1242話)抱狗事件(1)

1994年3月のことです。共青団大同市委員会の副書記、祁学峰さんがこの協力事業を担当することになり、街育ちの彼と私とで農村を訪ね歩くことになりました。数日後からは馮艶さんがかけつけてきて、通訳をしてくれることになっていましたが、最初の数日は通訳がいません。

渾源県照壁村に行き、小学校付属果樹園の建設予定地をみたあと、管理の責任者になる前の党書記の家で夕食をごちそうになることになりました。

その家には猛犬がいて、太い鎖でつないでありますが、その鎖が切れんばかりの勢いで、私たちに吠えたててきます。その犬を主がしっかり抱きしめ、その背中と壁との狭いすき間を抜けて、私たちは炕(オンドル)に上がりました。

もちろん、白酒の乾杯です。地元の人たちは日本語をまったく解しませんし、私は中国語を話せません。気づまりになりがちですが、ガンベ~イをすると、みんな笑ってくれます。で、またガンベ~イ。地元の人はたくさんいますし、日本人は私一人。こういうなかで乾杯するとどうしても過ごしがちです。

ほっぺたを紅で赤くぬった娘さんがお酌をしてくれます。「もういいよ」といって私が断ると、「若い娘の面子をつぶしていいのか!」と周囲がはやし立てます。しかたなく、また何杯も。お開きになるころには、私は完全に酔っぱらっていました。

外にでて、私はあの犬を抱き上げて、「犬はおれの老朋友だ!」といって、振り回したんですね。その場の人たちは、いつ噛みつかれるかと、肝を冷やしたんですよ。でも、だいじょうぶ、私には秘策があったのです。

それは次回に回すことにして、このできごと、「高見の抱狗事件」として、大同の関係者のあいだではかなり有名になりました。そして、酔っぱらわせると、日本人はなにをするかわからない、ということになり、乾杯の無理強いはずいぶんと少なくなったのです。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 1241話)黄花... 1243話)抱狗... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。