1067㎜幅の線路が台地に伸びます。
線路の周囲は灌木と草藪ですが、前方に森の木々が見えます。
列車は淡々と台地を進みました。
轍を浮き上がらせた林道が線路の脇を走り、ササ覆う丘が沢に凹み、その中に濃い緑の木々が茂ります。
ササとカヤに覆われた台地が、青空の下に見えるはずの海を隠していました。
そんな台地のカヤに紛れて、ヤマハハコやヤマブキショウマらしき草花を見た気がしますが、確かではありません。
この地に吹く冬の風は熾烈を極めます。
それに耐え得る樹木のみが、荒野の中に枝を広げていました。
都会の安易に暮らす旅人が、思考を止める景色に身を委ねていると、草の茂みの後ろに突然、海が姿を現しました。
白波寄せる磯の先で、落石岬(おちいしみさき)が海に迫り出していました。
線路脇に、海風を防ぐ柵が並びます。
防風雪林を設けるはずが、厳しい気象に耐える樹種が見つからないのでしょうか。
車窓から走り来た別当賀や厚床の台地を振り返えると、夏の太陽とは思えぬほどに優しすぎる光が、水色の海を照らしていました。
列車が進むにつれて落石岬が大きくなってきました。
落石はアイヌ語の「オク・チシ(首のつけね・くぼみ)」が由来で、現在の漁港周辺が岬に繋がる低地の地名です。
落石岬は海水面からの標高50m程の平坦な台地で、環境保全の為に車両は進入できず、岬を廻る遊歩道が整備されています。
岬で発見されたサカイツツジの南限自生地として、落石岬は昭和15年に国の特別天然記念物に指定されています。
そして今列車は、五稜郭駅に貼られた、花咲線のポスター付近を走り過ぎます。
ポスターの写真は、海岸段丘を走る列車が、落石岬の基部を横切り、根室方面へ走りゆく様を撮影しています。
私の乗る列車は岬の付け根を通過し、海を見ながら進んで、
落石駅に停車しました。
老婆心ながら、落石駅は商店などのある落石港から3km程も離れ、駅と港を結ぶバスやタクシーはありません。
ポスターと同じ光景を求めて落石駅に降りたとすると、それなりの覚悟が求められます。
駅の周囲にコンビニなどはなく、電話ボックスと赤いポストがあるのみです。
落石駅を出た車窓にトドマツの林が並びました。
トドマツ林は2km弱も続いたでしょうか。
つい先程見てきた別当賀の台地とは大きく異なる光景に興味をそそられます。
そして思い浮かべるのが野付半島のトドワラです。
野付半島のトドワラは、海水の浸食でトドマツ林が立ち枯れた光景なのです。
トドマツ林が終わる辺りで振り返ると、浜松海岸の先に、ゴンゲン岬を擁する台地が見えました。
この辺りのフットパスを歩けば、高山植物に出会えるそうです。
そして、あのテレビドラマ「北の国から」で、黒板蛍が妻子ある医者と駆け落ちしたシーンのロケ地はこの辺りです。
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