宋斤の俳句「早春」昭和十六年五月 第三十一巻五号 近詠 俳句
近詠
春宵を野につくばいて明らさま
初雷や千枝咲かんと雲にある
籟して春光はしる水や地や
つめたさが掌にぬくもりしさくら貝
ちさき蝦泳いで透きて砂に消ゆ
門麗牛が遺して蝿多き
島渡舟耕すなかへ陸りけり
朝のほど巢藁の日南風散りて
億兆の蝌蚪の尾溶けて春の水
ものゝ芽に見ゆ風土のむらさきす
一八の鉢に太りし春日なれ
學校の屋根越し樹あり蝶たてり
小さければ駆逐艦らし沖霞
船腹に唄のかげらう譜のせはし
龜鳴くや柳重たく大おぼろ
國民學校花を四邊に丘負ふて
うらゝかに櫟の枯れて山に咲く
膝をつく土やはらかし地蟲出て
花のあとうつゝに白く山の雲
鳩ひとつ町空かけり春晝す
豊年
豊年の稲穂にぎれば露しめり
この丘にのぼり豊年具さなり
豊年の夜は海風のちかきかな
夜番
戸のそとへ雪をふみ出す夜番哉
何事の川覗き去る夜番の灯
ほのぼのと日の出夜番にあたゝかし
凍月の坂の上行く夜番あり
冬の鳥
冬の鳥かしぎし嘴に光線す
冬の鳥野に暮れのびて來りしか
冬の鳥來しを雨讀に燈しけり
冬の鳥人は落葉を蹴つてゆく
木の中の小枝つぶさに冬の鳥
早春社四月本句會 兼題「春の天文」席題「卒業」
春の星丘たつ我れに集りぬ
春の星山見移ればまた明かし
山町のふかふかゆがみ春の星
國策は南進にあり卒業す
早春社いなづま四月例會
鳥交みしづかに花のこゝろかな
鳥交むむねの綿毛の空ちれり
一番町句會一月例會
春の雪降て植木屋石屋かな
鶯やこの藪京をめぐりける
近詠
春宵を野につくばいて明らさま
初雷や千枝咲かんと雲にある
籟して春光はしる水や地や
つめたさが掌にぬくもりしさくら貝
ちさき蝦泳いで透きて砂に消ゆ
門麗牛が遺して蝿多き
島渡舟耕すなかへ陸りけり
朝のほど巢藁の日南風散りて
億兆の蝌蚪の尾溶けて春の水
ものゝ芽に見ゆ風土のむらさきす
一八の鉢に太りし春日なれ
學校の屋根越し樹あり蝶たてり
小さければ駆逐艦らし沖霞
船腹に唄のかげらう譜のせはし
龜鳴くや柳重たく大おぼろ
國民學校花を四邊に丘負ふて
うらゝかに櫟の枯れて山に咲く
膝をつく土やはらかし地蟲出て
花のあとうつゝに白く山の雲
鳩ひとつ町空かけり春晝す
豊年
豊年の稲穂にぎれば露しめり
この丘にのぼり豊年具さなり
豊年の夜は海風のちかきかな
夜番
戸のそとへ雪をふみ出す夜番哉
何事の川覗き去る夜番の灯
ほのぼのと日の出夜番にあたゝかし
凍月の坂の上行く夜番あり
冬の鳥
冬の鳥かしぎし嘴に光線す
冬の鳥野に暮れのびて來りしか
冬の鳥來しを雨讀に燈しけり
冬の鳥人は落葉を蹴つてゆく
木の中の小枝つぶさに冬の鳥
早春社四月本句會 兼題「春の天文」席題「卒業」
春の星丘たつ我れに集りぬ
春の星山見移ればまた明かし
山町のふかふかゆがみ春の星
國策は南進にあり卒業す
早春社いなづま四月例會
鳥交みしづかに花のこゝろかな
鳥交むむねの綿毛の空ちれり
一番町句會一月例會
春の雪降て植木屋石屋かな
鶯やこの藪京をめぐりける