東京駅で少し時間が取れたので、三菱一号館開催の 下記に示すダビンチとミケランジェロの素描に関わる展示会に行った。
訪問日:2017年6月29日
正式名称:レオナルド✖ミケランジェロ展
開催場所:三菱一号美術館
会期:2017年6月17日(土)~9月24日(日)
この展覧会の主催者側アピールポイントは、活気のようなもの。
「15世紀イタリアで画家として才能を発揮し、建築、科学、解剖学の分野にまで関心を広げ「万能人」と呼ばれたレオナルド・ダ・ヴィンチ。10代から頭角を現し「神のごとき」と称された世紀の天才彫刻家ミケランジェロ・ブオナローティ。本展は、芸術家の力量を示す上で最も重要とされ、全ての創造の源である素描(ディゼーニョ)に秀でた2人を対比する日本初の展覧会」
特に素描に注目し、レオナルド・ダ・ビンチの世界で最も美しいといわれる素描《少女の頭部/〈岩窟の聖母〉の天使のための習作》と、ミケランジェロの《〈レダと白鳥〉の頭部のための習作》を比較するとともに、両者の違いを際立たせるような素描、文書、彫刻等を展示している。
大きな作品のない、勉強しましょうっていう美術展である。
主要事項について下記に記載する。
1)レオナルドは、彫刻に対する絵画の優位性を強調していた。すなわち「3次元のものを2次元に落としこみ、立体的に見せる技術が必要」 それに対し ミケランジェロは両者は両方とも大事と考えていた。すなわち「彫刻家は絵画をおろそかにしてはいけないし、画家は彫刻をおろそかにしてはいけない」
2)両者は相互に強いライバル心を持っていた。レオナルドはミケランジェロの請け負い仕事を自分がやったらという記録を残しているし、ミケランジェロは競作することになっていた仕事をレオナルドが政情不安で放棄したことをなじっている。
3)両者の素描のやり方の基本が異なる。写真1左 のレオナルドの少女頭像では、濃淡を一方からの斜線のみの、線のピッチの密度で表している。それに対しミケランジェロは、写真2右 のレダに見られるようにクロスする斜線の密度で表している。
4)両者は「レダと白鳥」という同一テーマの絵を描いている。レオナルドのレダ(本物はなくなりこれは弟子が模写したもの)は非常に女性的かつ母性的。そして白鳥は男の性を持つものとして、神話から展開したものとして描かれている。また絵に記載のものには資料からの象徴として書き込まれているものがいくつかある。(写真2)
ミケランジェロの絵画(写真3)は、向き合っているレダと白鳥の顔は官能的ではあるが、やはり肉体美に眼が行き、基本的に彫刻を意識した絵になっている。レダは女性なのにこの力強い肉体美。これは男性をモデルにしているからとのこと。
感じとしては、ミケランジェロは男女の関係の自分のイメージをそのまま書いているのに対して、レオナルドは資料の中の世界を自分の頭で構築し、それを描いている。
5)馬のスケッチがあるがともに一見写実的。しかしレオナルドのほうは、見えている状態を骨格や筋肉の動きにまで詰めて、いわば絵を描く以外のところまで追求するのに対し、ミケランジェロは合理的に彫刻もしくは絵画をちゃんと描く以上のことは求めない。
6)人の素描について、レオナルドは対象の存在骨格、筋肉、そして考えていることを読み取り、その存在を赤裸々に描こうとしている。それに対しミケランジェロはモデルに委託して自分の美のイメージを描いている。
今回は地味な展覧会で入場料も高かったけれども、両者ともすごい人であることを再確認し、有意義な展覧会であった。
ミケランジェロは、たぶん豊かな感性から美を追求する人だし、レオナルドはは真理を追究する人で、その一環として美があるといった感じなのだと思う。