221話）マルチタレント

　私たちのカウンターパートは6年前から大同市総工会です。この事業を担当しているのは副主席の柴京雲。彼のもうひとつの顔はタレントなのです。
　弟・柴京海と2人で数来宝をやっています。漫才のようなもの。すごい人気なんですね。地元テレビの常連ですけど、それだけでなく中央や山西省のテレビにもでます。携帯電話をはじめ、さまざまなTV-CMにでていますし、大同市内には彼の写真をつかった広告塔があちこちにありました。市長を知らない人はいても、柴京雲を知らない人はいない、といっていいくらい。彼といっしょにレストランにはいると、用はなくても、女性の服務員たちが私たちのテーブルに集まります。「悪いことをしたら逃げきれない」とは本人の言。
　それだけじゃないんです。歌がとてもうまい。30種類以上の楽器をあつかえる。絵や書ができる。何年か前、加藤登紀子さんが大同にきたとき、彼女がギターをひきながら「知床旅情」を歌ったら、1回きいただけで採譜し、ハミングしてみせました。そして、彼女に、中国語の歌を歌唱指導したんですね。帰りの北京でのコンサートのために。
　この写真は昨年12月に、日本大使館の梅田公使を大同県遇駕山村の水道プロジェクトの竣工式に迎えたときのものです。彼が司会をつとめました。最初は遠巻きにしていた村人たちが、周囲に集まってきたのは、彼が「さあ、集まって！そのほうが寒くないよ」といったからです。「あっ、柴京雲だ！」といって。
　そして、彼が、「喫水不忘……」（水を飲むと思い出す……）と叫ぶと、村人たちが声をあわせて「掘井人！」（井戸を掘った人）と叫びます。なんのリハーサルもないんですよ。アッというまに、みんなを引き込んでしまいます。
　才能は遺伝するようです。彼の一人娘は、いま北京の中央音楽学院で二胡を学ぶ大学院生です。これまでに何度もコンサートをやり、日本にも演奏旅行にきました。中国の若手奏者12人の1人にも選ばれたそう。その彼女が私に打ち明けるんですね。
　「父にはまだまだ及びません」