早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十六年五月 第三十一巻五号 近詠 俳句

2022-08-05 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十六年五月 第三十一巻五号 近詠 俳句

    近詠
春宵を野につくばいて明らさま

初雷や千枝咲かんと雲にある

籟して春光はしる水や地や

つめたさが掌にぬくもりしさくら貝

ちさき蝦泳いで透きて砂に消ゆ

門麗牛が遺して蝿多き

島渡舟耕すなかへ陸りけり

朝のほど巢藁の日南風散りて

億兆の蝌蚪の尾溶けて春の水

ものゝ芽に見ゆ風土のむらさきす

一八の鉢に太りし春日なれ

學校の屋根越し樹あり蝶たてり

小さければ駆逐艦らし沖霞

船腹に唄のかげらう譜のせはし

龜鳴くや柳重たく大おぼろ

國民學校花を四邊に丘負ふて

うらゝかに櫟の枯れて山に咲く

膝をつく土やはらかし地蟲出て

花のあとうつゝに白く山の雲

鳩ひとつ町空かけり春晝す

   豊年
豊年の稲穂にぎれば露しめり

この丘にのぼり豊年具さなり

豊年の夜は海風のちかきかな

  夜番
戸のそとへ雪をふみ出す夜番哉

何事の川覗き去る夜番の灯

ほのぼのと日の出夜番にあたゝかし

凍月の坂の上行く夜番あり

  冬の鳥
冬の鳥かしぎし嘴に光線す

冬の鳥野に暮れのびて來りしか

冬の鳥來しを雨讀に燈しけり

冬の鳥人は落葉を蹴つてゆく

木の中の小枝つぶさに冬の鳥

  早春社四月本句會 兼題「春の天文」席題「卒業」
春の星丘たつ我れに集りぬ

春の星山見移ればまた明かし

山町のふかふかゆがみ春の星

國策は南進にあり卒業す

  早春社いなづま四月例會
鳥交みしづかに花のこゝろかな

鳥交むむねの綿毛の空ちれり

  一番町句會一月例會
春の雪降て植木屋石屋かな

鶯やこの藪京をめぐりける









































宋斤の俳句「早春」昭和十六年四月 第三十一巻四号 近詠 俳句

2022-08-05 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十六年四月 第三十一巻四号 近詠 俳句

    近詠
草萌になにをか心いさむなり

戦地より頻りと句あり水ぬるむ

爪さきを燈籠にやれば地蟲出し

汽車の窓琵琶湖菜の花近畿なる

朝ぼらけ風光つては苔に沁む

花の芽の樹の樹のもとに我を置く

ちりちりと菫風あるを摘までけり

彌生野の木のいただきに鳥ほそき

春の魚はもろこからして眼の輪かな

雲うつる田水の春に馬上うつる

はこべらの花のしろきに規律あり

初蝶は白羽を湖の風わたる

沖の方いま洲が出來る汐干波

  動物園
象のまへに入學の子よその親よ

  冬季気象
ろうそくの火の清らかさ雪の井に

戸をたてゝ音雪の夜の川にあり

欄や指にはぎたる雪の皮

  冬の天文
冬の星空の奥より打ち出たる

冬の星山をつたうて乏しけれ

冬の星音はひとつに鉦を打つ

  早春社三月本句會  「深題」それぞれ異なった題を砂時計三分に句作
森ぬけて丘往つて春の月近し

木かくれに照りて歩につく春の月

春の月波より上りぬれにけり

  早春社いなづま二月例會
よき日南ひざに手紙の來つるかな

くたぶれて沖の日南に釣る事も

やきいも屋勤務の窓に匂はする

やきいものしつかな湯気や盆のうえ

  青鈴句會 第四十六回
花圃の闇なほつめたくて猫の戀

薄雲の重なりしより春時雨

二日灸河内の乳母が据え上手

  早春社いなづま三月例會
林中になにか浮きちり小囀り

春の月海もほろかに好きな丘

尻からげして初蝶に追ひぬかれ