬首揃えすでに抜刀す

    風
牛の眼に涼し夕風行々子

    家
行々子芦の途切れに小煙筒

    橋
葭切や橋ひつぱつて舟はくゞる  

    舟
葭切や蘆中一揖また一竿
    
    町
よしきりや口碑なにはの片葉芦

    夏祭
子に着せて母は祭の厨せはし

祭錢汗に握って買ふも惜し

山車提灯男の子男の子をちゝくまに

打ち水を打ち交わし貰ひ祭かな

    子規忌 九月二十六日 於 萩の寺


天高しきびしき今を飛機に見る

天高しふたゝび仰ぐ飛機のあと

天高をいたつき居ればぬすみ見る