Men's wear      plat du jour

今日の気分と予定に、何を合わせますか。 時間があれば何か聴きましょう。

風船

2020-08-30 |  その他
45歳で亡くなった川島雄三監督は、着るものに合わせて時計ベルトを替えていたという話が残っています。
そういうこだわりを聞くと、感覚的に何だか信用できる人なのかなと思いたい気がします。
バランスも気にしたでしょうから、服自体にもこだわったかもしれません。

その川島監督に「風船」という作品があって、原作は大佛次郎の連載小説だそうです。
芸術家肌の父親と母親に溺愛されて育った息子、兄と正反対の心を持つ娘。
それまで放任だった父が息子の行状にたまりかねて叱ったところ、エゴに満ちた言葉で反論してきた息子を一喝するシーンがあります。

「世間の人がやっているから(自分もやって)いいというのは、卑怯でない人間は言わないことだ!」

今も小さな決まり事を守らない人にTV局がマイクを向けたりすると、よく「皆んな、やってるから」という答えがあります。
そういう論調に対する父親のセリフでした。

また、商品や付随するものに不具合があったことを指摘されたところが「今までそんなことなかったから、報告されてないから(自分達に責任がない)」という理屈もこれによく似ています。
目の前にある現実の問題を見ようとしないで、先に守りに入ってしまう。
こういうのはもう過去のセリフかと思っていたら、ダメなところは未だに使うそうです。



20代の頃大手アパレルに入って数年、扱う商品の一部に接着芯の剥離が起きました。
幸いにもそれまでそういう事例がなかったからと言って、商品に問題がないと言い切り、その場を凌ごうとする輩は上にもいませんでした。
大量に売れた製品がシーズン毎にクリーニングに出され、むしろそれまでよく何事もなく来たなと思ったものです。
もちろん再発しないようキレイに復元しました。

その後、上の人達に理解してもらう為少しずつ資料を集め、グレードに関係なく毛芯に移行するよう話をもっていくのに少し時間を要しました。
おそらくその頃、課外活動も忙しかったためです。
結果として、多少時間はかかりましたがほぼスムーズに改善され、他の商品にも質を求める気運が高まりました。

あの時、三橋達也演じる増長したドラ息子のようにナメたことを言っていたら、どうなっていたでしょう。
だいたいにして、「卑怯」なんて通じるのか。

この作品の背景には、戦後11年経ち人の価値観が荒廃していくことを憂う空気があったようです。
日本のこの7年8カ月にもそれは言えるでしょうし、トランプの出現で世界はもっと変わってきたでしょう。
関係ありませんが、森雅之演じる父親は「村上春樹」という役名です。
1956年作品。




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戸隠神社

2020-08-29 |  その他
案内していただき、黒姫から戸隠神社へ詣でました。



森林植物園を抜けようとすると大きな熊のフンに遭遇し、目撃情報が出ていたこともあって、大人4人緊張感を持って多少声を張りながら進みます。



樹齢約400年と言われる杉並木は、江戸開府とほぼ同じ時代に植えられたことになります。

何年か前の吉永小百合さんのCMと結びつきませんでしたが、何か懐かしいような、江戸や古の人になったような気分で、ずっと来てみたいと思っていた場所のような気がしてくるから不思議です。

並木の一歩奥はもう原生林のようで、祠のあるところ以外人を寄せ付けない空気です。
8時に出発してまだ人も疎らな時間帯で、思いのほか健脚だった4人は予定より早く往復できました。

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顧客満足

2020-08-26 |  その他
京都で繁盛店を営んでいたご夫婦が信州の黒姫に移住して、美味しいものが食べられて宿泊もできるというお宿を始めてもうすぐ4年経つそうです。
伺ってはいましたが遠くてなかなか果たせず、直前まで新幹線の予約をのばし、最も密にならない席を取るなど注意をはらいながら出かけました。

その前に寄った善光寺やその周辺にも頼朝伝説の残る寺を見つけ、「馬でもここまで来るのは大変だったろうなぁ」と芭蕉にでもなった気分で感慨にふけったり、蕎麦を食べてゆっくり向かいました。



産地まで行って選んだという信楽焼の風呂でゆったりさせてもらってから、夕飯をいただきました。
地産地消はもとより、すぐ先は新潟で日本海も近く、またツテで京都から直送されるものもあるそうです。

まず、とうもろこしを豆腐にして夏野菜と出汁のジュレをかけたもの
お造りは、ホッキ貝、ボタン海老、クロマグロ、甘鯛、ウニ
焼物は、京都美山の天然アユ、近くの野尻湖の天然ウナギ
その後、石川産の岩ガキ
カニの餡かけ
ホヤの塩辛
鱧のお鍋
アナゴ寿司
と続き、途中から飲めないくらいです。
地元の果物とお茶をいただく頃には、泊まれる安心感からか睡魔が忍び寄ってきました。


無農薬の畑から、オクラの花


ナスの花

食後に話を伺う頃にはもう聞かなくても分かってましたが、数は少なくとも来て頂いたお客様に100%満足してもらいたいという思いでやってらっしゃるそうで、だいぶ昔に思い描いていたかたちだそうです。

こだわる人は、もちろん自分が満足できて食べさせたいと思う食材選びから始まってるでしょうから、2週間以上前に連絡しておいて良かったと安堵します。
飲みながら、最近出来上がってきた特別な生地のジャケットを思い出し、やっていることが何か似てると思って笑いました。
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シャツ

2020-08-20 |  その他
久しぶりに歩く通りを行くと、向かいから知り合いによく似た人が近づいて来ます。
ちょっと日焼けしているし雰囲気が違うので、似た人かなと思っていると、近づくにつれしだいに相好が崩れたのでご本人だと分かりました。

日を改めて待ち合わせると、その日はシャツの話だけでも3時間以上。

ジャケットおよびスーツの上着は、仕立て技術の歴史の中で着やすさ動き易さが研究され尽くしてきました。
パターンやアイロンワークの複合技で、着る人に合わせてかなりのレベルが達成されていると思います。


「フレデリック・ショルテによるウィンザー公の型紙」

ところが消耗品だからとシャツのグレードを落としてしまうと、せっかくの上着の着心地をたいてい損なってしまいます。
シャツの方が体に近く、それ自体が先に人の動きを制限するようでは、上に着る上着がどんなに優れた作りでもその良さの半分も味わえないでしょう。
そういう意味でも、シャツはとても大事だと思います。
女性でもボレッリやバルバ、マトッツォなんかを普段着ていた人が、ある時シャツがメインというその頃出て来たブランドの製品を着たところ、着づらさにその日一日ですぐ処分したと聞きました。

20年くらい前ナポリで歴史ある仕立屋のオーナーに何度か会って、こちらの顔を覚えたと思う頃、「この仕事で失敗談はありますか?」と尋ねてみました。
「一度、シャツを上着みたいにピッタリに作ってしまったことがあります」
とテレながら教えてくれたのが大いにヒントになりました。

そこの上着は、今時のと違ってもちろんピタピタだったりはしません。
また、そこの既製シャツは同じネックサイズならイタリアで最もゆったりしているのではというくらい身幅のゆったりした作りで、価格もボレッリやフライの2~3割増しでした。
ともあれ、コンパクトに作っても可動域を確保できるジャケットと違って、毎回洗濯することが前提のシャツは人の動きを妨げないゆとりが必要です。

何年か前から雑誌で見る、「上着の下で生地が溜まらないシャツがいい」という説を信じた方もいらっしゃるかもしれません。
時間が経って、最近若い方の中にもそういうサイズに疑問を持つ方が出てきました。
体が拒否したのか、昔の人の写真から学んだのか。
こういう事は人に言われてもなかなかピンと来ないもので、何かをきっかけに自ら気づかないと切り替えるのが難しいです。

現在買えない製品では伝わりにくいと思いますので、例えばFrayのシャツを複数お持ちの方だったらお分かりだと思いますが、非常に緻密でキレイなレベルの高い仕事が維持されています。
縫う人、製造責任者、検品する人、更にオーナーまで、出来上がりのレベルのイメージが共有されていないと、なかなかそのレベルは保てないように思います。
よほどしっかりした人がいるのでしょう。
着心地の柔らかさやステッチの緻密さでは、ナポリのメーカーにも同等かそれ以上の時期がありましたが、ボタンホールのメスだけ入っていてかがり忘れていたり、不完全な品がスルーして出回る場合があるので検品はゆるそうです。
(個人的には基本的なところが良く出来ていたら、後から手を加えられる程度の問題は楽しめます)

もしそんなレベルの品にも問題があるとしたら、生地やデザインや芯の選択、細身のパターンが選択されていたりと、作る側よりは発注の問題かもしれません。
あとは体つきとの相性もありますから、もちろん見た目のキレイさ完璧さがそのまま着心地を保証するわけではありませんので注意が必要です。


先入れ先出ししなかったので、25年くらい経ってしまいました。(わかり易くキレイという意味で名前を挙げましたが、一番良いという意味ではありません)
Comments (2)
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先回り

2020-08-18 |  その他
長い梅雨にうんざりして、もうしばらく水はたくさんだと思っていたのに、この暑さで水に涼を感じています。
懲りないものですね。



小学校3~4年の頃、祖父母の家にあった古い本が気になった時期がありました。
もちろん旧漢字や難しいところは、想像で補ったろうと思います。
その中で印象に残っているのは、シュトルムという人の作品と、治水に関する偉人伝のような話でした。

ここ数年、チベットと太平洋の「二段重ねの高気圧」と「線状降水帯」は、夏の天気解説に定着してしまいました。
そして、残念ながらどこかで被災を免れません。
漠然と大昔の話だと思っていた治水が、現代の問題であることを毎シーズン否応なく突きつけられます。

私どもの仕事はもちろん治水と関係ありませんが、CM犬のお父さん「勝手に...シリーズ」のように、ストレスのないよう軽く柔らかく動き易く、勝手に極力着やすく作ろうとするという点で、問題に先回りして備えるところは似てないこともないかも知れません。

暑いことに変わりありませんが、13日朝は前日までとは少し風が変わっていました。


川瀬巴水 「日光湯瀧」1941

夏季休業のお知らせ
8月23日(日)〜25(火)
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マスク

2020-08-08 |  その他
いつもの夏と変わらないのかもしれませんが、梅雨明け以降、体が慣れてないせいか暑さがたいへん厳しいように感じます。
熱中症ではないと思いますが、作業中おかしな具合になる日がありました。
マスク内で二酸化炭素を循環して、頭痛を引き起こす方もいらっしゃるそうで、通勤でつけるマスクももう少し楽にできないか試行錯誤中です。



また普通ならあり得ませんが、梅雨が長かったので予期せぬ所にカビが発生しているかも知れません。
良い服をたくさんお持ちで、すべてに目が行き届きにくい方は、特に気をつけて点検されることをお勧めします。
それより健康上良くないことの方が問題ですが。

特に今の状況では、服より大事なものが色々あります。
やはり健康第一。
それにご家族や周りの方々...お洒落は後からついて来ますから大丈夫です。

さっきも一歩外へ出たら、暖房が入ってるような暑さに引きました。
コロナでなく暑さのため、不要の外出を避けるよう呼びかけています。
普段以上に意識的に水分をとって、熱中症にはくれぐれもご注意され、良い夏休みになりますように。



イラストはどちらも、J.C. Leyendecker。
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言葉にできない

2020-08-04 |  その他
側近に続いて姪にまで暴露本を書かれてしまったトランプ大統領、支持した人からも「前回の投票は間違いだった、このままでは大変なことになってしまう」と声が上がる一方、未だ一定の支持者がいるようです。
ブッシュ息子の時みたいに、これ以上ヒドイことをしないことを祈るばかりです。



昔、日本では見てもイタリアでは見たことがなかったから、安心して「ボタンホールの糸の色を変えるようなのは避けて下さい」と書いたことがありましたが、その後イタリアでもそういう困ったディテールの製品を作るところが出て来て驚きました。

その時、シャツに入れる刺繍については書き忘れたかも知れません。
最近滅多に見ないので絶滅したかと思いきや、見ないよう願ってたから目に入らなかったのか、少なくなったとはいえカフに名前を入れてしまうそうです。

活字になっていないとご納得され難いかと思いますので、例によってA.フラッサーがさらっと触れているのをご紹介します。


モノグラム(イニシャル)

モノグラムのついたシャツというのは、自分だけのものという感じがしてなかなか良いものです。
しかしこれみよがしに襟やカフスにつけては、まるで、広告塔と同じです。
レタリングはシンプルに、イニシャルも高さが1/4インチを超えないように、あくまでも控え目にすることが大事です。
つける位置はウエストから5、6インチ上、左胸の真ん中です。
もしシャツに胸ポケットがあれば、(カスタム・メイドのシャツにはポケットのないものもたくさんあります)その真ん中につけます。


書いてあるところを見ると、おそらく昔からそういう趣味の人はいたのでしょう。
今はまさかそんなことないと思いますが、さしずめトランプさんなんか襟やカフに名前入れたことがあってもおかしくないタイプに見えます。

あまり趣味の良くないものに関して注意を促すものはありますが、「趣味の良さ」を言葉に変換するのはなかなか難しいようで、滅多なことではお目にかかりません。



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