食の歴史 by 新谷隆史ー人類史を作った食の革命

脳と食を愛する生物学者の新谷隆史です。本ブログでは人類史の礎となった様々な食の革命について考察していきます。

産業革命期のイギリスのパン-イギリスの産業革命と食(4)

2022-03-18 18:14:37 | 第五章 近代の食の革命
産業革命期のイギリスのパン-イギリスの産業革命と食(4)
日本人が朝食に食べるパンと言えば「食パン」が第一にあげられます。

食パンとは発酵させたパン生地をフタつきの角型に入れて焼いたもので、外側が型にくっつくことで平らになるため、直方体の形になります。

この日本の食パンの元祖は、パン生地を角型に入れて焼いたイギリスの「ホワイトブレッド」だと言われています。ただし、ホワイトブレッドの型にはフタが付いていないため、パンのてっぺんは山型になり、生地の中の気泡も大きくなります。また、大きさも日本の食パンよりも一回りほど小さいです。

産業革命期のイギリスではホワイトブレッドがたくさん作られ、朝食やアフタヌーン・ティーで多くの人々の空腹を満たしました。さらに、この時期には、今でもイギリスを代表するパンとなっている「イングリッシュマフィン」などがよく食べられていました。

一方、産業革命期には、酵母を使わずにパン生地を膨らませることができる「ベーキングパウダー」がイギリスで発明されました。そして、ベーキングパウダーを用いて「スコーン」などの様々なパンが作られて行くようになります。

今回は、このような産業革命期のイギリスのパン事情について見て行きます。

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食パンの元祖のホワイトブレッドは、角ばっていて収納性が良いことから、大航海時代の船に乗せるために生み出されたと言われている。ちなみに、最初にフタつきの角型で焼かれたパンは「プルマンローフ」というもので、これはアメリカのプルマンという鉄道の車両で使用されていたことに由来している。車両でも収納性が重視されたからだ。


ホワイトブレッド(congerdesignによるPixabayからの画像)

職人たちなどは、月曜日は日曜の安息日による二日酔いのために仕事をほとんどしないのが長年の習慣になっていたが、産業革命期になると工場の労働者のように月曜日の朝から毎日規則正しく働く人が増えてきた。その結果、毎日元気よく働くために、安価でエネルギーの高い食事が求められるようになった。

一方、イギリスでは広く紅茶を飲む習慣が広がり、それにともなって紅茶と一緒に軽食もよく食べられるようになった。特に、アフタヌーン・ティーでは紅茶と一緒に軽食を食べることが習慣化していく。

このような食事の要求にこたえて、よく食べられるようになったのがホワイトブレッドだ。多くの人々にパンを提供するために、効率良く焼くことができて収納性の高いホワイトブレッドが重宝されたのだ。

ちなみに、イギリスでは薄く切ったホワイトブレッドをカリカリにトーストして、ジャムなどをたくさん塗って食べるのがふつうだ。また、ホワイトブレッドはサンドイッチにも使用され、これもアフタヌーン・ティーでよく食べられた。

上流階級に人気だったのがキュウリのサンドイッチで、冷涼なイギリスでキュウリを食べられるのは温室持ちの金持ちだけだったため、一つのステイタスシンボルになっていたのである。

ホワイトブレッドのほかに、朝食やアフタヌーン・ティーでよく食べられていたのが「イングリッシュマフィン」だ。これは酵母で発酵させた小麦粉の生地で作った平たい小さいパンで、食べるときには手やフォークで水平方向に2つに割ってトーストし、バターなどを塗って食べる。また、ベーコンや卵をはさんだサンドイッチも作られた。


イングリッシュマフィン(Stacy Spensleyによるflickrからの画像)

イングリッシュマフィンは18世紀に誕生したと考えられているが、次第にイギリスで大人気になり、各家庭をまわって売り歩く行商人が登場するようになる。1820年頃に作られたイギリスの有名な童謡に「マフィンマン」というものがあるが、これはマフィンを売り歩くおじさんを歌ったものだ。

イングリッシュマフィンはアメリカに伝えられ、現代ではアメリカのとてもポピュラーなパンになっている。

現代のイギリスのアフタヌーン・ティーで、イングリッシュマフィンと同じようによく食べられているものに「スコーン」がある。スコーンの元祖は16世紀のスコットランドで生まれたビスケットのようなパンだった。それが、19世紀の半ばにベーキングパウダーを用いて作られるようになり、現在のようなものになった。

なお、スコーンもイングリッシュマフィンと同じように上下2つに割って、クロテッドクリーム(濃厚な乳製品)やジャムを乗せて食べる。


スコーン(Zul VentによるPixabayからの画像)

スコーンを作るときに使用されるベーキングパウダーは、1843年にイギリスの化学者のアルフレッド・バードが発明した。彼のベーキングパウダーは、重曹と酒石酸を組みわせたもので、これを生地に混ぜ込むと二酸化炭素が放出されて生地がやわらかく膨らむのだ。

人類は長い間、酵母を用いてパンやケーキを作ってきた。酵母がパン生地の中で活動すると、酸素を吸い込んで二酸化炭素を放出するのだが、バードは酵母の代わりに二酸化炭素を生み出す粉を作り出したのだ。

ベーキングパウダーはその後に改良が加えられたものが考案され、19世紀の後半にはイギリスやアメリカで広く使用されるようになる。


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