<4万人に達するカラムーンの反政府軍>
6月にクサイルで敗北し、8月にダマスカスで敗北した反政府軍は、カラムーン山地に退避した。その結果、以前は5000人にすぎなかったカラムーンの反政府軍は、約4万人にふくれあがった。
カラムーン山地の反政府軍について、現地を視察したリポーターが報告している。(アル・モニター紙)
ーーレバノンとの国境は反政府軍が支配しており、冬が近づくと、木材とジーゼル油の密輸が活発になる。反政府軍が道路を監視し、守備している。カラムーンに来て驚くことは、広大な地域が、完全に反政府軍の支配下にあることである。80km歩いても、アサド軍の検問所に出会うことはない。反政府軍は、この一年間に、アサド軍の検問所を、40か所奪った。
カラムーン地方には20の町があり、100万の人が住んでいる。ーーー
Author: Al-Hayat (Pan Arab)Posted November 21, 2013
貼り付け元 <http://www.al-monitor.com/pulse/security/2013/11/syria-opposition-qalamoun-battle-war.html>
<アサド軍の本拠地が攻撃される>
カラムーンの反政府軍の兵力が増大し、その支配地が拡大しただけでなく、彼らはアサド軍の軍事施設を攻撃してきた。
8月上旬、ヌスラとイスラム系諸グループが、ダンハ(Danha)にあるアサド軍の武器集積所を襲い、武器・弾薬を奪った。
続いて9月上旬、イスラム系のリワ・アル・イスラームとアフラール・アル・シャームが、ルハイバ(ar-Ruhaiba)にある、第81旅団の基地を攻撃した。ルハイバはクタイファの東にある。正確な位置は後に示す。
カラムーン山地 BBC
この2回の攻撃において、ヌスラとイスラム国以外のイスラム系諸グループも、戦闘力を一段と強化していることが明らかになった。
カラムーン山地のふもとを国際自動車道5号線が走っている。その道路に沿って、アサド軍の軍事施設が点在している。これらの施設が攻撃されたのは、9月の攻撃が初めてであった。
これまで反政府軍は、ダマスカスからホムスへ向かう輸送車を襲撃するだけだった。
軍事施設が集中する、軍の本拠地が攻撃されたことは、アサド軍にとってゆゆしいことであった。そして近くの山中に、4万人の反政府軍が結集していることは、アサド軍に脅威を与えた。
アサド軍は事態を放置できないと考え、11月15日、カラムーン作戦を開始する。
(上記地図の説明)
①南端のダマスカスから北へ向かう赤い線が、幹線道路5号線。
②幹線道路の西側がカラムーン山地。山地の西端はレバノンとの国境である。レバノンの町アルサル(Arsal)は反政府軍の基地になっている。地図の最上部に、赤い波線と矢印で示されている。
幹線道路の東側に、アサド軍の軍事施設が集中している。それらの位置を次に示す。
①3つの基地が幹線道路から離れ、一般道路にある。幹線道路上にあるクタイファ(Qutayfa)には第三師団の基地があり、その東隣のルハイバ(ar-Ruhaiba)には第81旅団の基地がある。ルハイバの北のナシリーヤ(Nasiriya)には第155連隊の基地がある。
②ルハイバの南、地図の最南端のドゥマイール(ad-Dumayr)には飛行場がある。襲撃された武器庫があるダンハ(Danha)は地図に示されてれていない。
<カラムーン山地の戦略的重要性>
8月以来の危機がなくても、カラムーン山地はアサド政府にとって戦略上の要地である。最悪の場合、アサド政権は、全国統治を放棄し、国を分断するつもりである。その際、北部と東部を捨て、西部のみを確保する。都市の名をあげれば、ダマスカスとホムス、そして海岸部のラタキアとタルトゥスである。そのためには、ダマスカスとホムスの連絡を危うくする、カラムーン山地の敵は一掃しなければならない。
反政府軍の支配地 2013年8月 Washington Post
(説明)①北部は反政府軍が支配するところとなっている。(オレンジ色の部分)
②中央部はほぼ政府軍が支配しているが、部分的に反政府軍が割り込んでいる。
③ホムスと海岸地方との間に反政府軍の支配地がある。
④ダマスカスの周辺に反政府軍の支配地がある。
<カラムーンからの支援に頼る、ダマスカスの自由シリア軍>
弱体化したダマスカスの反政府軍にとって、カラムーン地方からの支援は命綱となっている。反政府軍の生の声を聞くと、彼らにとってカラムーン地方が、いかに死活的に重要であるか、ひしひしと伝わってくる。カラムーン地方には反政府軍のメディア・センターがあり、そこの広報官が、シリア専門のメディアに語った。(シリア・ディレクト紙)
ーー「ダマスカスの市内と郊外の自由シリア軍にとって、カラムーンを失うことは、後方支援を失うことを意味する。彼らを支えてくれる者がいなくなってしまう。そうなれば、アサドの目的が達成され、ダマスカスを脅かす反政府軍は消滅するだろう。カラムーン地方がアサドの手に落ちることは、考えただけでも、ぞっとする。本当に恐ろしい。」ーー
<レバノン山脈とアンチレバノン山脈>
(説明) skilem.com
①濃い緑色が山脈。うすい緑色は高地。
②南北に2本の山脈がある。川と谷をはさんで、西側がレバノン山脈であり、東側がアンチレバノン山脈である。
③アンチレバノン山脈の東側にダマスカスがある。
④レバノンという国は、山地が海岸にまでせり出している。国土のほとんどが、レバノン山脈とそれに続く高地である。
⑤別々の2本の山脈と考えた方がわかりやすいが、もともとは1本の山脈という考え方がある。その場合、次のように考える。レバノン山脈はベカー谷によって分断され、ベカー谷を間をはさむ、2本の山脈のようになっている。そして、便宜上、ベカー谷の西側を単にレバノン山脈と呼び、東側をアンチレバノン山脈と呼ぶ。
,<カラムーン山地はアンチレバノン山脈の一部>
アンチレバノン山脈の山中に国境線があり、シリア側の部分をカラムーン山地と呼ぶ。
カラムーン山地の西端はレバノンとの国境である。国境を超え、レバノンに入ると、反政府軍を支持する町アルサル(Arsal)がある。隣国に、いわば安全地帯に根拠地を有することは、カラムーンの反政府軍にとって、大きな強みである。
カラムーン地方の町や村は、人類の最古の居住地域の一つであり、古代以来、変化する文明の影響を受けてきた。近年は、伝統的な果樹栽培が衰退し、収入を失った住民は、レバノンとの密輸に頼るようになった。