道々の枝折

好奇心の趣くままに、見たこと・聞いたこと・思ったこと・為たこと、そして考えたこと・・・

日本酒と日本刀

2021年01月20日 | 人文考察
人類の酒の醸造は、ブドウ栽培地域と文明の発祥地との重なりから考えて、ワインに始まると見ておそらく間違いないだろう。糖分のあるブドウの果実は果皮に酵母を纏い、熟したものを集め放置しておくだけでアルコール発酵が始まる。発酵までは何ら難しい工程を要しない。酒に成るために神が与えた果実と言っても過言でないと思う。

これに対して、ビール・日本酒その他諸々の穀物を原料にする酒の発酵過程は、ワインほど単純ではない。加熱した穀物を放置すれば腐敗する。手間をかけ有用な菌を育て、雑菌の混入を避け、温度管理に細心の注意を払っていくつかの工程を経なければ、佳い酒にはならない。蒸留の過程を経なければ、飲める酒にならないものもある。

清酒づくりは、大きく分けて米を糖化するまでの工程と発酵させる工程との2つの段階がある。糖化には米麹を使う。麹菌による穀物の糖化は、東アジアの酒造りの特徴である。次に糖化した米と酵母に水を加え発酵させる。清酒づくりは、2種類の異質な微生物の働きを統御しなければならない。相手は生き物だから、それぞれ最適の生育環境がある。温度管理と撹拌の作業が欠かせない。原料の米にもましてこだわるのは水である。古来水の良し悪しが問われてきた。

私は古来(山卸・生酛づくり)の日本酒の醸造と日本刀の鍛造に、共通するものを感じる。日本の刀剣と西洋の刀剣との違いを見れば、これはすぐ理解いただけると思う。酒づくりも刀鍛冶も、極めて古い時代に始まった技術である。そのどちらにも詳しく無い門外漢だが、全く異質なアルコール発酵と刀剣の鍛造には、厳選された材料と、手間を惜しまない生産技術、繊細で緻密な技能的執着心が共通していると思う。その仕事場には、神が常駐している厳粛な雰囲気がある。神と人との共同作業とでもいうような、ものづくりの原初の精神が今に続いているようだ。

日本古来の技能・技術には、このような、たぶん古い時代から連綿と相続されている特性があって、それは今日もものづくりにおいて、世界の信頼を集めている要因と思って間違い無いだろう。
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