展示会名:印象派からその先へ
― 世界に誇る吉野石膏コレクション -
開催場所:名古屋市美術館
期間:2019.04.23~05.26
訪問日:5月17日
惹句:名画、名古屋で咲き誇る
概要
1章:印象派誕生 ~革新へと向かう絵画~
2章:フォーヴから抽象へ ~モダン・アートの諸相~
3章:エコール・ド・パリ ~前衛と伝統の狭間で~
山形美術館は寄贈に恵まれ、日本美術とフランス近代美術の充実したコレクションを持っている。フランス近代美術のコレクションは、吉野石膏からの寄贈と、それを継続する美術館自体の元館長服部氏の名前を持つコレクションによる。そのうち吉野石膏コレクションは印象派とその後に関わるものであり、主要な作者が揃っていて「世界に誇る」とされている。その評判を確認するために配偶者と出かけた。
そして、作品全体としては小粒だけれども確かに作者は揃っていて、印象派前後の流れを把握する教科書的展示にもなっており、とてもよかった。会場は混んでないこともゆっくり見ることができ好印象につながったが、もっと鑑賞に来るべきと思うし、山形県民は幸せだと思った。
以下、それぞれの章ごとに特に印象に残ったことを書いていく。
1章:印象派誕生 ~革新へと向かう絵画~
モネ、マネ、ミレー、コロー、シスレー、クールベ、ブーダン、ルノアール、ピサロ、ドガ、カサット、セザンヌ、そしてゴッホと、印象派の有名どころは揃っている。屋外の光の描き方を重要視した印象派だが、それぞれの画家の捉え方や描き方の違いがこれだけ揃っているとよくわかる。会場に入った時コローの作品がまず2点あり、それだけでこの展覧会に来てよかったと思った。
この展示ではモネとピサロが5点ずつあり、2人の作家の作風の変遷を辿ることができるとされている。
私がこの章で注目したのは、シスレーとルノアールのパステル画。
シスレーは風景の写生4点があったが、多分まとまった形で鑑賞したのは、初めてと思う。その4点の空の描き方がそれぞれ見事に違い、そして当然ながら風景の光の入り方も違っていて、もし自身で絵を描くならば教科書にしたいぐらいと思った。晴れから曇りの範疇だったが、この人の雨などの情景はどんな感じに描くのかとても興味がある。
下記は、彼の作品 「マントからショワジ・ル・ロワへの道」。 イメージ通りの典型的な印象派で安心するとともに、日本にないフランスの平地の広大さとそこに住む農家の人たちとの結びつきの強さを感じさせる。
一応強調されているモネとピサロのうち、ピサロの作品について書いておく。ピサロは印象派から展開するためにいろいろと試している。下記は「ロンドンのキューガーデン、大温室前の散歩道」。 印象派としてのその頃の新しい流れである点描で主要な風景部分を描いている。その中で歩いている人のみは流れるようなタッチで描いて動きのある効果を出しているのが面白い。
続いてルノアール。4点あり珍しく風景画もあるが、ここではやはりこの展示会でポスターにもなっている「シュザンヌ・アダン嬢の肖像」。
ポスターで見た時は、なぜこれが・・と、変な色彩と感じた。でも本物を見て納得。この絵はパステルで描かれていて、油絵のタッチでできる陰影がなく、色が素直に鮮やかで絵の表面をふわっとした光沢が覆っている。そのため顔の肌がいきいきしていて、眼のブルーの輝きも自然である。この辺りは現在の印刷技術ではカバーしきれない。髪はよく見られるルノアールの油絵のものと同様だが、直接見た感じではこのパステルのほうが軽やかで素敵だと思った。ルノアールは両者をどのように感じ、油絵を選択したのだろう。
パステルの絵として、ドガの踊り子の絵も展示されている「踊り子たち(ピンクと緑)」。
この絵ではスカートの柔らかな膨らみにパステルの魅力が溢れている。
2章:フォーヴから抽象へ ~モダン・アートの諸相~
この章では、印象派からキュビズムやフォービズム、抽象画への展開を示そうとしており、
ルオー、ボナール、マティス、マルケ、ブラマンク、ルソー、ブラック、ミロ、ピカソ、カンディンスキーが並んでいる。
ここで印象に残ったのは、マティスとミロ。
マティスは2点あるが、「静物、花とコーヒーカップ」を示す。
実はこんな風に周辺を印象派で囲んだ中で、マティスを意識して観たことはなかった。でもマティスの荒々しいタッチや独特の色彩も、セザンヌ等の印象派から流れているだと実感した。この絵は黄銅色の水差しの重厚感とその手前の黄色の湯飲みの黄色の軽やかさがいい。花弁の最小限のタッチでのリアリティもすごい。
ミロに関しては、抽象画に入る前の風景画っぽい絵が展示されている。
「シウラナ村」
とは言っても 風景画の中にキーとなる抽象的な線や形があり、それら抜き書きすればミロ風の抽象画になりそうという、とても面白い絵。ミロ本人は、この絵をどう評価するのだろう。
3章:エコール・ド・パリ ~前衛と伝統の狭間で~
パリの芸術に憧れて集まってきた異邦人たちが並んでいる。モダンアートの履歴を受けながらも印象派の原点に回帰し、それに異邦人としての個性的な表現の作風を確立した人たちである。
ここにはユトリロ、ローランサン、ドンゲン、キスリング、シャガールが並んでいる。特にシャガールが16点中10点もある。本来ならここに藤田も入るのだろう。
ここでは、キスリングとシャガールを取り上げる。
キスリングは、モンマルトルの帝王と呼ばれ成功し優雅に描いていたようである。
「背中を向けた裸婦」
思わず触りたくなるような背中の滑らかな肌、さあどうするのって覚悟を見透かす少し振り返った顔の眼、どきっとするし、人気も出るだろう。
シャガールは、恋人たちの絵や夢などロマンチックな絵、妻との死による別離などの絵が並べられている。妻の死によって絵をかけなくなった後復活し、亡くなる97歳まで作品に取り組んだとのこと。
「グランド・パレード」
これは93歳の絵。その年齢になってもこのようなロマンチックなテーマに取り組み、1.2m×1.3mのカンバスを色彩で埋め尽くすというパワーがどこから生まれるのか知りたい。
このコレクションは、ともかく印象派からその後の作者の作品を網羅的に集めているのが貴重。ミロやゴッホなど、その作者が評価される時期の作品ではなかったりするが、それでも美術史における印象派の役割、その中の各プレーヤーの活動を感じる一歩として役立つ。本当に山形県民は羨ましいし、松方コレクションや大原コレクション、そしてこのコレクションと、日本のために貴重な美術品を蒐集した人たちに頭が下がる。