道々の枝折

好奇心の趣くままに、見たこと・聞いたこと・思ったこと・為たこと、そして考えたこと・・・

論理性の欠如

2020年12月19日 | 人文考察

どうしてこの国は、論理性に缺ける行動を、歴史に連綿と刻み続けるのだろう。誰の目にも国会の審議が必須であるとわかっていながら、権力者個人の恣意で国会を閉じている。それを許す政治風土は、凡そ民主主義とは異質のものである。この政治風土の由来するところは、論理を尊重しない「情実志向」と「事大主義」にある。事大主義の社会には自由な市民は存在せず、闊達な議論の場が拡がらない。

1955年以来政治を担って来た自民党政権の悲願は、結党の目的すなわち憲法改正である。日本には、敗戦後も、権力の絶対性を維持し、国民を権力に隷属させ意のままに動かしたい、国家主義への復古を願う守旧派の人々の勢力が大きい。舊い体制の下で、権力の美酒を酌み交わした体験が、その体制を懐かしませるのだろう。彼らが復活させたい憲法は、現行憲法を含む世界の民主国家の憲法とは、目的においてベクトルが正反対のものである。

政府の誤った越権行為に歯止めをかけるものが、民主国家の憲法であることを、未だに受け入れられない人たちの言動と行動の規範は、全てこの非民主的な旧憲法を復活させる目的に準じている。国民に議論や批判の権利を与えず、有無を言わせない国家権力の行使を、今日でも夢見ているのだろう。この状況では、官僚機構は政治に対して無力である。明治以後敗戦までの日本の政治体制は、いつもテクノクラシーであった。立憲君主制はそこに行き着く。

戦後、民主主義の皮を被って各界に雌伏すること足掛け70年、テクノクラートの末裔たちをはじめとする守旧派が、痺れを切らした挙句に安倍政権を誕生させた。擁立された安倍首相の独善的かつ恣意的な政治手法を、マスメディアは擁護し続けてきた。それが憲法を改めるためには、有効と見たからである。

安倍政権に外交をはじめ国民の福祉や生活の向上の視点が一切欠けていたことは、政権樹立を支援した勢力の目的を知れば納得がいく。目的の為に、現実の政治組織が休眠し機能しなかった。

アベノミクスは成功したのか?新型ウイルスへの防疫の取り組みは適切だったのか?北方領土問題・拉致問題は前進したのか後退したのか?領海侵犯を繰り返す中国の軍事的プレゼンスに対して、何らかの外交措置を展開しているのかそれとも無為無策なのか?一つ一つ検証すれば、何一つ及第していない。政権の交代があれば、前政権の治政が検証されるのは、民主国家の常道であるが、安倍政権亜流の菅政権には期待すべくもない。

自民党が政権を維持できたのは、経済発展を歓迎し変化を避け安定を第一義とする選挙民の数が大多数を占めていたからである。情に依拠するシンパシーというものは、一代や二代では払拭できない。意識的に情念の支配を脱しようとする意欲が国民の側から芽生えなければ、論理的な思考はできない。

論理の優劣によって運営される議会は今の日本には無い。多数の国民の監視の目の前で、大臣が臆面も無く官僚の扶けを藉りながら答弁して聊かも恥じないのは異常である。

予め質問の趣意を確かめた上で、官僚が徹夜でつくった答弁原稿を、国務大臣が棒読みする。答弁に詰まると官僚が大臣の傍に駆け寄り、回答を指導する。官僚の書いた原稿を読むしか能のない国務大臣と馴れ合い、予定質問を繰り返す与党議員。こんな幼稚園の発表会並みの国会を批判しないメディアの不作為責任は重く大きい。

ユーラシア大陸の対極にある、議論好きが高じて論理学を生み育て、議論の優劣を競うことで科学的思考を飛躍発展させた国々の政治制度を真似てみても、所詮似て非なるものである。彼の国々とは異質の、公開の場での議論が心底嫌いな人たちが議会を運営したところで、良い結果は生まれない。今日の議会(国会)の形骸化は、とても先進国を名乗れない。国政の根本、国会法改正を伴う国会改革が、今後の国政の重要な課題となるだろう。

思考の中身が本質的に違うのだから、彼の国々で機能した政治制度は、これまで正しく機能しなかったし、これからも同じだろう。この国には「酒席で政治とプロ野球の贔屓チームの話をしない」とする不文律がある。対立は跡を引く。これこそ、議論無用の精神を曳き摺るものだろう。

老いも若きも、この国の政治のあり方を真剣に考えないと、より好い未来を失うことになる。日常で政治が話題にならない社会に、良い政治が実現するはずもない。
こんな有様では、未来永劫、少数の優良な意見を尊重する民主的制度は、この国に定着しないだろう。


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