宋斤の俳句「思い出の記」より昭和十七年(二)
湖西行(三句)
梅雨の湖全く拾ひ日向なれ
湖ぞひの町すでに夏つばくろめ
雄琴
温泉のあれば町少し付く植田道
桑の実をふヽみ涼しき雨の佇つ
茄子はむらさきころびてまろし露をもつ
夏嵐筧が壷を外れゐる
蓮華王院
風伯より雷神親し蝿へえる
紀伊船の盆しに帰る輪のけむり
誘蛾灯旅人に明けしらけたる
月の川名残りの簾照りにけり
芭蕉像月見して一茶壁に拗る
蝿叩十月末の白布打つ
冬の燈はみなが寝てより頬にぬくし
石崖の日にかげ去りし鶲かな
松凍てヽわだつみうみ神白夜なる
蓮の骨晴れて人馬の道高し
友の死を聞く再ならず凍夜の燈
「宋斤思い出の記」は、祖父宋斤の七回忌(昭和二十五年年五月)に,父 要がガリ版刷りの手書きで 宋斤の俳句の部として記念発行したものです。大正十五年より 年ごとにご紹介しています