Men's wear      plat du jour

今日の気分と予定に、何を合わせますか。 時間があれば何か聴きましょう。

久しぶりに、Leslie Saalburg

2020-03-17 |  その他
レスリー・サールバーグのこのイラストは、ファスナーTalon Zippのために1934年のエスクァイアに描かれたものです。
この時代、パンツの前開きをボタン・フライから何とかジッパーに換えさせようと、毎号のようにタロンは広告を出し、横から見た時フライフロントは生地が少し浮いて見えますよ、とジッパーの優位性を図説していました。
最近は落ち着いてきましたが、しばらく前にボタン留めに先祖返りした製品が多くみられた事を考えると、歴史や流行が繰り返すという話を思い出します。

話はちょっと脱線しますが、窓の向こうに描かれたクライスラー・ビルディングは、少し前の1930年に完成したばかりで、当時話題の名所だったことでしょう。
何度か書いた気がしますが、サールバーグが描いたと同じ'34年、写真家のマーガレット・バーク=ホワイトがビルの上から撮影している有名な写真があります。



次もタロンの広告。 サインがあってもなくても、この辺のイラストはよくL.フェロウズと混同されているのを見ます。
そのクライスラービルの中にあった「クラウド・クラブ」という所でスケッチしたとあります。









'50年代以降、こういうタッチの仕事が多く、フランス人の奥さんの絡みでしょうか食レポ風のイラストなどが増えます。



今回はあまり外に出ない方用に、画が多めとなっております。
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H難度

2020-03-13 |  その他
20℃を超える日が出てきました。
冬のうちタイミングを逸してたのを、遅ればせながら投稿させて頂きます。



非常に難しいテクニックです。
前傾した腿の上の皿はすべるし、ましてシートステッキでバランスを取りながらとなるとかなりな技です。

更に難しいのは左の男性で、茶系の細かい柄のジャケットにグレーのパンツまでは良かったですが、ヘリンボーンにしなかったら今日でもお手本のようなコーディネートです。

服に興味を持ちはじめて暫くすると、いろいろ工夫してみたくなります。
その一つが、「普段グレー無地のパンツを合わせている柄のジャケットに、何か違うものを合わせられないか」という誘惑です。
なかなか魅力的な実験ですから、その誘惑にあらがえず何か買い足すことでしょう。
一番手っ取り早く思いつくのが、画像のような合わせです。

悪いとは言えませんが、より趣味の良い着こなしを目指す方には、やはり迷わず無地の中間的なグレーからライトグレーのレンジでちょっと違うのをお薦めします。
「それじゃ、持ってるのと同じ」という反応が予想されますが、まったく同じ生地でない限りジャケットと合わせた時に微妙に表情が変わります。
明るめのグレーを合わせた時にはジャケットの色が引き立ったのに、ある日それより少し濃いグレーを合わせただけでジャケットの色が沈んでしまった、なんて事はありませんか。

ちょっと脱線しますが、紺のブレザーにグレーのパンツという時代を超えたコーディネートを、その逆も可だろうという発想だと思いますが、グレーの上着に紺のパンツを合わせてしまうとまったく別物です。
グレー系の上着に紺のパンツという組み合わせは、日本人の陥りがちなものの一つで、よくよく注意が必要です。
今日ではもっと選択肢が増えて、妙な合わせにハマらないよう気をつけるのは更に難しいでしょう。

ただ上のイラストに関して言えば、パンツ以外靴もホーズもすべて完璧なことを考えると、フェロウズは敢えて承知で描いたかも知れません。
L.バルベラのコメントのように、「時にはセオリーをちょっと逸脱したところに、その人らしい着方が生まれる」場合がないこともないからです。
その場合も「他が完璧」というところが重要で、そうでないとただのトンチンカンと解される可能性のほうが高いでしょう。

あるいは当時の流行りというか、一般的な合わせだったかも知れません。
フェル・シャープが描いたイラストに、ネップの入ったホームスパンのジャケットにもっと大きいヘリンボーンを合わせたイラストがあります。
ここまで大きいヘリンボーンに柄物の上着では上下ガチャガチャして、最初のフェロウズの絵だったら文句ないじゃない、と言いたくなります。



カジュアルに傾いて構わなければ、コーデュロイや綿で起毛感のあるツイルも、ツィードにマッチした素材ですしこなれた感じがして良いものです。
またウールの方が扱いやすいという方には、前にも書きましたがカバート系と称される、キャバリーツイル、カバートクロス、ホイップコード、カルゼといった(どれがどれだか見分けがたいと思いますが)生地もおすすめです。

以上あくまで拘る方の場合ですが、パンツの合わせにももっと面白い選択肢があるかも知れません。
退屈だと感じる方は、ワナに気をつけてぜひ新しい合わせにチャレンジしてみて下さい。
最後に、フェロウズが描いた正調のコーディネートを。

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キレイ

2020-03-09 |  その他
新型コロナウイルスが報じ始められてすぐ、マスクの装着率を促進させようと、海外の「マスク美人」みたいなイベントがニュースになっていました。
もちろん、そういう方は取っても美しいだろうと思いますが、目が合った途端その巧みな描き方に見惚れて、あやうく怪しい人と間違われないともかぎりません。



この時期ちょっとリスキーかとも思いましたが、だいぶ前から予約していたので、定期検診で胃の内視鏡検査を受けました。
終わって医師から「ピロリ菌がいないという話と矛盾しません」と説明を受けながら、胃壁の画像を眺めて「意外にキレイ」なんて思います。
でも胃壁じゃ自分のもあまり見たくないですから、他人に「見て、キレイ?」なんて言ったら敬遠されるのがオチでしょう。
それに比べると、やはりマスク美人の方がずっといいです。

ところでその内視鏡検査は、胃壁をよく撮るため空気を送り込むようで、今回はそれがきつかった。
最近は暴飲暴食で鍛えることもありませんから、前より胃が小さくなったのかも知れません。
昔の漫画でカエルのお腹をパンパンに膨らませるようなのがあって、横になりながらそんな図を連想しました。


(室生寺から近い店先に、もう何年もあるカエル)

腹囲を測る時も別にスリムに見せたいとかないですが、姿勢を伸ばしたらお腹を引っ込めたと同じ状態になったようで、係の方がメジャーを読んで「78センチ!」と確定してしまいました。
へこましたとも言えず、パンツはもっと大きいです...なんて、さんざん経験してきたのに自分でやってしまい笑います。

仕事での採寸も、もちろんその時の状態が大事で、初めてで多少緊張感があると先の話みたいに正確な寸法がとれません。
何だかんだお話しながら、自然体になる瞬間を待ちます。
また、それ以上に大事なのが大きく体のクセをつかむことです。
これも普段と違う緊張感があると、たいていの場合良い姿勢をとろうとするので、解けるのを待ちながら動きの中から身体のクセを探ります。

ちょっとメジャー当てられただけで、自分がお腹引っ込めるんですから、姿勢を伸ばすくらい誰でもあるでしょう。
子供の頃、腰が直角に曲がって地面を見ているようなおばあちゃんが、立ち止まると急に背中を伸ばし直立したのを見て、「あぁ、伸ばせば伸びるのね」と妙なことに感心したのを思い出しました。

定期検診も大事ですが、今はウイルスに負けない抵抗力を養えそうな食生活に気をつけてます。
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青空...

2020-03-05 |  その他


少し前に映画「夜の河」のことを書いてから、誘惑に勝てず増村保造監督・若尾文子主演「青空娘」という作品を見ました。
「夜の河」も100分強の中に一年の物語りがテンポ良く展開されることに感心しましたが、こちらは88分と更にコンパクトで、やはり当時の方々の職人気質を感じます。

とてもスピーディーで無駄がなく、とっさの言葉と思われるセリフさえよく練られ過ぎてる、なんて思うくらいテンポをキープします。
観終わった後は、新鮮で後味の良い果物を食べたような気分でしょうか。



主人公が、生母と再会する場面。
せっかくの画像ですが、これから観る方がいらっしゃるといけないので、お顔を隠させて頂きました。
この時の若尾文子さんは23歳くらい、再会できた母の懐でまるで幼児のような表情を見せます。

増村・若尾コンビというともっとエグ味のある作品のイメージですが、これは一作目だそうでストレートな青春映画です。
1957年作と生まれる前の作品でも、私だけでなく初めてご覧になる方はきっと、気がつくと若尾文子さん演じる小野有子を応援してることでしょう。

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當麻寺 四天王立像

2020-02-29 |  その他
いつも服のことを考えてますが、旅行ではさすがにそんなことはありません。
例えば、有名な奈良・興福寺の阿修羅像を観ながら服のことを考えると、スリムな少年のようですから、きっと抑揚のないリクルートスーツみたいなのしか思いつかないでしょう。
マッチョな金剛力士像は、フィッティングが至難の業です。

奈良・葛城市の當麻寺(たいまでら)へ行って金堂の四天王立像を拝観した時、初めて服をイメージする像に会いました。
それらはいずれも2.2mくらいの像で、4体のうち特に広目天と持国天の顔貌・体躯は、メリハリのあるクラシックスーツを合わせたくなるようなお姿です。



上下とも広目天像。



當麻寺根本曼荼羅のタペストリーは、蓮の糸をもって一夜にして織られた、とされる中将姫伝説というのがあるそうです。
伊ロロ・ピアーナ社のビキューナ、ベビーカシミヤに続くプロジェクトはハスの繊維でしたが、繊細で採取が難しく織りもなかなか進捗しないところから、希少な獣毛にも負けない高価な素材だそうで、残念ながらそれはまだ触ったことがありません。


持国天像。
Comments (2)
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土産話

2020-02-27 |  その他
月初にイタリア出張に行った人が、無事帰って寄ってくれました。
まだその時点では、新型コロナウイルスの影響は緩やかだったそうですから、マスクしてるのも展示会に来ている東南アジアの人だけで、イタリア人でしてる人は見なかったそうです。
(ペストの時代の影響で、一緒の皿を分けたりしないし、マスクしてたら不審がられるという説を昔聞いたことがあります)
その後移動さえ困難になるとは予見出来ませんでしたが、タイミングよく帰れたとのこと。



今はまず価格があって、当然それに合わせて素材が決まってくる、と言います。
質は二の次、三の次という扱いで、「値段から入るからいいもの作ろうって方向に行かないし、モノ作る人は皆んな疲弊してるね」
バンチを繰りながら、「ポリばかり触ってるから手がそうなっちゃって、でもやっぱりウールっていいね、ほっとする」
笑わせるためではないと思いますが、英国のミルに相手が作らないような薄くて安いものをリクエストしたら、イヤな顔をされた話とか、次々面白い話を聞かせてくれました。

せっかく来てくれたので、滅多に見られない生地を並べると、「いいねェ」「いいじゃない!」と褒めてくれましたが、
「これいくらなの?  ふざけるなよー、そんな高い生地使った事ないよ!」
「でもそんなに変わらないのに、こういうモノ扱えるから店やってるんじゃないですか!」
と、相手は先輩ですが昔から遠慮ありません。
もともと量産と仕立服では使う生地の量が比較になりませんが、大手はどこも利益にシビアですから、聞く話はことごとく私の行き方と逆でしだいに可笑しくなりました。



ちなみに今春夏用に購入予定なのは、某ショップのポリエステル・スーツだそうです。
さっきの話と辻褄が合いませんが、昔から話題のものが好きなのを知っているので、あえて突っ込みませんでした。
商売がら相手に合わせて、そういうものにも理解があるという姿勢を示す必要もあるかも知れませんが、私だったらポリ100のスーツに6万出すなら、足してでもウールを探すでしょう。
貰っても着ませんが、これもまた見事に逆を行っててナイスです!

化学繊維の優れた機能性も出尽くした感があります。
それでもやはり、その人が好きだというA.フラッサーの本にあるように、

「スーツの生地を選ぶ時の原則はただ一つ、今も昔も変わりません。生地は自然繊維でなくてはならないということです。
(中略)
自然繊維をまとうことの一番のメリットは、何といっても肌を優しく刺激するその感触の良さにあるのではないでしょうか。自然繊維は柔らかでぜいたくな感じがします。第二の肌のように体に馴染み、暑い時には汗や体の熱を外に出し、寒い時には熱を外に逃しません」

私としては、こちらを尊重したいと思います。



読んだという話はまだどなたからも聞きませんが、A.フラッサーの最新刊はラルフ・ローレンについて書いたものだそうです。
画像はRizzoliから出ている"Ralph Lauren"から。
きっとアパレル・アーツで上のイラストを穴の開くほど眺めていたら、胸にフラップを付けたくなったのかも知れません。
先日の話の続きのようですが、ちょうど写真の向かいのページにR.ローレンの言葉でこうありました。
"Classic to me means things that are timeless and enduring, the things that never go out of style"
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"Classic is never boring"

2020-02-14 |  その他
綴りを間違えて、桑田さんがパーフェクトを出したのを記念して言ってる訳でも、井戸掘りについて語ってるのでもなく、今日のタイトルはユベール・ド・ジバンシィの言葉だと外国の方が教えてくれました。
「クラシックは決して退屈なものじゃない」
ツマラナイなんてことナクナクナクないんですよ、と言ってます。

私どもが作っている服は、クラシックと呼んでもいいし、トラディショナルと呼んでも構いませんが、もちろん伝統的な男性の服に則ったスタイルです。
ただ日本で「トラディショナル」というと、ある時代の特定のスタイルだけを連想されるきらいがありますが、もっと本質的な伝統の部分を言ってます。

アラン・フラッサーの言葉を借りれば、その時代を超越したスタイルは
「1930年代に発展し、それからずっと父から子へ、そしてテイラーから客へと受け継がれてきたもの」
だと言います。
さらに誤解をさけるため付け加えると、それを時代に合わせて先人が少しずつ進化させてきました。



よく使うL.フェロウズやL.サールバーグのイラストにはキャプションが付いていて、描かれた服のディテールが単にアメリカ的というよりもっと古くからある場合など、そこに注目するよう但し書きを付しています(キャプションはイラストレーターとは別の人)。
読者に、「ご存知の見慣れたものが、正統とは限らないですよ」と注意喚起してるようです。

A.ヘプバーン等の衣装を担当したジバンシィの服は、今日までデザインソースとしても繰り返し使われてきました。
外国の方がよく言う、"Timeless classic"に昇華した訳です。
ちょっと「腹痛がイタイ」みたいな感じがしなくもありませんが、とにかく流行り廃りを超越したスタイルになりました。

さらにジバンシィは、デザインした服が出来上がってきた時より発注した生地が出来上がってきた時の方が、もっと嬉しそうだったと言います。
何となく楽しい話ですね。



画像はいずれも既出で、ドレススタイルでもありません。
このC.F.ピーターズが描いた力の抜けたジャケットスタイルを思い出し、庭仕事の好きそうな様子から下の画像を連想しました。
チャプリン演じるヴェルドゥー氏のような雰囲気ですが、これはこれで素材・型ともこうした装いのクラシックスタイルと呼んで差し支えないものだと思います。



クラシックと言えばしばらく前のこと、昼食後少し昼寝した方が健康に良いなんて説がありました。
そうだこれを流しながら昼寝でも...と思ったら、まったく寝られないというか、なんか寝かせてくれないんですね。
誰も寝てはならぬ、とは言ってないので勘違いかと思ってもう一度試すと、演奏するロストロポーヴィッチの「気」が凄くて、昼寝どころか退屈するスキさえありませんでした。
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Ernest Francisco Fenollosa (1853〜1908)

2020-02-09 |  その他
これを読んでくださる方の中にはイタリア好きとか、いゃ英国でしょとか、アメリカ好き、という方がいらっしゃると思います。
あるいはいいとこ取りで、それぞれ良いところはどこでも好き、という方もいらっしゃるかも知れません。

TVでは最近、日本好きな外国人の願望をかなえる番組など、インターネットで勉強して普通の日本人が知らない知識や趣味をもった外国人が増えていることが分かります。
それは今に始まったことでなく、例えば、大戦中に京都を空襲しないよう進言した人などもそうだったかも知れません。

学校で日本史を勉強すると、近代の部分は駆け足になったり、たどり着かなかった印象があります。
フェノロサ、岡倉天心についても、以前は2〜3行の知識しかありませんでしたが、京都からなんとなく琵琶湖周辺の芭蕉の足跡をなぞったり、奈良へ行き来していたら、気がつくとフェノロサにも重なりました。

アメリカ、マサチューセッツ州セーラム出身のアーネスト・フェノロサは哲学の教授として来日しましたが、異文化を理解する眼を持っていたのか、神仏分離令と廃仏毀釈で古いものを全て否定し、西欧化へまっしぐらだった流れに歯止めをかけるのに間に合います。



今日多くの外国人が日本を訪れる動機となるような文化遺産の多くが、最初の衝動こそ分かりませんが、フェノロサの行動によって救われたと言います。
また今では文化財と呼ばれるような品々が、手放さざるを得なくなった人々から海外へ流出しましたが、何年か前ボストンでリサーチされて話題になったように、地球上から消失してしまうことを免れました。

大きな寺でも無住となって荒れるにまかせていたという話もありますから、すでに廃棄されたものもあったかも知れません。
フェノロサは仏像とギリシャ彫刻を同等に見做したそうですが、日常は美術とか文化として見られていなかったでしょうから仕方ないことです。仮に見た人ももちろん故人でスマホとかない時代ですから、今日誰もその存在について分かりません。

琵琶湖湖南の西側、三井寺(園城寺)から少し歩いた法明院にフェノロサ、友人で日本美術の蒐集家ビゲロウ医師(修復の必要な寺に寄進もしていた)や親しくしていた方々の墓があります。



洋の東西を問わず美しいものを評価したフェノロサの審美眼にあやかりたいのか、単なる好奇心か、自分でも意識せずそこまで行った帰り家内が言うのには、
「これじゃ、墓マイラーと一緒だね」
確かに。
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眼福

2020-02-01 |  その他
ある外国人の方が、書いていた話です。
服好きだった父親を亡くした女友達から「良かったら好きなの使って」と、残された大量のネクタイを前に言われたそうです。
見せてもらうと中に数本とても気に入ったものがあり、もらって帰って眺めていると、故人の趣味の良さが偲ばれたと言います。



少し前に飲んでいた時のこと、
「その生地、本当にいいですよね」
と、私のジャケットを見て連れの方が言ってくれました。
「本当に」というのは、ご本人も同じ生地で作ったのを持ってるからです。

以前も書いた気がしますが、自分が着ているものは自分で全体が見えないし、鏡に映った像はもちろん映ってはいるのでしょうが、質感など肉眼でダイレクトに見るのと違います。
ですから、目の前の人が良い生地でバランスの良い服を着ていると、私の眼も喜ぶ気がします。

また店にある古い雑誌をご覧になる方で、見落とさないよう1ページ1ページ丁寧にすべてご覧になる方は、やはり相当好きな方だと思います。
でないとなかなか集中力が続きません。
業界の方が2人、飲食の方が1人、「面白い、面白い」と仰いながら端から端までご覧になってました。

そのような感覚を持っていらっしゃる方なら、細かいことは言わずとも通じるような気がします。
例えば、生地の質感とか色合いは複雑で多岐にわたるので、結局最後は言葉ですべては伝わらないんですね。
色々見て、着て、どうなるとか、感じてもらうしかないかなと思います。
...と書いていること自体に限界を感じ、気がつくとブルース・リーの有名なセリフみたいになってました。



画像は、あまり馴染みがないかも知れませんが、以前取り上げたJ.C. Leyendeckerと同じくらいの時代にフランスで活躍した、Bernard Boutet de Monvelという画家(イラスト等色々にまたがるので、ご興味ある方は検索お薦めします)です。
たまにクラシックなものを扱う店で、知らずにこの人の作品をディスプレイしてます。
今で言うセルフィー、つまり鏡にうつった姿を描いているので上の絵がオリジナルですが、見るたび何だか落ち着かなかったので、邪道ですが左右を反転させてみました(下)。どうぞお間違いなきよう。
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鎌倉で初詣

2020-01-29 |  その他
朝の情報番組で、三浦半島の河津桜が咲いたと報じていました。
昨日から気温が上がって、今日はもうポカポカと春のような陽気です。

近所の会社が引っ越しました。
お仕事の相手がほぼ県外や海外で、鎌倉にいるメリットがなかったそうです。
確かに...久しぶりに鶴岡八幡宮までの参道を歩いたら、いかにも観光客向けらしい店が増えていましたが、少しそれると以前からの閑散とした佇まいは変わりません。
今までほとんど宿泊施設がないことで知られていましたが、活性化しようと活動されている地元の方々もいらっしゃって、現在建設中の施設もあったり少しずつ変わり始めてはいるようです。



鶴岡八幡宮ではこの時期、厄除大祈祷という催しがあるそうです。
それと関係なく、少し空いたかなという頃合いに例年初詣に行きます。
ある年のこと、御祈祷を受ける同じ組に、「子連れ狼」で拝一刀を執拗につけ狙う柳生烈堂を演じていた、夏八木勲さんがいらっしゃいました。
帰りに「大五郎が可哀そうだから、もう拝一刀を許して」なんて、もちろん言いませんでしたが。
今年は待合所に戸が設けられ、以前のように寒風に耐える必要がなくなりました。
何事も少しずつ変わっているようです。

私にとって鎌倉の良いところは、時期ならコンスタントにルッコラが買えるところです。
昔すごく寒い冬のボローニャで、畑から収穫したばかりのような新鮮で美味しいルッコラを食べて以来、好きで好きで...というくらいですが、量も質も満足というのはなかなかありません。
鎌倉に通い始めてから、この季節は新鮮なものを毎晩のように用意できます。
他の野菜や果物も買いますが、しょっちゅうルッコラを買っていく重いカッコしたおじさんは、きっと八百屋で不審がられてることでしょう。
下が、ある日のルッコラを買うスタイル。


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2020年1月

2020-01-29 |  その他
ここ数年、コートの袖に生地とかブランドのラベルを付けたまま歩いている人はかなり減ったと思っていましたが、今シーズンはよく見ます。
先日は、流行の雑誌を見ていそうなカッコなのに、30歳前後の男性が"Japan Fabric"と袖に付けてました。

昔、日本でよく見かけるけどまさかお洒落に敏感なイタリアにそういう人はいないだろうと思っていたら、たった一度だけ見たことがあります。
それは中心からほんの少しはずれた...とは言え感度の高いミラノのことで、親族と一緒に何かイベントに出かけたというふうな90歳くらいのおじいちゃんでした。
真新しい、袖丈のあってないコートの袖に生地だかメーカー名が付いていても、寒くて急いで買ったかも知れないおじいちゃんに誰も言う必要はなかったでしょう。



新年最初の集まりは横浜市西区岡野町のOsteria il Fuocoで、季節の折かぜで欠席の方もいます。
今回は4世代くらいにわたるメンバーで、こうして書いていて笑ったのは、18歳ではインプラントの話を聞いているのにも困っただろうなぁ、ということでした。
その日は次から次へ様々なワインを相当量飲んで、後半何だかずっと笑ってた記憶はありますが、話題が何だったか思い出せません。
もちろん袖のラベルとかそんなのでなく、私のはさらに他愛ない話です。
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夜は千の眼をもつ

2020-01-10 |  その他


一と月くらい前のこと、後ろから坂道を駆け下りてくる足音が近づいて私を追ぬいたかと思うと、息をきらして、なぜか私の直前に入って急激にスローダウンする女の子がいました。
私はその間も進んでますから、危くぶつかりそうになります。
想像するに一応急いでいた彼女は、あのオジサンの所まではなんとか走ろうと目標にして、やっと追い越したところで事切れたというか走るのやめた、程度の理由だったのでしょう。
4〜5年前からでしょうか、たまにそういう目に遭います。

以前は皆無だったことを考えると、人間の感覚がドンマというかタイカしてるんだなぁ、と放浪の画家のマネをしながら思うのでした。
生身でもこんな事あるんですから、車ならもっとでしょう。
後の見える人はいませんから、私だって気づかないだけで似た迷惑をかけてないとは限りません。

でも一人だけ、背後も前と同じように感知できる人がいます。
座頭市です!

「正月から大丈夫?」
という声が聞こえそうですが、昨年暮れから第二次「勝新中毒」にかかりまして、つまり後のイメージが出来上がった「悪名」シリーズから「座頭市」シリーズを観ないでいられない、という症状からようやく脱したところです。

その中の一本「悪名無敵」という作品には、昨年末に亡くなった八千草薫さんがご本人には珍しい役で出てきました。
何を演じても、あのおっとりした感じなのが面白いです。
また少し前に書いた「婦系図」(おんなけいず)に主演の万里昌代さんは、座頭市が思慕する「心のきれいな」女性として描かれます。

これも書きましたが、一時付き人だったというルー大柴さんが勝新太郎さんを"ヴィクトリー・ニュー太郎"と呼んでいた、という嘘か本当かわからない話を思い出して笑いました。

大映のタイトルは雲海で始まりますが、ないので3日の富士山。

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2020

2020-01-03 |  その他


明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。

今日はたいへん穏やかな日で、布団や洗濯物を干すには最適でしたが、走るにはどうだったでしょう。
なぜ見てしまうんだろう思いながら、三日間とも朝から駅伝を見ました。
色々スポーツはありますが、突き詰めていくと、一番シンプルなのは走ることだから...
おまけにタスキを繋ぐとそこにドラマが生まれるから...
結局なぜ見てしまうか分からずじまいですが、人間が走るから色々不測の事態があったりして、目が離せないのかも知れません。

既に書いてますが、生地もPCでデザインしてきれいに整った細い糸で夏物のチェックなんか織ると、あまりに整然とし過ぎて紙にプリントしたみたいに見えるものがあります。
男性の服としてはそれがアダというか、必ずしも良く見えないんですね。
ジャケットなんかは特に不規則な糸だったり、整い過ぎてないものの方が魅力的だったりします。
駅伝も色々な個性の走者がリレーするからドラマチックなのか、なんて無理矢理こじつけました。

いずれにしても今回の箱根駅伝はすばらしい記録続出で、「200km以上走ってきて、最後数秒の決着か」という実況どおりの3位争いや、10区での記録更新など見所がたくさんありました。



実際には違いますが、昨年は一年の半分くらい生地を探していたような気がします。   
                 
画像のジャケットの生地は、「カシミヤで何か良い色柄はないですか」という秋口のリクエストに応えて探したものです。
杢糸使いのダークブラウンのグレンチェックに、ボルドーのオーバーペイン。
カシミヤの艶を杢糸が少し抑え、濃茶とボルドーの巧みな調和で実物はもっと深い美しい色合いです。
色々お持ちでも、服好きの方が好む良い色だと思います。

年末に上がったので、ご注文くださった方のご好意により撮影させて頂きました。
画像では20年以上前ナポリのロンドン・ハウスで購入のエクルーにボルドーのヘアライン・ストライプのシャツ、明るいベージュのカシミヤ・タイを合わせていますが、他にも様々なバリエーションをイメージさせるジャケットです。
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2019年末

2019-12-30 |  その他
22日は横浜信濃屋さんのクリスマス・パーティーでした。
年に一度そこでしか会わない方も多く、以前「歴女」が話題になった頃、幕末から明治に興味があるというお子さんと一緒に写真を撮ったことがありましたが、高校生になったと聞かされてちょっとビックリ。

高校生といえば、
高校生の藤井さん...と書くと、ここから読んだ人はソータ君を想像するかも知れませんが、数回前に登場の高校生です。
このブログを3周くらい読んでくれたという奇特な方で、白井さんに心酔する早熟ぶりです。
店に来てくれたくれた日は高熱を発していたそうで、連絡した手前キャンセルをためらった、と22日のイベントの後に聞きました。
社会人でも無断で飲食店の予約をキャンセルするようなご時世、ご家族の薫陶がしのばれます。
うちは命がけで来るような所じゃありませんよ、と言っても初対面じゃ分かりませんものね。

その日電車のトラブルで遅れましたが、藤井さんは16時には着いて、おじ様方に優しくしてもらったり記念写真を撮ったり、充実してたそうです。

二次会へも参加して、酔ったおじさんの相手をしてくれました。
気を遣ってもらい地元の銘菓「五家寶」というのをいただいたのに、
「えっ、家系...?」
「家しか合ってないじゃないですか!」
いつものお約束どおり、人の話に突っ込んでいると、
「何で全部まぜっ返すんですか?」
と、さすがの若さで高い順応性を見せ始めてイイ感じになってきた頃、終電もあやうくなりお開きとなりました。

というわけで藤井さん、
年内にリクエストに応えられて、ほっとしてます。
風邪に気をつけて、入試頑張ってください。


(国立市のシューホリック井上さんが、雨に濡れながら撮ってくれました)

今年もご覧頂きまして、ありがとうございました。
皆様お揃いで、どうぞ良い年をお迎えくださいますようお祈り申し上げます。
新年は4日(土)12時より営業致します。
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中村さん

2019-12-27 |  その他
一年半ぶりにSE(シングル・オイラー)佐藤さんに会うと、話題はアフガニスタンで亡くなった中村医師のことでした。
来日中ローマ教皇が語った言葉を実践にうつしたなら、中村さんがやってこられた事とかなりの部分重なるように思います。

ニュースを聞いて以来ずっと何か重い気分でしたが、先日水泳の池江選手が退院されたそうで、久しぶりの明るいニュース。

年末になり今年を総括するような話が多くなっています。
日本を除く世界では、環境問題が今年のメインでした。
永久凍土が溶け始めて数年、もしかしたら後戻り出来ないレベルまで来ているかも知れない、と恐ろしい話です。

私どもの仕事に関連する事柄では、日本で廃棄される服が相当な量という話もあります。
そうでなくても、羊毛生産者が食肉へシフトし始めた(羊の種類が異なる)と言われて数年経ち、環境の変化によっては羊毛の安定供給が危ぶまれないとも限りません。
唯一の救いは、原毛の細さを追い求める人だけでなく、昔からあるしっかりしたウールの価値を見直す傾向が、少し揺り戻しつつある事でしょうか。

ますます流行り廃りと距離をおいて、長く愛着をもってお召しいただける服をと思わずにいられません。
仮にもう着られないくらい傷んで処分されるにしても、一番後回しにしたくなるような服を作りたいと思います。

京都や滋賀を歩いていると「一隅を照らす」という言葉をよく見かけますが、中村さんも最澄のその言葉を引用されていたそうです。
一隅どころか国土を潤すような大事業を成しながら、「良い人もいれば悪い人もいるのが世の中」と周囲の方へ語っていたと聞きますが、それでもやはり、最期に見た景色を想像すると胸が塞がります。
「目先の利益しか見ないで、なんて立派な人を殺してしまったのか」と犯人が改悛する日は来るでしょうか。
ここへ来てIR絡みで逮捕者が出ました。
何という落差。
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