希代の仏師「定朝」の生涯を描いた小説。澤田瞳子著。
定朝は仏を彫ることにためらいがあったが、比叡山の高僧隆範を通して仏を彫るということ
の意義を見つけ出すまでの波乱にとんだ生涯を描く。皇族、貴族の出世や
愛憎の交差する平安時代のなかで、三条天皇の敦明親王の悪行に手をやいた従妹の
中務(なかつかさ)が鎮めようとして命をおとした悲惨な死に顔に慈悲の心をみる。
これこそみ仏の心ではないか、すべての人々が持つこころの裡にこそみ仏は存在するのだと
会得する。み仏を作るということは人の心に秘められた仏性を探り、すべての人々にその
在処を告げ知らせる行為なのだと悟る。
終章のくだりは、息もつがさぬ展開で影響を与えた高僧隆範と門弟の死に息もつけない。
この山場で思わず活字が滲んでさきに進まない。
京都の宇治にある世界遺産の平等院の阿弥陀如来は彼の最後の最高傑作とされる。
この本を読んで今度同寺を訪れた時、甍に鳳凰が高らかに位置するのや
阿弥陀如来の面ざしをしっかりと拝したいと思った。そこから彼の苦悩や
達成感を感じられたらいい。