早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「思い出の記」より昭和十七年(二)

2018-01-25 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集



宋斤の俳句「思い出の記」より昭和十七年(二)

 
  湖西行(三句)
梅雨の湖全く拾ひ日向なれ
湖ぞひの町すでに夏つばくろめ
  雄琴
温泉のあれば町少し付く植田道
桑の実をふヽみ涼しき雨の佇つ
茄子はむらさきころびてまろし露をもつ
夏嵐筧が壷を外れゐる
  蓮華王院
風伯より雷神親し蝿へえる
紀伊船の盆しに帰る輪のけむり
誘蛾灯旅人に明けしらけたる
月の川名残りの簾照りにけり
芭蕉像月見して一茶壁に拗る
蝿叩十月末の白布打つ 
冬の燈はみなが寝てより頬にぬくし
石崖の日にかげ去りし鶲かな
松凍てヽわだつみうみ神白夜なる
蓮の骨晴れて人馬の道高し
友の死を聞く再ならず凍夜の燈

「宋斤思い出の記」は、祖父宋斤の七回忌(昭和二十五年年五月)に,父 要がガリ版刷りの手書きで 宋斤の俳句の部として記念発行したものです。大正十五年より 年ごとにご紹介しています

宋斤の俳句「思い出の記」より昭和十七年(一)

2018-01-25 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集


宋斤の俳句「思い出の記」より昭和十七年(一)

山に見る烏の黒さ桑の枯れ
大霜の臼のうへにもこぼれ炭
感激新嘉坡陥落
日本一億東亜十億風光る
うちの猫男となりし雨を往く
嫁や良し春光に振る干竿や
梅一本はなれて二木鳥居ぬち
彳めば鮠の散る水花の冷
惮らず雲に嚔す松手入れ
この堤伏見京まで雲雀空
春暁の雲いとけなし野をのぼる
林中に歩のとヾまらず夏近し
行春の砂を城址に蹴りて居つ
戦へるこヽろ兜を飾るなり
グライダー一機休めり夏の蝶
蔦の門玄関さらに磴の下
樹々深かに鵜匠の村の夏に暁け
蟹の眼の草葉かはして高木かな
暁天の星こそ夏のみなぎけり
友等戦ふ南に北に雲の峯
ものヽ音しづかに通し燈に守宮
尾が消えて蜥蜴の頭石の隅
 
「宋斤思い出の記」は、祖父宋斤の七回忌(昭和二十五年年五月)に,父 要がガリ版刷りの手書きで 宋斤の俳句の部として記念発行したものです。大正十五年より 年ごとにご紹介しています

宋斤の俳句「思い出の記」より昭和十六年(二)

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宋斤の俳句「思い出の記」より昭和十六年 二


蝙蝠の寒しか今宵の星すくな
草の香をみだし入りたる夜涼かな
初秋や夜の音水のひろさより
木の秋遠く蜻蛉の失せずゆく
秋の蠅拂子振るよりしばし来ず
病苦句にいふは卑怯やちヽろ鳴く
爽やか掌にして壺中奏づるを
旦なる石も育ちて露秋の
征地より夜寒むとありぬ天の川
  真田山
さわやかや幼なじみの丘のうへ
聴けば鳴る我家の時計旦寒
赤蜻蛉こそと傾ぎし竿の先
草相撲国民儀禮おごそかに
障子張りて霧水を拭く心豊か
狛犬に海蠃打たぬ子の誇りし
ゆく秋の径にて石の焦げてゐる
星の中にはじき合ひゐる冬の星
軍事郵便送り負けゐる冬燈下
残る蟲地に委す燈あるからに
  十二月八日(二句)
宣戦のこの日凍雲閃々と
必勝を祈りつ空は風花歟

「宋斤思い出の記」は、祖父宋斤の七回忌(昭和二十五年年五月)に,父 要がガリ版刷りの手書きで 宋斤の俳句の部として記念発行したものです。大正十五年より 年ごとにご紹介しています

宋斤の俳句「思い出の記」より昭和十六年 一

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宋斤の俳句「思い出の記」より昭和十六年 一

大初日一億民が面に照る
凍つるほど瓦は土に還らざる
比叡いくたび西塔を知らず霜を踏む
日脚やヽ伸びし鶴飼小檻の芝
飛機いかに快き音雲に冬盡くる
春風の耳に吹くなり草木より
強東風を肩伍し友の兵とゆく
時うつるほど陽炎の鮮らしく
春の魚はもろこからして眼の輪かな
  動物園
象のまへに入学の子よその親よ
門麗牛が遺して蠅多き
億兆の蝌蚪の尾溶けて春の水
船腹に唄のかげろう譜のせはし
膝をつく土やはらかし地蟲出て
鮎涼し小皿にあまり結ぶ口
陰と入る若葉に塀の掛け社
夕人のゆきつ停まりつ丘の夏
らんちゆの子が豆ほどな力泳す
寺内より野の透く小門梅雨曇り

「宋斤思い出の記」は、祖父宋斤の七回忌(昭和二十五年年五月)に,父 要がガリ版刷りの手書きで 宋斤の俳句の部として記念発行したものです。大正十五年より 年ごとにご紹介しています

宋斤「思い出の記」俳句の部 昭和十五年(二)

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宋斤「思い出の記」俳句の部 昭和十五年(二)

  玉川寺跡
稔る中一松一碑雲は白し
暮れの燈のさぶきにゆけば鹿火屋なる
闇ふんで山吹どころ蟲も老ゆ
清澄を地に見て木賊林する
菊の花ひとに厳しき時のあり
  奉祝 紀元二千六百年の秋
荒魂和魂世々を天高し
栗ひとつ小棚の冬に見つけたり
  野火止あたり
武蔵野や芋枯れにまた一丘す
小菊黄にみだれ練馬の大根時
  平林寺
山茶花のしづかさにゐて旅ならず

「宋斤思い出の記」は、祖父宋斤の七回忌(昭和二十五年年五月)に,父 要がガリ版刷りの手書きで 宋斤の俳句の部として記念発行したものです。大正十五年より 年ごとにご紹介しています