早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤「思いでの記 俳句の部」  あとがき 永尾 要

2018-01-25 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集




あとがき

 この「俳句の部」程度以上のものが、既に昭和二十年三月末日頃当時の早春社社友、西垣水青、藤本阿南、堤文蛤、浦野星河様方々の御盡力で表題「草莽」で刊行されるばかりになつてゐたところ、製本屋が罹災し印刷もの全部が焼失したヽめ遂に刊行の運びに到らなかつたものである。
 其の後その原稿が、堤文蛤様から届けられ今日まで私一人の手許に保管してゐたものであるが、更に其のまヽ保存を続け未刊のまヽおわる様では、前記四氏の御努力に報いる所以ではなく、また亡父が生前句集刊行に対してはあまり好むところではなかつたものにせよ一応は出版を承諾したものであるから、此の原稿を拝借して原稿通りのものを刊行するは此際佛の供養ともなると存じ敢えて本句集を発刊したのである。
 其の内容を敗戦後の今日から検討すれば笑種ともなる句、好ましからざる句、時勢向きでない句など多々あると思う。
 しかし、故宋斤の生前の俳句年鑑の古刷ものとでも御承知下さつて御読み下されば又興味の深々たるものがあると信ずる。
尚予定通りに追て「宋斤思出の雑記」の部を刊行したく目下準備中である。
 願くば、本書を御覧になって、本句集以外に、私にはこんな思ひ出の俳句、或は話があると思ひ出された方々、或は人様からお聞きになられた様な話でも、大体原稿用紙二枚(八百字前後)見当の玉稿を賜つたら錦上更に花を加へて本書を飾るにふさはしいと確信する。
御寄稿の方は下記へ御願ひ致します
  伊丹市寺本    永尾 要 宛         (昭和二十五年四月末日記)

宋斤の俳句「思い出の記」より昭和十九年(二)

2018-01-25 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集


宋斤の俳句「思い出の記」より昭和十九年(二)

 病牀句
三月ある日蝶空をゆくかぎりゆく
春の露葉先おさえてそよがしぬ
春落葉川中川の汀なり
たんぽぽ土筆あざみ未だと開始中

  磧
舟つけてあがるいづこも蓬かな
春光に牛乳一石青きかな
磧行蓬母子と露白み

  絶句(昭和十九年五月十一日午後八時作句)
空吹ける風はれ満ちて鯉薫る
皇風萬里鯉風亦萬里



「宋斤思い出の記」は、祖父宋斤の七回忌(昭和二十五年年五月)に,父 要がガリ版刷りの手書きで 宋斤の俳句の部として記念発行したものです。大正十五年より 年ごとにご紹介しています

宋斤の俳句「思い出の記」より昭和十九年(一)

2018-01-25 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集


宋斤の俳句「思い出の記」より昭和十九年(一)

  勅題「海上日出」に因みて
必勝の砲火奏でむ初海に
我が家の朝の日南はたとへなき
冬の日は川面を二階障子照る
石叩霜の筏を轉々と
生駒より六甲すこし眼るかな

  病めば
ゆたんぽが足にさからひだぶだぶす
隙間風病みてわが鼻たかきかな
熱あれば蕪のあつちやら舌によき
凍つる夜や葛湯の匕を舌に受く

  長野同人より眞綿著を贈られて
てんとう蟲の如くに著よと背藍綿
如月や筏によする波の皺
風の音障子に失せて春日南
しろ椿しろき極みに蕋を点つ
よべの雪いらかに濡れて春立ちぬ
粟鼠せはし春の立ちしと樹に告ぐる

「宋斤思い出の記」は、祖父宋斤の七回忌(昭和二十五年年五月)に,父 要がガリ版刷りの手書きで 宋斤の俳句の部として記念発行したものです。大正十五年より 年ごとにご紹介しています


宋斤の俳句「思い出の記」より昭和十八年(二)

2018-01-25 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集


宋斤の俳句「思い出の記」より昭和十八年(二)

  西村青甫君華道唯心流を創流したるに与ふ
百合活けて花屑を掃く野のこヽろ
秋思つのれば逢ひたき人の多きかな
花茣蓙に孫なヽ月の投げ坐り
七夕竹蜘蛛手の露路の軒々に
疎らあるすまひとり草秋の風
ひしひしと世がひヾくなり天の川
秋知れと猪名野の芒呉れしかな
一客と地震を堪え居り置団扇
得参らぬ子規忌とて萩の一半句
颱風を怖れ待ちつヽ蜻蛉見る
嘘でなき程に零餘子よ棧庭は
出来稲の風なり日なりに面うつ
野菊咲くむかし神崎の白拍子
秋日南筆硯われをそヽるなる
霽るヽ雨朝のぬけゆく秋ざくら
十一月三日まことに畠のよき日和
陶像の古びかろかり翁の日
みちのくの香茸とこそ飾りけり
明治節より日和つヾきが冬になりぬ
病むものを罵り去れり冬の鵙
辛子搗く工場のありて冬の夜  
大根煮夜陰の湿気を吸ひにけり
川向ひ住まず冬燈幾夜亡く

「宋斤思い出の記」は、祖父宋斤の七回忌(昭和二十五年年五月)に,父 要がガリ版刷りの手書きで 宋斤の俳句の部として記念発行したものです。大正十五年より 年ごとにご紹介しています

宋斤の俳句「思い出の記」より昭和十八年(一)

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宋斤の俳句「思い出の記」より昭和十八年(一)

 
  勅題 農村新年に因みて
大朝の火は花と咲く草の家に
一年は捷ちて過ぎたり初仕事
寒晴れて川は鳶の日鷗の日
大寒に入る旦晴れ男子生る
たんぽヽの花ひとつ野に神を知る
梅の中こまかき風の土にある
街は燈を漏らさず春夜むらさきに
蝶しろし海明けてくる松のそら
ちる花の遠くはろかにゆく涼し
友去りしあとの春夜のよき労れ
筍を噛みつヽ今年花を見づ
  アッツ島忠烈散華
玉碎あヽ皇軍二千夏さむし
蝦蛄生きて皿にましまし視られけり
磐石の朝に松蟬ひヾきけり
家々の防火水槽と苗何に何に
月末の小払ひに立つ洗ひ髪
かたばみの花より小さきでんで虫
松の秀を水に直下す夏の蝶
蚊姥のそのかげさらに舂ける
毎日暑きアンテナたるみ眼の空に
間狭にて孫の籐椅子置くところ
裏町をこぼれ歩けり御神輿舁き

「宋斤思い出の記」は、祖父宋斤の七回忌(昭和二十五年年五月)に,父 要がガリ版刷りの手書きで 宋斤の俳句の部として記念発行したものです。大正十五年より 年ごとにご紹介しています