てんちゃんのビックリ箱

~ 想いを沈め、それを掘り起こし、それを磨き、あらためて気づき驚く ブログってビックリ箱です ~ 

美人画LOVE  名都美術館

2020-09-07 09:49:38 | 美術館・博物館 等

展覧会名:美人画LOVE
場所:名都美術館
期間:2020.08.21~09.27
訪問日:9月05日
惹句:艶めく、色めく、華やぎの美
構成:第1章:動きに注目
   第2章:物語を読み解く
   第3章:耳を澄ませば
   第4章:芸事を味わう
   第5章:季節を味わう

1.初めに
 名都美術館は、近現代の日本画の蒐集で有名であり、特に鏑木清方、上村松園、伊東深水の充実した内容に自信を持っている。コロナ後の再開美術展として、伊藤小坡を加えた4人を中心とした美人画展を開催した。家から車で40分弱の名古屋郊外(長久手市)にあり、手ごろなドライブ距離なので、気分転換に鑑賞に行った。
 今回の展示点数は42点、上村松園が5点、伊藤小坡が5点、鏑木清方が9点、伊東深水が21点で、三宅鳳白が1点、月岡榮貴1点である。
 上村松園と伊藤小坡は、日本画の改革を目指した竹内栖鳳の率いる京都画壇の女性日本画家で、松園は普通の家庭を作らず女性の真善美を追求した人、小坡は家庭生活の中から風俗と女性を描いた人と対象的である。そして清方は東京で歌川流の浮世絵の伝統を継ぐ人であり江戸風俗の一環として美人画も描いた人で、深水は清方の弟子だがまず洋画を勉強してから日本画に向かった人である。
 今回それら4人の絵を鑑賞し、それぞれの持ち味の違いを感じた。

 今回の展示は自分の館の専門分野だからと学芸員が非常にこだわって説明を付けたようで、楽しく読ませていただいた。テーマは絵を観る際に、ただ見るのではなくいろんなドラマを想像して感じてほしいということで、特に感じることを5テーマあげて、章に分けて解説している。

2.展示内容
 各章の展示内容と展示作品の例を示す。
・第1章:動きに注目
 美人画というものは、おしとやかという印象があるけれども、ダイナミックな動きを描いているものもあるので、それを感じなさいということ。
 その例として2点示す。

(1)上村松園 「男舞之図」
 左手は振り上げたばかりで袖が乱れている。そしてあごの紐は左に揺れ、時計と逆回りの回転をしている途中であることを示す。それでも息を切らすこともなく微笑んでいる。完璧な美しさ。




(2)伊東深水 「鏡獅子」
 鏡獅子を持って踊っているが、その精に乗っ取られそうになっていて、狂いそうな眼となって踊りは、一層激しさを増そうとしている。この絵の帯の赤と、鏡獅子の緑の色のぶつかりあいはすごい。そしてそれこそ緑が蛇のように女性に絡みつきそうである。




・第2章:物語を読み解く
 描こうとする対象の物語を示すのに、作者としてどのように描くのか、作者が描き込むことと省略することなどを味わいなさいということのようである。ここも2点紹介。

(1)伊東深水 「湯気」
 深水の奥様を描いたもの。ものすごく好きだったのだそうだ。顔を洗っている様子。首のまわりの白粉が艶めかしい、湯気が優しい、また右にきちんと洗顔具が置かれている。愛情が溢れている。



(2)上村松園 「人生の花」
 婚礼の日、母が嫁入りする娘の手を引いている。娘は緊張しているが、母は彼女の思っていることが分かっていてゆっくりと導いていこうと思っている。この絵を松園は親族の結婚式をモデルに描いた。そして自分は子のような結婚をしないと心に決めたという。
 その意志を確かめるためか、松園はほとんど同じ絵を3枚描いている。一番左が、今回見た名都美術館の絵で、右側2つが京都市美術館にある。(今回見た絵を確か京都でも見たと、調べてみてわかった。) 帯と母親が持っている包み、服の模様や濃淡は異なるが、構図はほぼ同様である。

 


 また多分この区分に入ると思ったが清方と松園がともに、西鶴五代女のお萬を対象とした絵を描いている。このお萬は男しか愛さない男を好きになったために男装の舞台衣装をしているが、その服装は舞台衣装としてまるっきり同じである。清方の4年後に松園が描いているが、美人画の双璧がケンカしているようで回りは、どう思ったのだろうか。絵自体は、松園のほうは宝塚の男役のようでかっこいいが、清方のほうは腰の定まらない女性が形だけ男の恰好をしたような絵だった。


・第3章:耳を澄ませば
 絵の中の美人の気持ちになって、耳を澄ませて絵の中の音を聴いてみましょうということ。伊藤深水の作品を紹介。

(1)伊藤深水 「囁き」
 貫禄のあるお姉さん芸妓さんに、繊細な舞妓さんがひそひそと耳打ちしています。芸妓さんがちらちらとこちらを見ているような・・・  こちらも気になって一生懸命耳を澄ませますよね。



(2)伊藤深水 「虫の音」
 物思いにふけっていると、いきなり近くの叢から、虫の音が・・・  眼で追っても見つけることができない。少し動くと鳴き止むけれども、じっとするとまた鳴きだす。悩むことは暫くやめて、この心地よい音に浸っていよう・・・




・第4章 芸事を味わう
 日本の芸事の精神性が美しく描かれていることを、受け取り味わいましょうということ。
(1)伊藤小坡 「茶の湯」
 茶道の中では、すべての所作を美しくしなければいけない。描かれているのは袱紗をたたんでいる所だが、緊張して畳んでいる。その緊張している感じが微笑ましく美しい。



(2)その他
 紹介できる写真がないが、伊東深水が香道で一心に香りを聞こうとする現代的な女性、その判断結果を待つ師匠の最終的な下絵が展示されていた。素描と部分的な色の確認がなされていたが、素描がキュビズムといってもいい線で、彩色される美人の基盤にこんな素描が隠されていることは、感慨深かった。深水の素描がいくつか紹介されていたが、洋画家そのものだった。



・第5章 季節を味わう
 美しい日本の四季、それを当たり前に味わうことを、このステイホームで忘れたのでは? 改めて日本人固有の風情をいとおしむ感覚を取り戻し、美人とともに自然美を堪能しましょうということ。ここも2点示す。

(1)上村松園 「わか葉」
 この美人は、髪の結い方から新婚そうそうの人らしい。(この辺りが、説明が
ないとわからない) 若葉を見ながら今後を夢見て幸せに浸っている様子が描かれている。



(2)鏑木清方 「初茸」
 美しい秋の山中のあふれる色彩の中で、秋の恵みである茸を得る幸せが日本にはかつてありました。私も田舎に住んでいましたが、秋の山は格別でした。




・その他
 月岡榮貴の「かぐや姫」は、スタジオジブリのアニメ映画の雰囲気に似ていると、私の配偶者は言った。私もそう思った。



3.終わりに
 3大美人画家といわれる 清方、松園、深水に、小坡を加えた4人の絵を比較鑑賞することができた。4人を比較しての印象は、下記である。
 松園:徹底した美人画家で、女性としての理想を求める。それが宝塚の男役であったりする
 小坡:家庭人として、生活に密着した優しさがある。女性としての感情を素直に美しく出している。
 清方:浮世絵から流れている江戸情緒の中で、美人を描いている。男目線で描いており、美しい健気なものだがひ弱だから大事にしなければという雰囲気がある。
 深水:絵画技術が高く、職人のようにいろいろな美人画を描くことができる人。洋風も取り入れ、その頃の現代(明治後期、大正)の雰囲気を取り入れた。

 個人的には小坡にとても興味を持った。絵画の同門の人と結婚し、娘3人をなし家事や子育てをしながらも、絵を書き続けた。そして夫を追い越して一気に有名画家となった。90歳没だそうだが、夫や娘たちとの関係はどのようなものだったのだろう。

コメント (2)
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