なんて表現したらいいんだこの作品。
一言でいえば「心地よい混沌」だろうか。
先だっては折角のGWだったのにどこにも行けなかったし、休みだったぶん給料が減ってお金は無いし。およよん。
こんな状態じゃあいったい何のために生まれて、何をして喜ぶかわからなくなってきます。助けてアンパンマン。いつものアンパンチで例のウイルスを吹っ飛ばして欲しいところだけど、彼の拳はカビとかばい菌とか菌類にしか効かないんだろうか。ウイルスは細菌と違うもんね…。
早くキャンプに行ってたき火を眺めたい。海辺でイソギンチャクやカニを眺めたい。このままだと死んでも死にきれない。イソギンチャクの近くで地縛霊になってしまう。
そんなわけで気持ちが荒み、学生時代によく聴いていた音楽を振り返って聴いてます。RadioheadやNumber Girl、Rage against the machine、そして彼らくるり。今日紹介するのは彼らの2枚目『図鑑』。2000年発売なんでもう20年経つわけです。以前の『The World Is Mine』レビューはこちら。
くるり『The World Is Mine』
この作品、すごいです。
なにがすごいって、よくわかんないのにめちゃくちゃいいんです。
それじゃレビューにならんので、このアルバムが「なぜよくわからないのか」について考えていきましょう。
➀曲中の変化が大きい
1曲目でいきなり前作の「虹」がかかるもトーンダウンし、静かで怪しい雰囲気になったかと思えば2曲目の「マーチ」でワーッとなる。こんな風に曲ごとの変化はもちろん、曲中でも急にテンションの上下がある。こんなに振れ幅が大きいのは本作が随一。むしろ『ワールドイズマイン』や『魂のゆくえ』とかは淡々と、ぼわぼわしているし。
たとえばM12「ロシアのルーレット」やM14「ガロン」。AメロやBメロ、あと途中の展開のメリハリが大きく、気持ちがついていかない。でも作品全体を通して聴くと、電子音やコーラスとかのアレンジ、曲の並びが絶妙で、強い違和感や気持ち悪さを抱くほどではない。いくつかの曲でジム・オルークが参加しているのも大きいのかも。
そしてこんがらがった思考の隙間に挿入される平坦な曲たち。「ピアノガール」「屛風ヶ浦」「宿はなし」。これらが箸休めというか、アイスクリームのウエハース、居酒屋でしたたか飲んだあとに食べるだし巻き卵の存在。それがまたいいんだよね、すごくおいしいウエハースです。
②歌詞の意味があえてナンセンス(不可解)なものが多い
1枚目では昼飯ゆっくり食べようとか、ちょっときみに電話かけてみようかなとか、そういう日常系の内容が多かったのに、本作はどうしたんだろう。イケナイお薬キメちゃったのかしら…と思う歌詞が多くみられる。
たとえばM3「ミレニアム」
今までも これからも
ミレニアム 本当かい
辛いけど 眠るだけ
絵日記の 絵だけ描く 絵だけ描く
そしてM14「ガロン」
真黒な冷たい海で 真黒な石油のような海で
僕らは旅を続けています
真黒な冷たい海で まるで石油のような海で
僕らは眠くなってきました
僕の想いは何処で燃え尽きた 電波は何処で途切れた
風の丘に旗を立てるので精いっぱいさ
眠らないで お願い
正直よくわかんないです。でも➀で述べた変化の大きい作風に不思議とマッチしていて、よくわからないけど苦しんでいるのが伝わってきます。見えない相手と徒手空拳で戦っている、そんな印象すら受ける。そういった心境で岸田が曲を作っていたのかもしれないですね。結構イライラしながら制作してた時期っぽいし。
好きな歌詞も結構あって。高校生の時は「ピアノガール」が本当に好きでした。あと「ロシアのルーレット」の「必要なのは愛だけさ 愛だけさ 笑うなよ 殺すぞ」とビートルズに喧嘩売ってそうな歌詞。ぞくぞくしながら聴いてましたね…フフフ、いてぇ…。
そんなわけでいくつか曲紹介
「ピアノガール」
「宿はなし」
ウィキにも書いてあったけど、この時期かなりメンバーが険悪だったようです。そりゃそうよね、1作目と2作目で雰囲気が全然違うもん。ドラムの森さんは5曲しか叩いてなくて、あとはサポートでCoccoのプロデューサーやってた根岸さんとかが叩いてます。森さんも複雑な心境だっただろうけど、頼まれた側も「えっ、いいけど…いいの?」みたいな気持ちだっただろうな。
そういやSlipknotも2枚目『Iowa』レコーディング時に相当揉めた話をなんかの雑誌で読んだことがありました。メンバー仲が悪くなると名盤が生まれるのでしょうか。それでOasisみたいに解散しちゃったら元も子もないけど。
そう考えるとよく続いたよね。Oasisみたいにメンバーチェンジ多かったけど、完全に崩壊もすることなく。まあ途中からはほとんど岸田と佐藤さんの2人だけど。この頃の岸田って「こんなことは言いたくないのさ!!」といいながら淡々とパワハラしてきそうだもん(※個人の見解です)。
以下唐突な自分語り。
ピアノガールが好きです、たぶんくるりのなかで一番好きな曲。
高校生くらいの頃、非常に理不尽な環境にいる人と遭遇したり、自分が好きだった子がしょうもない男と寝てたのを知ったりしてめちゃくちゃ落ち込んだ私にとって、「ピアノガール」はかなり支えになってくれた曲でした。「お願い 私をだまさないで」という歌詞にうるるんとしていました。今も金が無いし外出できなくて辛いけど、あの頃はあの頃でもっと辛かったよな、なんて考えたり。
ふとそんなことを思い出しながら、この『図鑑』をずっと繰り返し聴いています。すごいぞ、くるり。
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