釧路駅に降りると、向かいのプラットホームの屋根が鈍色に輝きました。
昭和を感じさせる、ホームの鉄柱の上にスチール屋根が乗り、庇の雪止め鋲が微妙に波打ちます。
小説「挽歌」の主人公玲子が札幌行きの汽車に乗ったのも、こんな景色のプラットホームだったかもしれません。
改札口を出る為に地下通路へ降りると、通路の途中に風よけサッシのドアが設けられていました。
北海道で暮らした人以外に、この地の冬の寒さを伝える言葉を私は知りません。
釧路の街を見たくて、駅の外へ出ました。
釧路の名は、アイヌ語で「クシュル(通路・交通の要所)」の意だそうです。
駅から幣舞橋「ヌサオマイ(神を祀る儀式を行う場所)の橋」へ続く北大通が、水蒸気を含んだ空色の空の下に続いています。
振り返ると、赤錆色の駅舎が、素っ気無い素振りで陽の光を浴びていました。
もうこれで十分です。
駅の外で釧路の風を浴びた瞬間、数年前に夜の繁華街をうろつき、釧路川の岸辺のフィッシャーマンズワーフで呑んで食べた記憶が蘇りました。
駅ビルの中に戻り、幾つかの飲食店を覗いた末に、今日の昼飯を「花咲かにめし」弁当に決めました。
土産物屋で「純米吟醸 福司」に大きく心が動きましたが、今これに手を出せば、青春18きっぷの旅が白日夢の旅に変質します。
ぐっとこらえました。
改札を済ませ、地下通路から階段を上ると、コンクリートのホームにクリーム色の鉄柱が等間隔に並び、幾何学模様を描く鉄骨に、板を並べた屋根が続いていました。
1970年代後半の頃、函館駅で青函連絡船に乗り継ぐとき、こんな雰囲気のホームを、大勢の乗船客と並び歩いた記憶があります。
あの頃は、大きな荷物を両手に抱えた旅人が、深夜の函館駅のホームに溢れていました。
2番線で、根室行き普通列車「道北 流氷の恵み」号が発車準備を整えていました。
まずは「道北 流氷の恵み」号に席を確保し、
隣の3番線に停まるノロッコ号を見学に行きました。
ノロッコ号は、1989(平成元)年に登場した日本一遅い展望観光列車で、釧網本線の釧路-塘路間を走ります。
毎年5月のゴールデンウイークから10月上旬にかけて、1日2~3往復運行されます。
ノロッコ号はノロノロと進むトロッコ列車が名の由来で、展望車はトロッコのような窓のないオープン車両が使われています。
車内に入ると、外を眺めて縦に置かれたシートと通常のボックスシートが並んでいました。
2号車のカウンターで記念品やお弁当などが販売され、カウンターのお姉さんにレンズを向けると、一緒に旅したくなるような笑顔を返してくれました。
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