私は、1曲を半分に分けて、なおかつ、片手づつ、丹念に指導しました。
そして、1曲を5週間くらいかけて、ゆっくりと仕上げました。
マサ君の努力もあり、数ヶ月経つと、
マサ君は、3拍子の分散和音も4拍子の分散和音も、上手に弾けるようになりました。
そして数ヶ月経った頃~
これは、教育芸術社のこどものバイエルの特徴なのですが、
数ヶ月前に習った曲が、今度はト長調で出てきました。
マサ君は、分散和音が上手に弾けるようになっていましたから、
ト長調になっても、当然上手に弾ける、と確信していました。
ところが、何週間練習しても、マサ君は、全く弾けるようになりません。
それどころか、まったくの初心者に戻ったかのように、手が硬直して、
全然弾けなくなってしまったのです!
私は、不思議でなりませんでした。
健常の生徒さん達は、以前習った曲が移調して出てくると、とても嬉しそうです。
なにしろ、指のポジションを移動するだけで運指は同じですから、練習が非常に楽なのです。
ところが、マサ君は、それが出来ません。
今まで、ドソミソ、ドラファラ~と、易々と弾いていた分散和音が、
ソレシレ、ソミドミ~になるだけで、マサ君にとっては大問題。
頭の中では、パニックを起こしていたのでしょう。
それこそが、自閉症児の【こだわり】なのだ!
と私が気がついたのは、それからしばらく経ってからでした。