投稿が遅れました。
日曜美術館『 女神の瞳に秘めた謎 ルネサンスの巨人・ボッティチェリ』です。

サンドロ・ボッティ チェリ(1445or 45~1510)は、レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロと並ぶ、ルネサンスの巨人です。

代表作「ヴィーナスの誕生」や「春」がとりわけ有名です。
ボッティ チェリは革なめし職人の四男としてフィレンツェに生まれます。
子ども頃から絵を描くことが大好きで、15歳で画家に弟子入りします。
師匠フィリッポ・リッピの作品
「聖母子と二人の天使」
表情は気品と優しさに満ち、初期のルネサンスを代表する作品です。

ボッティ チェリは人間性豊かな表現を師匠から学びます。
ボッティ チェリの「聖母子と二人の天使」

ルネサンス以前の宗教画の作品は、人間性を持たせずに描くのが常識でした。
13世紀に描かれた聖母子像です。

キリスト教の禁欲的な価値観のもと、人間は汚れた存在とされ、聖母の姿は神々しく荘厳でなければなりませんでした。
絵の人物は祈りの対象であり、個性や感情は排除すべきものでした。
ボッティ チェリは聖母を描きながら新しい絵画を模索していたのです。
やがて師匠のもとを離れ、20代半ばでフィレンツェに自分の工房を構えます。
そして有力なパトロンとなったのは、フィレンツェを支配していたメデイチ家当主、
ロレンツオ・イル・マニフィコです。
メデイ家のもとに集まった芸術家との討論を経て、表情豊かな画風を身につけていきます。
「サン・バルナバ祭壇図」
表情が豊かになり、暖かみまで伝わってくる聖母の姿です。

そして傑作が生まれます。
「ヴィーナスの誕生」

春を謳歌する優美な神話の世界を描いています。
海の泡から産まれたヴィーナスは、貝殻に乗って岸辺に打ち寄せられる場面です。
官能的な裸体は古代ギリシャ、ローマの彫刻から学んだものです。
宙を舞う西風の神ゼフィロスと花をまく妖精クロリスが、ヴィーナスに春の風を送っています。
時の女神ホーラが大きなマントを広げ、ヴィーナスを迎えいれようとしています。
ボッティチェリのもうひとつの代表作
「春(プリマベーラ)」

ルネサンスを象徴する作品です。
メデイ家の注文で、結婚祝いの品として描いたと言われています。
春の楽園に集う個性豊かな神々。西風の神ゼフィロスが追うのは花をまく妖精クロリス。
そのクロリスが変身し、隣にいる花の女神フローラになります。
軽やかに舞い踊る三大美神、愛、貞節、美。
薄い衣をまといしとやかにたたずんでいるのは、主役のヴィーナスです。
こんな素晴らしい女性を描いた ボッティチェリですが、女嫌いだったようで、
生涯独身を貫き通します。
一方、 ボッティチェリの後半生は苦難だったようです。
「パラスとケンタウロス」

学問の女神パラスが、暴力と欲望の象徴ケンタウロスを押さえつける場面です。
知性が暴力を支配することを描いています。
しかし、悲しげな女神の顔が印象的です。
その後メデイ家の衰退とともにフィレンツェを追われた ボッティチェリ。
画風を変えて絵を描き続けます。
そんな ボッティチェリに影響を与えたのは、メデイ家のあとにフィレンツェの政治の実権を握った修道士サヴォナローラです。

サヴォナローラはメデイ家の芸術を退廃的だとし、書物や絵画などを焼き尽くします。
それはルネサンスのひとつの終焉でした。
「誹謗」
虚飾を拝するという サヴォナローラの影響を受けた作品です。

これには優美さも官能もありません。
髪を掴まれているのは無実を象徴する青年。

不正を表す審判は裁きを下します。

争いを繰り広げる女性は、嫉妬、誹謗、欺瞞の象徴です。

かたわらに裸でたちつくしているのは、真実の象徴でヴィーナスを思い起こさせます。
しかしその表情は硬直し、深い絶望感におそわれています。

東京渋谷で ボッティチェリ展が開催されています。
初期から円熟期まで貴重な作品が来日しています。

「聖母子と洗礼者聖ヨハネ」円熟期の作品

また東京へ観に行きたくなりました。
思案中です。