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ドイツの脱原発について

2013年09月17日 | 原発問題
 約1年前の研究報告ですが、ドイツの脱原発に至る経緯や背景、今後の取り組みなどを知る上で参考になると思いましたので、以下に星野中央大学教授の論考を掲載させて戴きます。

ドイツの脱原発と再生可能エネルギー政策
星野 智/中央大学法学部教授
専門分野 現代政治理論/環境政治論

<福島第一原子力発電所事故と世界の原発政策への影響> 

 2011年3月11日の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故は、世界の原発政策あるいはエネルギー政策のあり方に大きな影響を与えました。
 スイスは同年5月に、2034年までに5基ある原発をすべて廃炉にする方針を表明し、原発に代わるエネルギーとして水力を利用する方針を打ち出しました。
 イタリアは国民投票で改めて「原発拒否」の立場を明確に表明しました。
 ドイツでは、福島原発事故の後、国内で大規模な反原発運動が起こりました。とくに南西ドイツでは反原発運動が高まり、デモの参加者たちはバーデン=ヴュルデンブルク州にあるネッカーヴェストハイム原発からシュトゥットガルトまで45キロにわたる人間の鎖を作りました。
 こうした反原発運動の高まりという動きもあって、メルケル政権は2010年9月に打ち出したばかりの原発維持政策を撤回し、2022年までに国内のすべての原発を段階的に廃止する方針を示しました。

<ドイツの脱原発政策>
 
 ドイツの脱原発政策は、1998年に成立したドイツ社会民主党(SPD)と90年連合/緑の党の連立政権が打ち出したものでした。
 当時の連立政権の考え方は、原発には受け入れ不可能な高いリスクが伴っているというものでありました。そこでシュレーダー首相(当時)が電力会社と協議を行った結果、2000年6月に両者のあいだで原子力発電所の閉鎖に関して合意が成立しました。
 その内容は、まず原子力発電の寿命については32年の規定寿命にもとづいて2000年1月1日から残余稼働年数が計算されること、安全性に関しては残余年数のあいだ従来の安全性基準が適用されること、そして核廃棄物処理に関しては電力会社はできるかぎり早急に原子力発電所の立地場所あるいはその近くに中間貯蔵施設を建設することなどでありました。
 そして2001年9月に、連邦議会によって原子力エネルギーの廃止に関する法律が可決され、これによってドイツの原発は稼働開始時から32年、平均すると12年以内に廃止されるとされました。

<メルケル政権の脱原発政策>

 しかし、2009年にメルケル政権が成立してドイツの脱原発政策は方向転換しました。キリスト教民主同盟・社会同盟(CDU・CSU)と自由民主党(FDP)の中道右派の連立政権は原発廃止政策の撤回について協議し合意に達しました。
 その主な内容は、1980年以前に建設された原発には8年間の延長許可が認められ、1980年以降に建設された原発には14年間の延長許可が認められるというものでした。ちなみに、17基ある原発のうち、1980年以前に建設された原発は7基、それ以後に建設された原発は10基となっています。
 ところが、昨年の3月11日の福島第一原子力発電所事故で、この決定が覆ることになりました。メルケル政権は、福島原発事故後のドイツ国内の反原発運動の圧力に抗いきれずに、すべての原発を2020年までに廃止するという以前の決定を受け入れることになったのです。
 2011年6月末のドイツ連邦議会で、この決定が513対79で可決されました。この決定で、8つの旧型の原発が2011年に廃止され、9つの原発は2022年までにすべて廃止されることが確定したのです。

<再生可能エネルギー法の制定>

 ドイツでは、2000年3月に、原発廃止に伴うエネルギー源の多様化と持続的供給をめざすために再生可能エネルギー法が制定されました。この法律の目的は、大気保全、自然保護ならびに環境保護のために、エネルギー供給の持続的な発展を可能にし、再生可能エネルギーから電力を生産するための技術の発展を支援することでありました。
 さらにこの法律は、再生可能エネルギーの割合について数値目標を設定しました。そして2012年1月の改正後、電力供給における再生可能エネルギーの割合を、2030年までに50%、2050年までに80%としました。
 またこの法律は再生可能エネルギーから生産された電力の買取価格を規定し、これによって電力会社には再生可能エネルギー事業者などが生産する電力を固定価格で買取ることが義務づけられました。
 事業者ごとに設定される買取価格が20年間固定されることで、再生可能エネルギー事業者にとってみれば、その将来的な収入が保証され、その新規参入も容易になったのです。

<再生可能エネルギーと雇用の拡大>

 この再生可能エネルギー法が成立して以来、電力供給におけるその割合は増加の一途を辿り、2000年には6.25%であったのが、2006年にはその2倍の11.7%に上昇しました。
 また再生可能エネルギー分野での雇用の拡大も進み、2007年には、風力発電の分野で84,000人、バイオマスの分野で96,000人、太陽光発電の分野で50,000人に増加しました。
 長期的にはこの分野の雇用はさらに拡大する可能性があると考えられています。ドイツには風力発電関連や太陽光発電関連の企業が多くありますが、これらの企業は再生可能エネルギーの将来性を見越して、それに関する技術開発や特許取得を精力的に行っています。
 また再生可能エネルギー部門への投資も増加し、ドイツ連邦環境省によりますと、その額も177億ユーロ(日本円で約1兆7000億円)に及び、雇用人数も30万以上に達するとしています。
 2011年の再生可能エネルギーの割合についてみると、エネルギー消費全体に占める割合は12.2%で、発電に占める割合はすでに20%となっています。
 したがって、2050年までに電力供給の80%を再生可能エネルギーで賄うというエネルギー政策も実現不可能ではないように思われます。

<日本の脱原発への動き>

 いま日本では、将来的なエネルギー政策の方向性を決める転換点に立っています。
 昨年の福島原発事故後、国民のあいだに脱原発の意識が高まり、国会前での脱原発のデモ参加者も増えています。民主党政権は2030年の電力に占める原発割合について、「0%」「15%」「20~25%」の3つの選択肢を示し、全国での意見聴取会、討論的世論調査、パブリックコメントを実施しました。
 その結果、「0%」がそれぞれ約68%、約47%、約90%を占めました。
 これをみると少なくとも国民の半数以上が原発廃止という意見であることが明確になりました。
 ドイツはすでに2022年までに原発廃止という方針を確定し、法律によって電力供給における再生可能エネルギーの割合を段階的に高めるための数値目標を設定しました。
 日本でも政府は国民の意見を真摯に受け止めて将来的なエネルギー政策の方針を早急に確定し、同時に再生可能エネルギーの割合を高めるための政策を実施するために数値目標を法律で設定することなどを検討すべきであると考えます。



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